ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

文字の大きさ
5 / 63

5.

しおりを挟む
 俺は母から手紙を奪い取ると慌てて封をビリビリと破る。

「こら!ちょっと!もう少し丁寧に開けなさいよ!中のお手紙破れちゃったらどうするの!」

 母の声にハッとして、俺は手紙を母に渡す。

「あ、あけて、お母さん」
「まったく…」

 母はハサミを使って丁寧に残りの部分を開けると、俺に手紙を返してくれた。俺は自分の部屋に駆け込みドアを閉めると、ドキドキしながら中身を取り出す。

『いっくんへ

 いっくん、元気にしていますか?ぼくは元気です。
 あたらしい学校にもだいぶなれたよ。友だちもできました。でもいっくんに会いたくてさびしいよ。
 ぼくは毎日本を読んでいます。いっくんはなにをして遊んでいますか?お手がみちょうだいね。

              颯太より』

 俺はその日のうちに何十回もその手紙を読み返した。嬉しくて嬉しくて叫び出したい気持ちだった。よかった!そうちゃんはちゃんと俺のこと覚えててくれた。俺に会いたくて寂しいって。俺もだよそうちゃん。俺も会いたいよ。
 その日は宿題もほっぽり出してそうちゃんに返事を書いた。

『そうちゃんへ

 元気でよかった。ぼくも元気だよ。まいにち外でサッカーとかしてるよ。やきゅうもしてるよ。そうちゃんにあいたいよ。またいっしょにあそぼうね。またてがみかいてねぜったいかいてね!!いつき』

「あんた!またそんな汚い字で書いて!そうちゃんを見習いなさいよ!こんなんじゃ読めないわよ!」

 母はプリプリ怒っていたが、俺はお構いなしだった。

「絶対すぐ出してよお母さん!いつ出しに行く?今から?」
「明日!あんたが学校行ってる間にポストに出しとくから安心して宿題しなさいっ!」

 それからは毎月のように手紙を出し合った。時々そうちゃんのお母さんからラインでそうちゃんの写真を送ってもらっては、母のスマホをぶん取りいつまでも眺めていた。写真のそうちゃんを見るたびに胸がぎゅうっとなって、心臓がドキドキと高鳴った。俺の写真も何度も送ってもらった。もっともっと送れとせがみ、母を怒らせた。

 3年生、4年生、5年生と、そうやって毎日を過ごし、長期休みに入るとたまに母子4人でそうちゃんと会わせてもらえることもあった。半年に1回ぐらい、そうちゃんとおばちゃんがうちに遊びに来たり、逆にうちがそうちゃんちの新しいマンションに遊びに行ったり。そうちゃんに会うたびに、どんどんそうちゃんが大人っぽくなっていく気がして俺はドキドキしていた。
 でもそうちゃんの中身は変わらなかった。高学年になっても相変わらず大人しくて、控えめで、優しくて。俺の話を聞いてはクスクスと笑い、俺が尋ねると少し自分のことも話してくれた。
 俺たちはどんどん違うタイプに育っていって、それなのに不思議とずっと仲良しだった。同じクラスにいても絶対に別のグループにいそうな俺たちなのに、何故だか二人でいると居心地が良くて、そうちゃんもそう感じているのだとはっきり分かるほどに、俺たちはしっくりくる関係だった。



「ねー、いいじゃんかー!買ってよスマホぐらい!ねーえー!!」
「うるさい!あんたにはまだ早い!必要ないでしょうが、母さんいつも家にいるのに」
「じゃあもうパートに行けよおかん!俺留守番大丈夫だからさー。スマホ買ってよー!スマホー!」

 ボカッ!!

 小6にもなると、俺はスマホスマホとねだり始めた。確かに俺にスマホは必要なさそうなものだったが、一刻も早く好きなときにそうちゃんと話ができるツールが欲しかった。

「颯太と電話したいんだよー。いいじゃんか!もうクラスの皆も持ってるよ!ほぼ全員持ってる!」
「嘘つくんじゃないっ!このバカ!リッちゃんちもミリちゃんちも、ごうくんちもゆうきくんちも、まだ持たせてないって言ってたわよ!母さんをなめるな!!」

(…………ちっ)

