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俺たちは中学生になった。
入学式の日、ブカブカの学ランがすげぇ嫌で俺は不機嫌に体育館の席に座っていた。なんだこれ。すげぇダサい。恥ずかしい。いいかんじのサイズのやつを毎年買い替えてくれよおかん!と言ったらガツンとゲンコツされた。最近はゲンコツの勢いもひどい。前はもっと優しかった気がする。
入学式の次の日から、やたらと女の先輩たちにチヤホヤされるようになった。俺を見るためにわざわざ休み時間に教室の窓際にやって来る人たちもいた。
「ほら!あの子あの子」
「ほんとだー!えー、めっちゃカッコいいじゃん」
「何だっけ?名前」
「立本樹くんだよ。たちもといつき」
「立本くーん」
「ねぇ彼女とかいるのー?」
「きゃはははは」
キャイキャイ言いながら無遠慮にこっちを指差してジロジロ見たり手を振ってきたりする。クラスの中で浮いてしまいそうでものすごく居心地が悪い。先輩たちが見に来たりするもんだからクラスの連中が引いている。誰も俺に近寄って来ずに、遠巻きにヒソヒソしている。頼むからやめてくれ。下手したら友達ができないじゃないか。上級生だと思うと無視することもできずに俺は曖昧にぺこりと頭を下げる。するとまたキャーッと黄色い声が上がった。
元々小学校からの仲間も何人もいたし、持ち前のコミュ力を発揮してどうにかクラスに馴染むことはできたが、2週間もするといきなり知らない3年生から告られた。誰か知らないがめちゃくちゃ可愛い人だった。
「立本くんって彼女いるの?」
突然呼び出されたかと思うとそんなことを言われ、俺は戸惑った。いやいや…ついこないだまで俺小学生だったんだけど。や、そりゃいるヤツはいるけどさ、小学生でも彼氏だの彼女だの。俺はまだ全くそういうのには興味がなかった。俺の興味の対象は遊びとスポーツと颯太だけだった。
「……や、いない、です……はい」
やけに垢抜けた可愛い年上の人を目の前にして俺は緊張してもごもごと返事をする。こういうタイプの人と喋ったことがなかった。まごついた俺の様子を見て、先輩は自信満々にこう言った。
「そっかー。…あのさ、…あのね。よかったらなんだけど…、私と付き合わない?」
「…………。え、っとぉ……」
だから……何故?何故そうなる?全く知らない人じゃんかお互いに。バカなガキの俺でもうっすら分かった。おそらくこの人は俺のことをただ自分のステータスの一つに加えたいのだろうと。学校一可愛くてイケてて、しかも彼氏はカッコよくて皆にキャーキャー騒がれてた新入生。自分で言うのもなんだけど。うわぁ…なんかすげぇ嫌だ。でも経験不足の俺は上手い断り文句を思いつかない。入学早々に3年の女の先輩を泣かせたりしたら、俺虐められるんじゃないか?3年の男の人たちに。どうすればいいんだ。
何て答えたらいいのか分からず黙っていると、先輩は俺が照れているとでも思ったのか、自分の都合のいいように解釈したらしい。
「じゃあ決まりね。今日から立本くんは、私の彼氏。ね?」
「……。」
入学して2週間で、年上の彼女ができてしまった。
中学生たちは人の色恋話が大好きな生き物だ。俺とその可愛い先輩とのことは次の日には学校中に知れ渡った。
すげーすげーと囃し立ててくる友達。ヒソヒソと俺を遠巻きに見ながら何やら話している女子。すれ違いざまに露骨に舌打ちしてくる男の先輩。俺はあっという間に学校の中で有名人になった。
俺は困っていた。“彼女”になった先輩に全く興味が湧かない。それよりも友達と遊びたいし、部活に打ち込みたい。俺はサッカー部に入部していた。
でも先輩は毎日俺のクラスまでやって来ては俺を引っ張り出して二人きりになりたがる。昼休みは弁当を食べ終わる頃必ず来るし、放課後は俺の部活が終わるのを待って一緒に帰りたがる。正直面倒くさくてたまらなかった。だけど入学したての1年坊主の俺にはまだこの人を邪険にする勇気は出なかった。
「ねぇ、今日ね、うち親いないんだ。…少し寄って帰る?」
ある日の帰り道、先輩にそう言われた。
「はぁ…、はい」
俺は深く考えずに返事をした。先輩は嬉しそうに微笑みながら俺の腕に手を回してきた。
先輩のうちは俺のマンションからそんなに離れていなかった。二階建ての一軒家だ。先輩は俺を引っ張るようにして半ば強引に玄関の中に入れると、二階に上がるように指示する。
「お、おじゃましまぁす…」
親のいない女の先輩のうちに勝手に上がり込む。俺はなんとなくビクビクしながら先輩に従った。
部屋の中はいかにも女の子って感じの雰囲気で、ぬいぐるみやガーランドで可愛らしく飾られていた。なんだかすごく場違いな所に迷い込んでしまった気分で居心地が悪い。
「いっくん、座って」
先輩に促され、ベッドの横のラグの床に並んで座る。それからしばらく盛り上がらない会話をした。全然楽しくなくて早く帰りたい。途中で先輩が言う。
「ねぇ、何でいつまでも先輩って呼ぶの?彩音って呼んでよ」
「えっ、あぁ、…すんません」
「呼んで」
「……あやね」
「ふふっ。いいかんじ。嬉しい」
先輩は可愛らしく首を傾けて微笑む。きっとこんなかんじの仕草で同級生とか次々に落としまくってきたんだろうな。
しばらくすると、唐突に先輩が言った。
「ねぇ、…いっくんって、キスとかしたことあるの?」
……え?
