あやかし甘味堂で婚活を

一文字鈴

文字の大きさ
30 / 78
三皿目 ろくろ首の母娘と水羊羹

その3 花宮商店の明

しおりを挟む
 彼の顔を見た途端、菜々美は安堵したが、それは目の前の金髪の男も同じだったようだ。

「咲人くうぅぅん! 会いたかったわぁぁ。ねえ、この地味でパッとしない女を雇ったって、本当なの?」
「……あきら、菜々美に対して、ちゃんと自己紹介したのか?」
「ま、まさか咲人くん、この女と結婚するつもりなの?」

 菜々美の心臓が音を立てて早まる。咲人は息をつき、眉間に手を当てた。

「そうじゃない。調理や多方面でいろいろサポートしてもらっている。地味とか失礼なことを言わないでくれ」
「ああっ、そうして静かに怒っている咲人くんも素敵だわ」
「明、地味とか悪口を言う前に、ちゃんと自己紹介しろと言っている」
「ぐぅっ。わかったわ、謝るから。アタシを嫌いにならないでね」

 呻き声を上げ、金髪の彼は菜々美へと左手を差し出した。

「どうも、花宮はなみや商店の花宮明よ。よろしくね」
「桃瀬菜々美です。よろしくお願いします」

 この『甘味堂夕さり』は、店長の咲人は見たことのないほど美麗な顔と長身で、バイトの蘭丸は色白でアイドルのような愛らしい雰囲気だ。
 常連客の瑠璃は女優のような美女で、食材を配達してくれたこの花宮明というこの男性も、おネエ言葉が気になるものの、端整な顔立ちで人気ホストのようだ。

(なんだか私、場違いなところにいる気がする……)

 そんなことを思っていると、明が苛立った声を上げる。

「ちょっとアンタ! 頼まれていた上用粉と糸寒天、それから大納言小豆と白小豆、上白糖と黒砂糖を持ってきたのよ。さっさと受け取りなさいよ」
「は、はい、ありがとうございます」

 伝票にサインをして、粉類と豆類の箱を厨房に入れていると、蘭丸がノートパソコンを抱えてやってきた。
 雪女の孫にあたるせいか、彼は涼しい服装をこを好み、今日も涼しげな半袖のTシャツにチェックの半ズボンという軽装だ。

「おはようございます、咲人くん、菜々美ちゃん。あれっ、明さんがいる。配達ですか? おはようございます。久しぶりですね」

 明の顔が強張り、キッと蘭丸を睨みつけた。

「ちょっと蘭丸くん、なにその色っぽい格好! 半ズボンなんて、半ズボンなんて……アタシの咲人くんに色仕掛けとかしてないでしょうね。許さないわよ!」

 小姑のように怒鳴る明に、無邪気な蘭丸は爽やかな笑顔を返す。

「暑い時は半ズボンがいいですよ。って言っても、膝まであるし、そんな目を三角にして怒らなくてもいいじゃないですか」
「ムッカーッ。まあいいわ。それより蘭丸くんのババアはどこよ? あの雪女、人間の夫が死んでから、あたしの咲人くんを狙っていることは知っているんだからっ」
「バアちゃんなら、仕事で人界へ行っていますよ。忙しいので少しの間、店に来られないって言ってました」
「やったわ! 今のうちに炎の結界を店の周囲に張り巡らせなきゃっ」
「何を言っている。他の客に迷惑だ。それにうるさい。開店準備の邪魔だ」
「ひどいわ、咲人くん! 恋人のアタシにいつも冷たい態度でっ。いいこと、蘭丸なんかの半ズボンにムラムラしちゃあダメよっ」
「誰が恋人だ。いい加減にしろ」

 菜々美を置いたまま、男三人で修羅場になりかけている。なんだろう、この疎外感は。
 ぽかんとなった菜々美は、テーブルの上のスマートフォンがブルブルと震えていることに気づいた。

「あの、どなたか、電話がかかってきているようです」
「アタシだわ。……なんだ、オヤジからだわ」

 明がスマートフォンをタップした。

「もーしも――し! オヤジ? 今取り込み中だから、後で電話する!」

 叫ぶように言って通話を切った明が、咲人に駆け寄った。
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

異世界に転移してしまった私、古民家をもらったのでカフェを始めたら大盛況。国王陛下が頻繁に来るのですが、どうしたらいいですか?

