ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 それからの貴重な時間を、俺たちはできる限り一緒に過ごした。1学期の残りの時間は中休みも昼休みもできるだけそうちゃんの傍にいたし、学校が終わればどちらかの家で一緒に宿題をし、離れている間の計画について何度も話した。夏休みに入るとほとんど毎日朝から夕方まで一緒にいた。

 そして、8月の上旬。

「いやーん本当に行っちゃうのねー。寂しくなるわー」
「本当ですね。でも子どもたちもこんなに仲良しなんだし、これからもよろしくお願いします」
「もちろんよー。今まで本当にお世話になりました。ほら、樹、そうちゃんにご挨拶して」

 そうちゃんちの車の運転席には先にそうちゃんのお父さんが乗り、俺たち母子の別れの挨拶が済むのを待ってくれている。あれだけ大丈夫だから、また絶対に会えるからと何度もそうちゃんと話したのに、この期に及んで俺はまだ現実を受け入れられずにいた。

「……………………。」

 俯いてこらえきれない涙をボロボロと零す俺の目の前で、そうちゃんもまたヒックヒックと泣きじゃくりながら何度も顔を手で拭っていた。

「いっ、くんっ……、いっくん……」
「ほら、颯太、そろそろ行くから…。…大丈夫よ、二人とも。ちゃんと連絡は取れるんだからね」
「そうよ!いつまでも泣いてないで、元気出しなさい!…滝宮さん、たまにはこっちに遊びに来てね、そうちゃんと一緒に」
「はい、ありがとうございます。ぜひ。うちにもいらしてくださいね」

 二人の母の最後の会話が始まった。俺も必死で声を絞り出す。

「…そう、ちゃん、……絶対、ぜっっったい、……て、がみっ……、……っ、……ひ」
「うんっ、……うんっ……」

 そうちゃんはびしょびしょの顔で何度も首を縦に振ってくれた。

「必ず書かせるからね。大丈夫よ、いっくん。…颯太にずっと優しくしてくれて、ありがとう」

 おばちゃんの言葉が心強かった。

 結局ろくに別れの言葉も言えないまま、そうちゃんは車に乗って行ってしまった。俺は車が見えなくなるまで泣きながらずっと見送った。そうちゃんちの赤い車は点のように小さくなり、やがて遠くの角を曲がって見えなくなってしまった。

 俺はマンションの階段を駆け上がり、部屋に入ると大声を上げて泣いた。体が引き裂けるほどにわんわんと泣いた。もういない。いつも隣にいたのに。そうちゃん。そうちゃん。
 元気でいてね。離れていても、絶対に忘れないよ。俺は誰よりもそうちゃんが大好きなんだ。必ずまた会えるから。どこにいても、俺は会いに行くからね。同じ高校に行くし、大人になったらいっぱい自分で会いに行く。
 そうちゃん。そうちゃんも、ずっと同じ気持ちでいて───


 俺の喪失感は半端じゃなかった。毎日見ていたそうちゃんの顔が見られないことは、覚悟していた以上に寂しく辛いものだった。
 心に大きな穴をぽっかりと開けたまま、それでもどうにか残りの夏休みを過ごした。両親はいろいろなところに連れて行ってくれた。すっかり元気のなくなった俺の気を紛らわせようとしてくれたのだろう。新学期になりまた学校生活が始まり、友達と走り回り、ふざけて笑い合い、時々先生に怒られ、そんな日常をこなしていった。
 毎日毎日そうちゃんのことを考えた。手紙、まだかな。新しい住所が分からないと、こっちから手紙が出せない。お母さんに「そうちゃんのおばちゃんに電話して」「住所聞いて」「そうちゃんの写真送ってもらって」と急かしても、

「もぉ~、しつこい!ちょっと待ってなさいよ!あちらはお引っ越ししたばかりでいろいろと忙しいの!そんなに樹にばっかり構ってられないのよ!」

と怒られた。俺が唇を噛みしめてじんわりと涙ぐむと母は慌てて俺を宥める。

「大丈夫だってば。そうちゃんも新しい学校に馴染んで落ち着いた頃には絶対にお手紙くれるから。もう少し待ってなさいよ。きっともうすぐ来るから。ね?」
「…………。」

 そのうち9月も下旬となり、俺は毎日不安でたまらなくなった。何で手紙くれないの?そうちゃん。絶対にくれるって言ったのに。まさか…、もう忘れちゃったの?俺のこと。ううん、まさか。そんなわけない。俺はこんなにそうちゃんのことばかり考えているのに。
 離れているとこんなに不安になるものなのだと、俺は初めて知った。毎日寝る前に祈った。明日こそ、明日こそ絶対に手紙が来ますように。神様どうかお願いします。俺勉強頑張るから。手紙が来たら、毎日たくさん勉強します。もっと家のお手伝いもします。友達とケンカになった時にもう叩いたりしません。お願いしますお願いしますお願いします…………。

 そして、10月も間近のある日。

「ただいまー」

 俺が学校から帰って玄関に入り靴を脱いでいると、母が楽しそうに言った。

「おかえりー樹。待ちに待ったものが届いてるわよ~」
「……、えっ?!」

 俺はドキッとした。靴も揃えずに慌ててリビングに駆け込む。
 母が右手に手紙を持ってヒラヒラと振っていた。

「そうちゃんからよ」
「……っ!…やったぁぁぁ!!」


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