 コミュ力の高い母はやたらとママ友が多かった。どうにか上手く誤魔化してスマホを買ってもらおうと思ったのに、学年の情報は筒抜けだった。

「それに肝心のそうちゃんちも、まだスマホなんて持たせてないのよ。残念ながらね」
「えっ?そうなの?!颯太持ってないのぉ?」

 この頃の俺はそうちゃんのことを颯太と呼ぶようになっていた。なんとなく、そうちゃん呼びが恥ずかしくなってきた頃だった(ちなみに母親のことはおかん)。

「そうよー。残念でしたー」

 母は俺の魂胆をお見通しだった。俺はガッカリした。なんだ…。颯太と直接話せないんなら、まだ持っても意味がないや。

「それにしても、まさかこんなに長くずっと友達でいるなんて思わなかったわ。正直引っ越してしばらくしたらお互いに新しい友達に夢中になってすっかり忘れちゃうと思ってたのに」
「んなわけないじゃん。何言ってんだよおかん」
「ふふ」

 そんなわけない。颯太のことを忘れるなんて。颯太は別格なんだ。友達はみんな好きだけど、あいつは他の友達とは全く違う。ほとんど家族みたいなものなんだ。家が離れてこんなに何年も経っても、いまだに颯太に会いたくてたまらない日がある。今が小6か。あと約4年。4年我慢すれば、また颯太と一緒の学校に行けるんだ。会いたくてたまらない日はそうやって先の楽しみを考えた。

 小6の夏休みにまた母に連れて行ってもらって颯太のマンションに行った。母親同士がリビングでぺちゃくちゃと喋っている間に、俺たちは颯太の部屋にいた。初めて颯太の前で「颯太」と呼んでみた。颯太は目を見開いた。

「…なんで急に“颯太”なの?」
「や、だってなんか“そうちゃん”じゃ恥ずかしいじゃんか。ガキみたいだろ」

 ガキの俺は堂々と言った。

「…そう?」
「うん。颯太ももう“いっくん”じゃなくて“樹”って呼べよ」
「えぇ…。…なんかそっちの方が恥ずかしい…」

 気まずそうに目を逸らして少し耳たぶを赤らめた颯太はなんとなく色っぽくて、俺まで変にドキドキしてきた。颯太は、男にこんな表現するのもおかしいのかもしれないけど、会うたびにどんどん綺麗になっていた。伏し目になった長い睫毛をじっと見つめながら、俺は言った。

「ほら、言ってみろよ、いつきって」
「……。」
「ほら。せーの、はい」
「…………。」
「ひひ。何照れてんだよ。せーの」
「……いつき」

 颯太が上目遣いで恥ずかしそうに小さく俺の名前を呟いた。その顔を見た途端、俺は無性に胸の中がむず痒いような、嬉しいような、叫び出したくなるような、形容し難い妙な感情が沸いてくるのだった。



 秋には修学旅行があった。
 旅行先のホテルでの夜。同室のクラスの男子全員が布団を敷いて寝る体勢になった後で、好きな人は誰なのかを白状する祭りが始まった。俺はやたらと皆から絡まれた。

「なー、誰だよ立本の好きなヤツは」
「だからいねーってマジで」
「げー」
「もったいねー」

 仲間たちが口々に言う。

「お前めっちゃモテるじゃねーかよー」
「中川も木下も、境もお前のこと好きらしいぞ」
「あと弓野と森本も」

 クラスの女子の名が次々出てくる。

「んなこと言われても…。俺マジで誰のこともそんなに」
「えーーマジかよー」
「絶対ウソだろー」
「本当のこと言えや!」

 俺はほとほと困った。本当にクラスの女子に全く興味なんてなかったからだ。「好きな人誰だ」と聞かれて俺が真っ先に頭に思い浮かべたのは、颯太だった。

(ふ。俺マジで颯太のこと好きすぎるだろ)

 我ながら可笑しくて一人で笑っていると、

「おい!!何で笑ってんだよ立本!」
「ほら見ろ!やっぱり隠してんじゃねーか!」
「さっさと言え!誰だよ!!」

と周りの男子が見当違いなことを言って一斉に騒ぎ始めたのだった。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

義兄が溺愛してきます

ゆう
BL
桜木恋(16)は交通事故に遭う。 その翌日からだ。 義兄である桜木翔(17)が過保護になったのは。 翔は恋に好意を寄せているのだった。 本人はその事を知るよしもない。 その様子を見ていた友人の凛から告白され、戸惑う恋。 成り行きで惚れさせる宣言をした凛と一週間付き合う(仮)になった。 翔は色々と思う所があり、距離を置こうと彼女(偽)をつくる。 すれ違う思いは交わるのか─────。