来栖とむ
ファンタジー
ブラック企業で疲れ果てた30歳の元OL・美里(みさと)が転移した先は、見渡す限りの深い森。 そこで彼女が授かったのは、魔女の称号……ではなく、一軒の**「日本の古民家」**だった! 亡き祖母が遺したその屋敷には、異世界では失われたはずの「お醤油」「お味噌」「白いお砂糖」という禁断の調味料が眠っていて――。 「えっ、唐揚げにそんなに感動しちゃうの?」 「プリン一口で、国王陛下が泣いちゃった……!?」 おにぎり、オムライス、そして肉汁溢れるハンバーグ。 現代日本の「当たり前」が、この世界では常識を覆す究極の美食に。 お掃除のプロな親子や、お忍びの王様、さらにはツンデレな宮廷料理人まで巻き込んで、 美味しい香りに包まれた、心もお腹も満たされるスローライフが今、始まります!

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

つまらない妃と呼ばれた日

柴田はつみ
恋愛
公爵令嬢リーシャは政略結婚で王妃に迎えられる。だが国王レオニスの隣には、幼馴染のセレスが“当然”のように立っていた。祝宴の夜、リーシャは国王が「つまらない妃だ」と語る声を聞いてしまい、心を閉ざす。 舞踏会で差し出された手を取らず、王弟アドリアンの助けで踊ったことで、噂は一気に燃え上がる――「王妃は王弟と」「国王の本命は幼馴染」と。 さらに宰相は儀礼と世論を操り、王妃を孤立させる策略を進める。監視の影、届かない贈り物、すり替えられた言葉、そして“白薔薇の香”が事件現場に残る冤罪の罠。 リーシャは微笑を鎧に「今日から、王の隣に立たない」と決めるが、距離を取るほど誤解は確定し、王宮は二人を引き裂いていく。 ――つまらない妃とは、いったい誰が作ったのか。真実が露わになった時、失われた“隣”は戻るのか。

【完結】辺境に飛ばされた子爵令嬢、前世の経営知識で大商会を作ったら王都がひれ伏したし、隣国のハイスペ王子とも結婚できました

いっぺいちゃん
ファンタジー
婚約破棄、そして辺境送り――。 子爵令嬢マリエールの運命は、結婚式直前に無惨にも断ち切られた。 「辺境の館で余生を送れ。もうお前は必要ない」 冷酷に告げた婚約者により、社交界から追放された彼女。 しかし、マリエールには秘密があった。 ――前世の彼女は、一流企業で辣腕を振るった経営コンサルタント。 未開拓の農産物、眠る鉱山資源、誠実で働き者の人々。 「必要ない」と切り捨てられた辺境には、未来を切り拓く力があった。 物流網を整え、作物をブランド化し、やがて「大商会」を設立! 数年で辺境は“商業帝国”と呼ばれるまでに発展していく。 さらに隣国の完璧王子から熱烈な求婚を受け、愛も手に入れるマリエール。 一方で、税収激減に苦しむ王都は彼女に救いを求めて―― 「必要ないとおっしゃったのは、そちらでしょう?」 これは、追放令嬢が“経営知識”で国を動かし、 ざまぁと恋と繁栄を手に入れる逆転サクセスストーリー! ※表紙のイラストは画像生成AIによって作られたものです。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

【大賞・完結】地味スキル《お片付け》は最強です!社畜OL、異世界でうっかり国を改革しちゃったら、騎士団長と皇帝陛下に溺愛されてるんですが!?

