ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 俺は打ちひしがれた。そうちゃんが行ってしまう。そうちゃんはずっと俺の傍にいなきゃいけないのに。大きくなっても、おじいちゃんになってもずっとずっと一緒のはずなのに。夏休みも少しも楽しみではなくなった。その日はそれから何も食べられず、夜通し泣きじゃくり、次の日初めて学校を休んだ。
 典型的わんぱく坊主だった俺が一気に元気も食欲もなくし、父と母は大いに心配した。そうちゃんとはこれからも連絡は取れるんだよ、手紙を書けばいい、お母さんのラインからそうちゃんのお母さんに写真を送ったりもできるよ、…いろいろな言葉で俺を励ました。

「……でも……、もう一緒に学校に行けないんでしょ……」

 俺は泣きすぎてガサガサになった声を絞り出す。

「…そ、そうねぇ……。まぁ、でも、……ねぇ」
「……あぁ。大丈夫だ、樹。そんなに落ち込むことはないよ。二人がもっと大きくなれば、いつかお互いに自分のスマホを持つだろ?そしたらまたいくらでも連絡取れるじゃないか」
「そうよ!それまではたくさんお手紙書いたらいいのよ。それに、もしかしたら高校で再会したりするかもよ」
「そうだな、そうちゃんと同じ高校に通うことになるかもしれないぞ。そしたらまたクラスメイトになれる可能性だってあるじゃないか」

 父と母からすればその場しのぎの慰めだったはずだ。とにかく息子の気を紛らわせようと。幼い子どものことだ、そのうちすぐに忘れてまた他の友達と元気に遊ぶだろうと。
 でもその時の俺には父の言葉はそんな単純なものではなかった。唯一縋り付くことができる希望の光のような言葉だった。またクラスメイトになれる?こうこう?

「何?それ。そうちゃんとまた同じ学校に通えるようになるの?いつ?いつから?」

 俺が目を輝かせて食いついてきたので、父は少しホッとしたように話した。

「樹とそうちゃんが小学校を卒業したら、次は中学校に通うんだ。その中学校を卒業したら今度は高校に通う。高校は隣の市に住んでる子とも同じところに通えるんだよ」
「ふふ。まぁ学力次第だけどね。そうちゃんがとってもお勉強できる子で、樹が全然お勉強できない子になっちゃったら、もう同じ学校には通えないのよ~」

 母は茶化すようにそう言った。

「おいっ、それはいいだろ、今は黙っとけよ」

 父が慌てて人差し指を口元にあてるジェスチャーをして母を咎める。

「ごめんごめん。つまりお勉強もしっかり頑張りながら大きくなったら、またそうちゃんと同じ学校に通えるかもしれないってことよ」
「…………。」

 そうか。そうなのか。もっと大きくなったらまたそうちゃんと一緒の学校に行けるんだ。
 悲しくてたまらなかったが、とにかく今はその時まで我慢するしかないらしい。…大丈夫だ。俺とそうちゃんは絶対にまた一緒にいられるようになる。そういう運命だ。

 一日たっぷり落ち込んで次の日学校に行くと、俺はそうちゃんにこれから先の大事な計画を伝えた。昼休みに外で遊ばず、二人きりになった教室の中でそうちゃんと真剣に話し合う。どうすればまた俺たちが一緒にいられるようになるのかを。この計画を成功させるには、そうちゃんの協力が必要不可欠だ。適当な席に向かい合って座る。

「そうちゃん、俺、将来そうちゃんと同じ高校に通うから」
「こうこう…?」
「そう。俺たちが小学校を卒業したら次は中学校だろ?そこも卒業したら、今度は高校に通うんだ。」
「…ふーん…」

 そうちゃんはよく分からないような不思議そうな顔をしながらも静かに俺の話を聞いてくれる。

「だから、それまでの辛抱なんだ。しばらくは離れることになるけど、また絶対に会えるんだ。今より大きくなったら、また同じ学校に通えるんだよ」
「……うん」

 そうちゃんの顔が明るくなる。目がキラキラして、ほっぺたが少し赤い。俺は一生懸命今後の計画を話す。

「それまでの間は、二人でいっぱい手紙を書こう。そしたら全然寂しくないから。あと、お母さんに時々写真を送ってもらったりするんだ。うちのお母さんがそうちゃんのおばちゃんにラインで送ってくれるって。だから全然寂しくないんだ。小学校も中学校も、どうせすぐに終わるし。だから大丈夫」
「うんっ」

 そうちゃんは俺を見つめてニコニコしている。俺は本当は少しも大丈夫じゃなかった。寂しくて寂しくてたまらなかった。でもそうちゃんを安心させたかったし、俺も自分に言い聞かせたかった。こんなの大したことじゃないと。
 話しながら、必死で泣くのを我慢していた。

「だからさ、そうちゃん…。俺にちゃんと、手紙書いてくれる?」
「うんっ、絶対に書くよ」
「…本当に?」
「うん」
「ずっと、何回も、書いてくれる?」
「うん。書くよ」
「……、……は、離れても、……俺のこと、忘れない?」
「絶対忘れない!いっくんが一番大好きだもん」

 その言葉を聞いた途端、張り詰めていたものが弾けて、俺の目から涙がボロボロと零れ出した。突然しゃくり上げて泣き出した俺にそうちゃんはびっくりして、固まったまま俺をじっと見つめていた。そのうちに俺と一緒にポロポロと涙を落として泣き出した。俺はヒクヒクとしゃくり上げながら、そうちゃんの両手をしっかりと握る。

「お、おれもっ、……だっ、……だっ……、大好きだよ、そうちゃん……っ」
「……っく、……うっ……」
「ずっとずっとっ……い、……いちばん、だよ……。絶対に絶対に、ひっ、…ひっく……。おれ、あ、会いに行ぐがらっ……、わ、忘れないで……、ぜった…」

 その時。
 そうちゃんは立ち上がって、俺のほっぺたにキスをした。ほんの一瞬、とても優しくて柔らかい感触が、俺の頬に触れた。

(…………え)

 頭が真っ白になる。その直後、叫び出したくなるような喜びが胸いっぱいにぶわぁっと溢れてきた。嬉しさと気恥ずかしさで、息が詰まる。

「……忘れない。絶対。…大丈夫だよ、いっくん」

 大人しくて物静かなそうちゃんの方がよほどしっかりしているように見えた。俺を励ますために、涙をこらえて唇をギュッと引き結んで、俺の目を見つめながら、そうちゃんはそう言った。



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