あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

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三皿目 ろくろ首の母娘と水羊羹

その4 明と咲人

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「咲人くぅぅん、アタシ帰るからね。お別れのキスしてぇ」

 きつく眉根を寄せた咲人が、抱きついてきた明の腕を振りほどいた。

「開店準備中だ。明、配達が終わったら、さっさと店に帰ってくれ」
「ひどい、咲人くん! ひどいわ! 嫁に向かってそんな冷たい言葉を」
「誰が嫁だ。仕事の邪魔をするな」

 呆れたように言い放つ咲人に、明が「そんなぁ」としがみつく。夫婦漫才のようなやり取りを見ながら、菜々美は明の冷気に気づいていた。

「蘭丸さん、明さんは……」
「うん。彼は桂男のあやかしなんだよ」

 なるほど、と菜々美は思った。江戸時代の奇談集『絵本百物語』に記載がある桂男は、美男として知られている。

「明さんは、あの通り派手な外見で、女性からも男性からも人気があるんだよ。次々に恋人を変えて、来る者拒まず、去る者追わずという感じのプレーボーイなんだけど、咲人くんだけは特別みたいで、熱心に口説こうとしている。僕のこともライバルだと勝手に思い込んでいるし、菜々美ちゃんも敵対視されると思うから、気をつけて」
「ありがとうございます。私はスルーされてますから、大丈夫ですよ」

 二人の話が聞こえたようで、明が菜々美をビシッと指差して言った。

「あんたみたいなブス、咲人くんが相手にするわけがないでしょう! ライバルでもなんでもないわよっ。咲人くんはアタシのものなのっ」
「明、俺はお前と付き合うつもりはない」

 はっきり言った咲人に、明がヒィーーッと悲鳴に近い声を上げた。

「んまあ! アタシが男だから駄目なの?」
「違う。そうじゃない。俺は恋愛はしないと決めている」

 思わぬ言葉に、菜々美は息を呑んだ。

「れ、恋愛をしないと決めているって、どうして……?」

 思わず尋ねていた。咲人はゆっくりと菜々美の方を見た。

「俺は和菓子のことしか考えられない。恋人なんて必要ない。だからそういう期待をされるのは迷惑だ」

 冷やかな態度でそう言うと、咲人は厨房に戻ってこし餡作りに取りかかった。

「咲人くうぅぅん……っ、ああ、その和菓子を作っている姿が最高だわ」

 蘭丸が明の背中を叩く。

「ほら、明さん、お仕事もあるし、お父さんからまた電話がかかってきますよ」
「仕方ないわね……」

 明はしぶしぶ頷くと、片手で金髪をかき上げた。

「アタシ、諦めないからっ、いいわね蘭丸くん、咲人くんに手を出さないでっ」

 ビシッと蘭丸を指差し、持ってきた食材の段ボール箱を抱えて、ぱたぱたと帰って行った。

「咲人くんってさ、不思議な魅力があるでしょ? だからああやって、周囲から熱烈に言い寄られてるんだ。でも恋愛に興味はないみたいで……もったいないと思うんだけど」

 蘭丸がため息をついた。

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