イケメン俳優は万年モブ役者の鬼門です

はねビト
BL
演技力には自信があるけれど、地味な役者の羽月眞也は、2年前に共演して以来、大人気イケメン俳優になった東城湊斗に懐かれていた。 自分にはない『華』のある東城に対するコンプレックスを抱えるものの、どうにも東城からのお願いには弱くて……。 ワンコ系年下イケメン俳優×地味顔モブ俳優の芸能人BL。 外伝完結、続編連載中です。

わがまま放題の悪役令息はイケメンの王に溺愛される

水ノ瀬 あおい
BL
 若くして王となった幼馴染のリューラと公爵令息として生まれた頃からチヤホヤされ、神童とも言われて調子に乗っていたサライド。  昔は泣き虫で気弱だったリューラだが、いつの間にか顔も性格も身体つきも政治手腕も剣の腕も……何もかも完璧で、手の届かない眩しい存在になっていた。  年下でもあるリューラに何一つ敵わず、不貞腐れていたサライド。  リューラが国民から愛され、称賛される度にサライドは少し憎らしく思っていた。  

【BL】正統派イケメンな幼馴染が僕だけに見せる顔が可愛いすぎる!

ひつじのめい
BL
αとΩの同性の両親を持つ相模 楓(さがみ かえで)は母似の容姿の為にΩと思われる事が多々あるが、説明するのが面倒くさいと放置した事でクラスメイトにはΩと認識されていたが楓のバース性はαである。  そんな楓が初恋を拗らせている相手はαの両親を持つ2つ年上の小野寺 翠(おのでら すい)だった。  翠に恋人が出来た時に気持ちも告げずに、接触を一切絶ちながらも、好みのタイプを観察しながら自分磨きに勤しんでいたが、実際は好みのタイプとは正反対の風貌へと自ら進んでいた。  実は翠も幼い頃の女の子の様な可愛い楓に心を惹かれていたのだった。  楓がΩだと信じていた翠は、自分の本当のバース性がβだと気づかれるのを恐れ、楓とは正反対の相手と付き合っていたのだった。  楓がその事を知った時に、翠に対して粘着系の溺愛が始まるとは、この頃の翠は微塵も考えてはいなかった。 ※作者の個人的な解釈が含まれています。 ※Rシーンがある回はタイトルに☆が付きます。

相性最高な最悪の男 ~ラブホで会った大嫌いな同僚に執着されて逃げられない~

柊 千鶴
BL
【執着攻め×強気受け】 人付き合いを好まず、常に周囲と一定の距離を置いてきた篠崎には、唯一激しく口論を交わす男がいた。 その仲の悪さから「天敵」と称される同期の男だ。 完璧人間と名高い男とは性格も意見も合わず、顔を合わせればいがみ合う日々を送っていた。 ところがある日。 篠崎が人肌恋しさを慰めるため、出会い系サイトで男を見繕いホテルに向かうと、部屋の中では件の「天敵」月島亮介が待っていた。 「ど、どうしてお前がここにいる⁉」「それはこちらの台詞だ…!」 一夜の過ちとして終わるかと思われた関係は、徐々にふたりの間に変化をもたらし、月島の秘められた執着心が明らかになっていく。 いつも嫌味を言い合っているライバルとマッチングしてしまい、一晩だけの関係で終わるには惜しいほど身体の相性は良く、抜け出せないまま囲われ執着され溺愛されていく話。小説家になろうに投稿した小説の改訂版です。 合わせて漫画もよろしくお願いします。(https://www.alphapolis.co.jp/manga/763604729/304424900)

【完結】少年王が望むは…

綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
 シュミレ国―――北の山脈に背を守られ、南の海が恵みを運ぶ国。  15歳の少年王エリヤは即位したばかりだった。両親を暗殺された彼を支えるは、執政ウィリアム一人。他の誰も信頼しない少年王は、彼に心を寄せていく。  恋ほど薄情ではなく、愛と呼ぶには尊敬や崇拝の感情が強すぎる―――小さな我侭すら戸惑うエリヤを、ウィリアムは幸せに出来るのか? 【注意事項】BL、R15、キスシーンあり、性的描写なし 【重複投稿】エブリスタ、アルファポリス、小説家になろう、カクヨム

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

染まらない花

煙々茸
BL
――六年前、突然兄弟が増えた。 その中で、四歳年上のあなたに恋をした。 戸籍上では兄だったとしても、 俺の中では赤の他人で、 好きになった人。 かわいくて、綺麗で、優しくて、 その辺にいる女より魅力的に映る。 どんなにライバルがいても、 あなたが他の色に染まることはない。

処理中です...