旅する書斎(☆ほしい)
ファンタジー
【第18回ファンタジー小説大賞で大賞をいただきました】→【規約変更で書籍化&コミカライズ「確約」は取り消しになりました。】 佐藤美佳子(サトウ・ミカコ)、享年28歳。死因は、過労。連日の徹夜と休日出勤の果てに、ブラック企業のオフィスで静かに息を引き取った彼女が次に目覚めたのは、剣と魔法のファンタジー世界だった。 新たな生を受けたのは、田舎のしがない貧乏貴族の娘、ミカ・アシュフィールド、16歳。神様がくれた転生特典は、なんと《完璧なる整理整頓》という、とんでもなく地味なスキルだった。 「せめて回復魔法とかが良かった……」 戦闘にも生産にも役立たないスキルに落胆し、今度こそは静かに、穏やかに生きたいと願うミカ。しかし、そんな彼女のささやかな望みは、王家からの突然の徴収命令によって打ち砕かれる。 「特殊技能持ちは、王宮へ出仕せよ」 家族を守るため、どうせ役立たずと追い返されるだろうと高をくくって王都へ向かったミカに与えられた任務は、あまりにも無謀なものだった。 「この『開かずの倉庫』を、整理せよ」 そこは、数百年分の備品や資材が山と積まれ、あまりの混沌ぶりに探検隊が遭難したとまで噂される、王家最大の禁足地。 絶望的な光景を前に、ミカが覚悟を決めてスキルを発動した瞬間――世界は、彼女の「お片付け」が持つ真の力に震撼することになる。 これは、地味スキルでうっかり国のすべてを最適化してしまった元社畜令嬢が、カタブツな騎士団長や有能すぎる皇帝陛下にその価値を見出され、なぜか過保護に甘やかされてしまう、お仕事改革ファンタジー。

大根令嬢の雑学無双、王弟殿下を添えて。~ 前世を思い出したので、許婚をほったらかして人助けしまくります!!

古森真朝
恋愛
気弱な伯爵令嬢のカレンは、自分勝手な婚約者レナートに振り回されていた。耐え続けていたある日、舞踏会で何者かに突き飛ばされ、階段から落ちてしまう。 その傷が元で儚く……なるかと思いきや。衝撃で前世を思い出したカレンは一転、かの『ド根性大根』みたいな超・ポジティブ人間になっていた。 『モラハラ婚約者の思惑なんぞ知るか!! 今度こそ好きなことやって、目いっぱい幸せに長生きするんだから!!!』 昔ひたすら読書に耽って身に着けた『雑学』を武器に、うっかり採れ過ぎた作物や、開墾しようとすると不幸に見舞われる土地、不治の病にかかった王族、等々の問題をどんどん解決。 領地の内外で心強い友人が出来たり、いつの間にかものすごく有名になっていたり、何かと協力してくれる王弟ヴィクトルから好意を寄せられたり(注:気付いてない)する中、温かい家族と共に仕事に励んでいく。 一方、前世から因縁のある人々もまた、こちらに転生していて――

【完結】冷酷伯爵ディートリヒは、去った妻を取り戻せない

くろねこ
恋愛
名門伯爵家に政略結婚で嫁いだ、正妻エレノア・リーヴェルト。夫である伯爵ディートリヒ・フォン・アイゼンヴァルトは、 軍務と義務を最優先し、彼女に関心を向けることはなかった。 言葉も、視線も、愛情も与えられない日々。それでも伯爵夫人として尽くし続けたエレノアは、ある一言をきっかけに、静かに伯爵家を去る決意をする。 ――そして初めて、夫は気づく。 自分がどれほど多くのものを、彼女から与えられていたのかを。 一方、エレノアは新たな地でその才覚と人柄を評価され、 「必要とされる存在」として歩き始めていた。 去った妻を想い、今さら後悔する冷酷伯爵。前を向いて生きる正妻令嬢。 これは、失ってから愛に気づいた男と、 二度と戻らないかもしれない夫婦の物語。 ――今さら、遅いのです。

処理中です...