ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 俺は母から手紙を奪い取ると慌てて封をビリビリと破る。

「こら!ちょっと!もう少し丁寧に開けなさいよ!中のお手紙破れちゃったらどうするの!」

 母の声にハッとして、俺は手紙を母に渡す。

「あ、あけて、お母さん」
「まったく…」

 母はハサミを使って丁寧に残りの部分を開けると、俺に手紙を返してくれた。俺は自分の部屋に駆け込みドアを閉めると、ドキドキしながら中身を取り出す。

『いっくんへ

 いっくん、元気にしていますか?ぼくは元気です。
 あたらしい学校にもだいぶなれたよ。友だちもできました。でもいっくんに会いたくてさびしいよ。
 ぼくは毎日本を読んでいます。いっくんはなにをして遊んでいますか?お手がみちょうだいね。

              颯太より』

 俺はその日のうちに何十回もその手紙を読み返した。嬉しくて嬉しくて叫び出したい気持ちだった。よかった!そうちゃんはちゃんと俺のこと覚えててくれた。俺に会いたくて寂しいって。俺もだよそうちゃん。俺も会いたいよ。
 その日は宿題もほっぽり出してそうちゃんに返事を書いた。

『そうちゃんへ

 元気でよかった。ぼくも元気だよ。まいにち外でサッカーとかしてるよ。やきゅうもしてるよ。そうちゃんにあいたいよ。またいっしょにあそぼうね。またてがみかいてねぜったいかいてね!!いつき』

「あんた!またそんな汚い字で書いて!そうちゃんを見習いなさいよ!こんなんじゃ読めないわよ!」

 母はプリプリ怒っていたが、俺はお構いなしだった。

「絶対すぐ出してよお母さん!いつ出しに行く?今から?」
「明日!あんたが学校行ってる間にポストに出しとくから安心して宿題しなさいっ!」

 それからは毎月のように手紙を出し合った。時々そうちゃんのお母さんからラインでそうちゃんの写真を送ってもらっては、母のスマホをぶん取りいつまでも眺めていた。写真のそうちゃんを見るたびに胸がぎゅうっとなって、心臓がドキドキと高鳴った。俺の写真も何度も送ってもらった。もっともっと送れとせがみ、母を怒らせた。

 3年生、4年生、5年生と、そうやって毎日を過ごし、長期休みに入るとたまに母子4人でそうちゃんと会わせてもらえることもあった。半年に1回ぐらい、そうちゃんとおばちゃんがうちに遊びに来たり、逆にうちがそうちゃんちの新しいマンションに遊びに行ったり。そうちゃんに会うたびに、どんどんそうちゃんが大人っぽくなっていく気がして俺はドキドキしていた。
 でもそうちゃんの中身は変わらなかった。高学年になっても相変わらず大人しくて、控えめで、優しくて。俺の話を聞いてはクスクスと笑い、俺が尋ねると少し自分のことも話してくれた。
 俺たちはどんどん違うタイプに育っていって、それなのに不思議とずっと仲良しだった。同じクラスにいても絶対に別のグループにいそうな俺たちなのに、何故だか二人でいると居心地が良くて、そうちゃんもそう感じているのだとはっきり分かるほどに、俺たちはしっくりくる関係だった。



「ねー、いいじゃんかー!買ってよスマホぐらい!ねーえー!!」
「うるさい!あんたにはまだ早い!必要ないでしょうが、母さんいつも家にいるのに」
「じゃあもうパートに行けよおかん!俺留守番大丈夫だからさー。スマホ買ってよー!スマホー!」

 ボカッ!!

