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「受験票ある?ちゃんと持ってるの?」
「持ってるってもう何回言ったよ。ほら、ここ入ってるから」
玄関で靴を履いた俺は自分のコートのポケットをパンパン叩きながらおかんに答える。できるだけ俺の前で平静を装おうとしていた両親だが、実は二人とも毎日必死の形相で小さな神棚に手を合わせていたことを知っている。結局最後の模試でも、A高の合格判定は70%以上。最後まで悔いが残らないように死に物狂いで勉強したけど、結局合格率90%以上の一番いい判定をとることは一度もなかった。
「…んじゃ、行ってくるから」
「うん。…途中で寝るんじゃないよ!しっかり最後まで頑張って!」
「ここまで来て誰が寝るかよ!……なぁ、おかん」
「ん?」
どうしても行く前に伝えておきたいけど、こっぱずかしくて顔が見れない。自分の足元を見ながら、ボソボソと言いたいことを伝える。
「ありがとね。…まるっきり受かりそうにない公立、受けること許してくれてさ。毎日夜食も、ありがとう。感謝してる」
「…っ!!な、何よ急に!バカ!ほら、早く行きなさい!…絶対大丈夫だから。自分を信じて。落ち着いてね」
少し目を赤くしたおかんに背中をバシッと叩かれた。
「ん。行ってきまーす」
泣いても笑っても、今日で全てが決まる。この日のために10ヶ月、何もかもを投げ打って全身全霊で頑張ってきた。悔いはない。限界までやったと言い切れる。たぶん俺の人生でこんなに勉強することはもうない。絶対にない。揺るがない目標があったからここまでやって来れたんだ。しくじるわけにはいかない。
A高校に着いて他の受験生たちに混じって門をくぐり、俯いたまま黙々と教室まで歩く。自分の受験番号を確認して、席に座る。…颯太の姿は見当たらない。まぁできるだけ周囲を見ないようにして来たから、たぶんいたとしても俺は気付いていない。颯太の顔を今見てしまったら絶対に浮かれて気持ちがふにゃっとしてしまう。とりあえずこの教室にはいないようだから、あいつは別の教室で受けるのだろう。
この同じ建物の中に、今颯太もいるんだ。二人で同じ目標に向かって今から全力を注ぐんだ。そう思うだけで勇気が湧いてくる。
最後の悪あがきで直前まで復習し、しっかり集中して全ての教科の試験を終えた。
試験が終わったら素早く教室を出て、脇目も振らずに真っ直ぐ帰った。そのまま部屋にこもり、そしてひたすら祈った。神様、俺はこの10ヶ月やりきりました。俺がアホなばっかりに準備が遅すぎてたった10ヶ月しか勉強していませんが……それでもその10ヶ月、全精力を注ぎ込みました。どうか颯太との3年間を俺にください。お願いしますお願いしますお願いします……。
あ、そうだ。もう解禁だ。
スマホを充電し電源を入れた。
颯太に電話したいけど…。どうするべきか。このままもう合否が分かるまで待つべきか。うーん…。颯太もう帰ってるかな…。
俺が悩んでいると、突然手の中のスマホが鳴り始めた。俺はビクッと跳びはねる。……颯太だ!
何かを考えるより先に体が反応し、シュバッと耳に当てる。
「もっ!……もしもし」
『樹、お疲れさま』
…はぁぁぁぁ……。颯太の声だぁ……。感極まってジーンとする。
「…おー、お疲れ。…久しぶりだな」
『ん。電源入ってるかなぁと思って早速かけちゃった』
「早ぇな。今入れたとこだったよ」
『ふふ』
あぁ、声聞いたら会いたくてたまらなくなる。クスクス笑うその声で、颯太のあの可愛い笑顔が思い浮かんでくる。
『…どうだった?試験』
「んー…、たぶん、結構できた…気がする…」
『ほんと?!』
颯太の声が分かりやすく弾む。
「や、分からんけど」
『どっちだよ。ふふ』
「そういうお前はどうなんだよ」
『俺の執念をバカにしないでよ。樹のことだけを考えて、ずっと頑張ってきたんだから』
(……えっ?!)