入学式の日、ブカブカの学ランがすげぇ嫌で俺は不機嫌に体育館の席に座っていた。なんだこれ。すげぇダサい。恥ずかしい。いいかんじのサイズのやつを毎年買い替えてくれよおかん!と言ったらガツンとゲンコツされた。最近はゲンコツの勢いもひどい。前はもっと優しかった気がする。
入学式の次の日から、やたらと女の先輩たちにチヤホヤされるようになった。俺を見るためにわざわざ休み時間に教室の窓際にやって来る人たちもいた。
「ほら!あの子あの子」
「ほんとだー!えー、めっちゃカッコいいじゃん」
「何だっけ?名前」
「立本樹くんだよ。たちもといつき」
「立本くーん」
「ねぇ彼女とかいるのー?」
「きゃはははは」
キャイキャイ言いながら無遠慮にこっちを指差してジロジロ見たり手を振ってきたりする。クラスの中で浮いてしまいそうでものすごく居心地が悪い。先輩たちが見に来たりするもんだからクラスの連中が引いている。誰も俺に近寄って来ずに、遠巻きにヒソヒソしている。頼むからやめてくれ。下手したら友達ができないじゃないか。上級生だと思うと無視することもできずに俺は曖昧にぺこりと頭を下げる。するとまたキャーッと黄色い声が上がった。
元々小学校からの仲間も何人もいたし、持ち前のコミュ力を発揮してどうにかクラスに馴染むことはできたが、2週間もするといきなり知らない3年生から告られた。誰か知らないがめちゃくちゃ可愛い人だった。
「立本くんって彼女いるの?」
突然呼び出されたかと思うとそんなことを言われ、俺は戸惑った。いやいや…ついこないだまで俺小学生だったんだけど。や、そりゃいるヤツはいるけどさ、小学生でも彼氏だの彼女だの。俺はまだ全くそういうのには興味がなかった。俺の興味の対象は遊びとスポーツと颯太だけだった。
「……や、いない、です……はい」
やけに垢抜けた可愛い年上の人を目の前にして俺は緊張してもごもごと返事をする。こういうタイプの人と喋ったことがなかった。まごついた俺の様子を見て、先輩は自信満々にこう言った。
「そっかー。…あのさ、…あのね。よかったらなんだけど…、私と付き合わない?」
「…………。え、っとぉ……」
だから……何故?何故そうなる?全く知らない人じゃんかお互いに。バカなガキの俺でもうっすら分かった。おそらくこの人は俺のことをただ自分のステータスの一つに加えたいのだろうと。学校一可愛くてイケてて、しかも彼氏はカッコよくて皆にキャーキャー騒がれてた新入生。自分で言うのもなんだけど。うわぁ…なんかすげぇ嫌だ。でも経験不足の俺は上手い断り文句を思いつかない。入学早々に3年の女の先輩を泣かせたりしたら、俺虐められるんじゃないか?3年の男の人たちに。どうすればいいんだ。
何て答えたらいいのか分からず黙っていると、先輩は俺が照れているとでも思ったのか、自分の都合のいいように解釈したらしい。
「じゃあ決まりね。今日から立本くんは、私の彼氏。ね?」
「……。」
入学して2週間で、年上の彼女ができてしまった。
中学生たちは人の色恋話が大好きな生き物だ。俺とその可愛い先輩とのことは次の日には学校中に知れ渡った。
すげーすげーと囃し立ててくる友達。ヒソヒソと俺を遠巻きに見ながら何やら話している女子。すれ違いざまに露骨に舌打ちしてくる男の先輩。俺はあっという間に学校の中で有名人になった。
俺は困っていた。“彼女”になった先輩に全く興味が湧かない。それよりも友達と遊びたいし、部活に打ち込みたい。俺はサッカー部に入部していた。
でも先輩は毎日俺のクラスまでやって来ては俺を引っ張り出して二人きりになりたがる。昼休みは弁当を食べ終わる頃必ず来るし、放課後は俺の部活が終わるのを待って一緒に帰りたがる。正直面倒くさくてたまらなかった。だけど入学したての1年坊主の俺にはまだこの人を邪険にする勇気は出なかった。
「ねぇ、今日ね、うち親いないんだ。…少し寄って帰る?」
ある日の帰り道、先輩にそう言われた。
「はぁ…、はい」
俺は深く考えずに返事をした。先輩は嬉しそうに微笑みながら俺の腕に手を回してきた。
先輩のうちは俺のマンションからそんなに離れていなかった。二階建ての一軒家だ。先輩は俺を引っ張るようにして半ば強引に玄関の中に入れると、二階に上がるように指示する。
「お、おじゃましまぁす…」
親のいない女の先輩のうちに勝手に上がり込む。俺はなんとなくビクビクしながら先輩に従った。
部屋の中はいかにも女の子って感じの雰囲気で、ぬいぐるみやガーランドで可愛らしく飾られていた。なんだかすごく場違いな所に迷い込んでしまった気分で居心地が悪い。
「いっくん、座って」
先輩に促され、ベッドの横のラグの床に並んで座る。それからしばらく盛り上がらない会話をした。全然楽しくなくて早く帰りたい。途中で先輩が言う。
「ねぇ、何でいつまでも先輩って呼ぶの?彩音って呼んでよ」
「えっ、あぁ、…すんません」
「呼んで」
「……あやね」
「ふふっ。いいかんじ。嬉しい」
先輩は可愛らしく首を傾けて微笑む。きっとこんなかんじの仕草で同級生とか次々に落としまくってきたんだろうな。
しばらくすると、唐突に先輩が言った。
「ねぇ、…いっくんって、キスとかしたことあるの?」
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