 小6にもなると、俺はスマホスマホとねだり始めた。確かに俺にスマホは必要なさそうなものだったが、一刻も早く好きなときにそうちゃんと話ができるツールが欲しかった。

「颯太と電話したいんだよー。いいじゃんか!もうクラスの皆も持ってるよ!ほぼ全員持ってる!」
「嘘つくんじゃないっ!このバカ!リッちゃんちもミリちゃんちも、ごうくんちもゆうきくんちも、まだ持たせてないって言ってたわよ!母さんをなめるな!!」

(…………ちっ)

 コミュ力の高い母はやたらとママ友が多かった。どうにか上手く誤魔化してスマホを買ってもらおうと思ったのに、学年の情報は筒抜けだった。

「それに肝心のそうちゃんちも、まだスマホなんて持たせてないのよ。残念ながらね」
「えっ?そうなの?!颯太持ってないのぉ?」

 この頃の俺はそうちゃんのことを颯太と呼ぶようになっていた。なんとなく、そうちゃん呼びが恥ずかしくなってきた頃だった(ちなみに母親のことはおかん)。

「そうよー。残念でしたー」

 母は俺の魂胆をお見通しだった。俺はガッカリした。なんだ…。颯太と直接話せないんなら、まだ持っても意味がないや。

「それにしても、まさかこんなに長くずっと友達でいるなんて思わなかったわ。正直引っ越してしばらくしたらお互いに新しい友達に夢中になってすっかり忘れちゃうと思ってたのに」
「んなわけないじゃん。何言ってんだよおかん」
「ふふ」

 そんなわけない。颯太のことを忘れるなんて。颯太は別格なんだ。友達はみんな好きだけど、あいつは他の友達とは全く違う。ほとんど家族みたいなものなんだ。家が離れてこんなに何年も経っても、いまだに颯太に会いたくてたまらない日がある。今が小6か。あと約4年。4年我慢すれば、また颯太と一緒の学校に行けるんだ。会いたくてたまらない日はそうやって先の楽しみを考えた。

 小6の夏休みにまた母に連れて行ってもらって颯太のマンションに行った。母親同士がリビングでぺちゃくちゃと喋っている間に、俺たちは颯太の部屋にいた。初めて颯太の前で「颯太」と呼んでみた。颯太は目を見開いた。

「…なんで急に“颯太”なの?」
「や、だってなんか“そうちゃん”じゃ恥ずかしいじゃんか。ガキみたいだろ」

 ガキの俺は堂々と言った。

「…そう?」
「うん。颯太ももう“いっくん”じゃなくて“樹”って呼べよ」
「えぇ…。…なんかそっちの方が恥ずかしい…」

 気まずそうに目を逸らして少し耳たぶを赤らめた颯太はなんとなく色っぽくて、俺まで変にドキドキしてきた。颯太は、男にこんな表現するのもおかしいのかもしれないけど、会うたびにどんどん綺麗になっていた。伏し目になった長い睫毛をじっと見つめながら、俺は言った。

「ほら、言ってみろよ、いつきって」
「……。」
「ほら。せーの、はい」
「…………。」
「ひひ。何照れてんだよ。せーの」
「……いつき」

 颯太が上目遣いで恥ずかしそうに小さく俺の名前を呟いた。その顔を見た途端、俺は無性に胸の中がむず痒いような、嬉しいような、叫び出したくなるような、形容し難い妙な感情が沸いてくるのだった。



 秋には修学旅行があった。
 旅行先のホテルでの夜。同室のクラスの男子全員が布団を敷いて寝る体勢になった後で、好きな人は誰なのかを白状する祭りが始まった。俺はやたらと皆から絡まれた。

「なー、誰だよ立本の好きなヤツは」
「だからいねーってマジで」
「げー」
「もったいねー」

 仲間たちが口々に言う。

「お前めっちゃモテるじゃねーかよー」
「中川も木下も、境もお前のこと好きらしいぞ」
「あと弓野と森本も」

 クラスの女子の名が次々出てくる。

「んなこと言われても…。俺マジで誰のこともそんなに」
「えーーマジかよー」
「絶対ウソだろー」
「本当のこと言えや!」

 俺はほとほと困った。本当にクラスの女子に全く興味なんてなかったからだ。「好きな人誰だ」と聞かれて俺が真っ先に頭に思い浮かべたのは、颯太だった。

(ふ。俺マジで颯太のこと好きすぎるだろ)

 我ながら可笑しくて一人で笑っていると、

「おい!!何で笑ってんだよ立本!」
「ほら見ろ!やっぱり隠してんじゃねーか!」
「さっさと言え!誰だよ!!」

と周りの男子が見当違いなことを言って一斉に騒ぎ始めたのだった。



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