突然ドキッとすることを言われて心臓が音を立てる。…な、なんか今の言い回し、なんかすごい……、テンション上がるんですけど。樹のことだけを考えて…って…、何だよそれ。
露骨に動揺してしまい、上手い返事を思いつかない。
「…はは、すげー熱烈な愛の告白だな」
『ふふ。…………うん』
(……?!……“うん”?!“うん”ってなんだ“うん”って!!)
……いやいや、アホか俺は。深い意味はない、いつもの冗談だろこんな会話。本番が終わった安心感で早速アホが復活してしまっている。
『ねぇ、…A高の合格発表ってウェブでも見られるみたいだけどさ、…せっかくだから高校で一緒に見ない?』
「えっ、……おぉ、そうだな」
『そしたらどっちか落ちててもすぐに慰め合えるでしょ』
「ははっ。だな。お前明らかに俺を慰める気でいるだろ。信じてねーなさては、俺の合格を」
『そんなわけない。信じてるよ。ホントはすぐに抱き合って喜びたいだけ』
「……っ、」
……なんでそんなに可愛いことを言うんだ、お前は。嬉しすぎてデレッとしてしまう。体が蕩けそうだ。
「…そうだな。そうしよう」
『うん』
ほぼ1年ぶりに話すこいつがあまりにも可愛いことばかり言うもんだから胸が高鳴り、俺もつい気持ちが素直に言葉に出てしまう。
「…早く会いてぇよ」
『……っ。…うん、お、俺も……』
「…………。」
…やっぱりなんか、久しぶりに話す颯太、すげぇ可愛い…。
あぁ、マジでお願いします神様!抱き合えますように!抱き合えますようにー!!颯太を思いっきり抱きしめたいんだ俺は!!
「持ってるってもう何回言ったよ。ほら、ここ入ってるから」
玄関で靴を履いた俺は自分のコートのポケットをパンパン叩きながらおかんに答える。できるだけ俺の前で平静を装おうとしていた両親だが、実は二人とも毎日必死の形相で小さな神棚に手を合わせていたことを知っている。結局最後の模試でも、A高の合格判定は70%以上。最後まで悔いが残らないように死に物狂いで勉強したけど、結局合格率90%以上の一番いい判定をとることは一度もなかった。
「…んじゃ、行ってくるから」
「うん。…途中で寝るんじゃないよ!しっかり最後まで頑張って!」
「ここまで来て誰が寝るかよ!……なぁ、おかん」
「ん?」
どうしても行く前に伝えておきたいけど、こっぱずかしくて顔が見れない。自分の足元を見ながら、ボソボソと言いたいことを伝える。
「ありがとね。…まるっきり受かりそうにない公立、受けること許してくれてさ。毎日夜食も、ありがとう。感謝してる」
「…っ!!な、何よ急に!バカ!ほら、早く行きなさい!…絶対大丈夫だから。自分を信じて。落ち着いてね」
少し目を赤くしたおかんに背中をバシッと叩かれた。
「ん。行ってきまーす」
泣いても笑っても、今日で全てが決まる。この日のために10ヶ月、何もかもを投げ打って全身全霊で頑張ってきた。悔いはない。限界までやったと言い切れる。たぶん俺の人生でこんなに勉強することはもうない。絶対にない。揺るがない目標があったからここまでやって来れたんだ。しくじるわけにはいかない。
A高校に着いて他の受験生たちに混じって門をくぐり、俯いたまま黙々と教室まで歩く。自分の受験番号を確認して、席に座る。…颯太の姿は見当たらない。まぁできるだけ周囲を見ないようにして来たから、たぶんいたとしても俺は気付いていない。颯太の顔を今見てしまったら絶対に浮かれて気持ちがふにゃっとしてしまう。とりあえずこの教室にはいないようだから、あいつは別の教室で受けるのだろう。
