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三皿目 ろくろ首の母娘と水羊羹
その5 清美とアカリ
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暖簾を出すと、すぐに三十代くらいの母親らしき女性が、六歳くらいの女の子と一緒に入って来た。
「いらっしゃいませ!」
菜々美と蘭丸の元気な声がハーモニーのように重なった。蘭丸はデザインの仕事が落ち着いているそうで、最近はよくお店を手伝ってくれ、助かっている。
「……初めてのお客さんですね」
咲人がじっと母娘を見つめ、囁くように言うと、ぱっと母親の頬が朱色に染まった。
「ええ、そうなんです。永井清美といいます。この子は娘のアカリ。ここの和菓子が美味しいと噂で聞いたので」
「ありがとうございます。店内で召し上がることも、お持ち帰りもできます。こちらのショーケースの中からお好きなものをお選びください」
菜々美がそう説明すると、娘のアカリがにっこり微笑んだ。
「お店の中、涼しい。よかった。ここで食べて帰ろうよ、ママ」
アカリはTシャツを捲り上げ、パタパタ仰いでいる。
「あらまあ、アカリったらそんなに仰いで。お腹が見えて、お行儀が悪いわよ」
「だって暑かったもん。ママの車、冷房が壊れているから。窓を開けても、風が入らなくて、ムシムシしてたもん」
「はいはい、今度修理してもらうから」
そう言いながら、清美はショーケースを見つめ、ごくりと喉を鳴らした。
「どれも美味しそうですね。それじゃあ、『冷やしわらび餅』と『茹で小豆の葛プリン』を二個ずつ、こちらで食べます」
「かしこまりました。どうぞお好きな席にお座りください」
「ママ、この席に座ろう」
清美とアカリが、二人掛けのテーブル席に向かい合って座ると、小鬼の鬼之丞が、とたとたと近づいていく。
鬼之丞はお手伝いをしているつもりなのだろう。母娘の前で、ぺこりとお辞儀をする。
「いらったいまて! ボクは鬼之丞でしゅ」
「あら、可愛い。鬼族の……。あたしはろくろ首のあやかしで清美といいます。この子は娘のアカリです」
「キヨたんとアカたん? よろしく」
「まあ」
可愛い鬼之丞に、清美は両手を頬に当てた。アカリはそっと小鬼の頭を撫で、にっこり笑っている。
「いいなぁ。あたしも鬼之丞ちゃんみたいな弟がほしい。でも……うち、ママとあたし二人で、パパがいないから……」
「そうだわ。このお店は婚活の手伝いをしてくれると、噂で聞いたわ」
清美が問うと、鬼之丞はコクンと頷いた。
「そうでしゅ。このお店はコンカツもやってましゅ」
「ママ、コンカツって?」
アカリが首を傾げた。母親の清美が説明する。
「結婚相手を探すお手伝いをしてくれるの。いい人を紹介してくれたり、悩みを聞いてくれたり、サポートしてくれるよ」
「それじゃあ、ママに新しい結婚相手を見つけることもできるの?」
「うんっ。キヨたん、ケッコンしたいでしゅか?」
清美が恥ずかしそうに小さく頷いた。
「あ、それでは」
蘭丸が用紙を取り出した。身上書だ。
「よろしければ、こちらの用紙にご記入してもらえますか。婚活希望者の方に記入してもらっています。相手の種族とか住む場所とか、詳しいご希望とか」
清美は用紙に記入しようとして、じっと考えて手を止めた。
「すみません。やっぱり……自分で頑張ってみますわ。あたしは同じろくろ首の種族の夫と、一年前に離婚したんです。それからは事務の仕事をしながら、アカリと二人で暮らしているのですが、最近、付き合いはじめた男性がいるんです。彼はまだ、結婚する気はないと言ってますが……」
もじもじ両手を動かして、清美は照れながらそう言った。
「いらっしゃいませ!」
菜々美と蘭丸の元気な声がハーモニーのように重なった。蘭丸はデザインの仕事が落ち着いているそうで、最近はよくお店を手伝ってくれ、助かっている。
「……初めてのお客さんですね」
咲人がじっと母娘を見つめ、囁くように言うと、ぱっと母親の頬が朱色に染まった。
「ええ、そうなんです。永井清美といいます。この子は娘のアカリ。ここの和菓子が美味しいと噂で聞いたので」
「ありがとうございます。店内で召し上がることも、お持ち帰りもできます。こちらのショーケースの中からお好きなものをお選びください」
菜々美がそう説明すると、娘のアカリがにっこり微笑んだ。
「お店の中、涼しい。よかった。ここで食べて帰ろうよ、ママ」
アカリはTシャツを捲り上げ、パタパタ仰いでいる。
「あらまあ、アカリったらそんなに仰いで。お腹が見えて、お行儀が悪いわよ」
「だって暑かったもん。ママの車、冷房が壊れているから。窓を開けても、風が入らなくて、ムシムシしてたもん」
「はいはい、今度修理してもらうから」
そう言いながら、清美はショーケースを見つめ、ごくりと喉を鳴らした。
「どれも美味しそうですね。それじゃあ、『冷やしわらび餅』と『茹で小豆の葛プリン』を二個ずつ、こちらで食べます」
「かしこまりました。どうぞお好きな席にお座りください」
「ママ、この席に座ろう」
清美とアカリが、二人掛けのテーブル席に向かい合って座ると、小鬼の鬼之丞が、とたとたと近づいていく。
鬼之丞はお手伝いをしているつもりなのだろう。母娘の前で、ぺこりとお辞儀をする。
「いらったいまて! ボクは鬼之丞でしゅ」
「あら、可愛い。鬼族の……。あたしはろくろ首のあやかしで清美といいます。この子は娘のアカリです」
「キヨたんとアカたん? よろしく」
「まあ」
可愛い鬼之丞に、清美は両手を頬に当てた。アカリはそっと小鬼の頭を撫で、にっこり笑っている。
「いいなぁ。あたしも鬼之丞ちゃんみたいな弟がほしい。でも……うち、ママとあたし二人で、パパがいないから……」
「そうだわ。このお店は婚活の手伝いをしてくれると、噂で聞いたわ」
清美が問うと、鬼之丞はコクンと頷いた。
「そうでしゅ。このお店はコンカツもやってましゅ」
「ママ、コンカツって?」
アカリが首を傾げた。母親の清美が説明する。
「結婚相手を探すお手伝いをしてくれるの。いい人を紹介してくれたり、悩みを聞いてくれたり、サポートしてくれるよ」
「それじゃあ、ママに新しい結婚相手を見つけることもできるの?」
「うんっ。キヨたん、ケッコンしたいでしゅか?」
清美が恥ずかしそうに小さく頷いた。
「あ、それでは」
蘭丸が用紙を取り出した。身上書だ。
「よろしければ、こちらの用紙にご記入してもらえますか。婚活希望者の方に記入してもらっています。相手の種族とか住む場所とか、詳しいご希望とか」
清美は用紙に記入しようとして、じっと考えて手を止めた。
「すみません。やっぱり……自分で頑張ってみますわ。あたしは同じろくろ首の種族の夫と、一年前に離婚したんです。それからは事務の仕事をしながら、アカリと二人で暮らしているのですが、最近、付き合いはじめた男性がいるんです。彼はまだ、結婚する気はないと言ってますが……」
もじもじ両手を動かして、清美は照れながらそう言った。
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