この同じ建物の中に、今颯太もいるんだ。二人で同じ目標に向かって今から全力を注ぐんだ。そう思うだけで勇気が湧いてくる。
最後の悪あがきで直前まで復習し、しっかり集中して全ての教科の試験を終えた。
試験が終わったら素早く教室を出て、脇目も振らずに真っ直ぐ帰った。そのまま部屋にこもり、そしてひたすら祈った。神様、俺はこの10ヶ月やりきりました。俺がアホなばっかりに準備が遅すぎてたった10ヶ月しか勉強していませんが……それでもその10ヶ月、全精力を注ぎ込みました。どうか颯太との3年間を俺にください。お願いしますお願いしますお願いします……。
あ、そうだ。もう解禁だ。
スマホを充電し電源を入れた。
颯太に電話したいけど…。どうするべきか。このままもう合否が分かるまで待つべきか。うーん…。颯太もう帰ってるかな…。
俺が悩んでいると、突然手の中のスマホが鳴り始めた。俺はビクッと跳びはねる。……颯太だ!
何かを考えるより先に体が反応し、シュバッと耳に当てる。
「もっ!……もしもし」
『樹、お疲れさま』
…はぁぁぁぁ……。颯太の声だぁ……。感極まってジーンとする。
「…おー、お疲れ。…久しぶりだな」
『ん。電源入ってるかなぁと思って早速かけちゃった』
「早ぇな。今入れたとこだったよ」
『ふふ』
あぁ、声聞いたら会いたくてたまらなくなる。クスクス笑うその声で、颯太のあの可愛い笑顔が思い浮かんでくる。
『…どうだった?試験』
「んー…、たぶん、結構できた…気がする…」
『ほんと?!』
颯太の声が分かりやすく弾む。
「や、分からんけど」
『どっちだよ。ふふ』
「そういうお前はどうなんだよ」
『俺の執念をバカにしないでよ。樹のことだけを考えて、ずっと頑張ってきたんだから』
(……えっ?!)
突然ドキッとすることを言われて心臓が音を立てる。…な、なんか今の言い回し、なんかすごい……、テンション上がるんですけど。樹のことだけを考えて…って…、何だよそれ。
露骨に動揺してしまい、上手い返事を思いつかない。
「…はは、すげー熱烈な愛の告白だな」
『ふふ。…………うん』
(……?!……“うん”?!“うん”ってなんだ“うん”って!!)
……いやいや、アホか俺は。深い意味はない、いつもの冗談だろこんな会話。本番が終わった安心感で早速アホが復活してしまっている。
『ねぇ、…A高の合格発表ってウェブでも見られるみたいだけどさ、…せっかくだから高校で一緒に見ない?』
「えっ、……おぉ、そうだな」
『そしたらどっちか落ちててもすぐに慰め合えるでしょ』
「ははっ。だな。お前明らかに俺を慰める気でいるだろ。信じてねーなさては、俺の合格を」
『そんなわけない。信じてるよ。ホントはすぐに抱き合って喜びたいだけ』
「……っ、」
……なんでそんなに可愛いことを言うんだ、お前は。嬉しすぎてデレッとしてしまう。体が蕩けそうだ。
「…そうだな。そうしよう」
『うん』
ほぼ1年ぶりに話すこいつがあまりにも可愛いことばかり言うもんだから胸が高鳴り、俺もつい気持ちが素直に言葉に出てしまう。
「…早く会いてぇよ」
『……っ。…うん、お、俺も……』
「…………。」
…やっぱりなんか、久しぶりに話す颯太、すげぇ可愛い…。
あぁ、マジでお願いします神様!抱き合えますように!抱き合えますようにー!!颯太を思いっきり抱きしめたいんだ俺は!!
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