ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 スマホを見つめたまま、俺は深い溜息をつく。
 進路の話をしてから数日、突然来た樹からのライン。あれ以来、本当に樹からの連絡は一切なくなってしまった。

「……。」

 気が遠くなるほどに長い長い時間が経った気がするけれど、まだ秋になったばかりだった。
 もう何十回、いや何百回と見た最後のラインをまた開く。

『1年間、電話もラインもお預けだ。勉強に専念するために、もう受験が終わるまで連絡するのはやめる。部活もやめた。残りの時間全部使って絶対にA高に合格してみせるから。信じて待っててくれよ。お前も頑張れ。俺だけ受かってお前だけ落ちるなよ!』

 樹がどれほど真剣に受験に取り組んでいるのかが分かるから、邪魔するわけにはいかない。それが半分は俺のためだってことも分かっているからなおさら…。
 でも、1年なんて。長すぎるよ。せめて……、せめて月に1回だけでも、電話する日があったっていいじゃないか。普段頑張ってるご褒美に。月に1回、ほんの10分、5分だけでも……。
 はぁ、とまた溜息が漏れる。寂しい。寂しくてたまらない。声が聞きたい。会えなくてもいいから、我慢するから、せめて時々でも、声を聞かせてほしい。
 一度だけ、夏の終わりに我慢できずにドキドキしながら電話をかけてみたことがある。元気にしてる?勉強どう?頑張ってる?俺も頑張ってるよー。…心の中で何度も、こんな風に何気ない言葉をかけようと、少しだけ話したらすぐに切ろうと思っていたのに、コール音さえ鳴らなかった。たまたまなのか、ずっと電源入れてないのか。声さえ聞けなかったショックで、その日は食事も喉を通らなかった。

 ……ダメだ、せっかく樹がこんなに頑張ってるんだ。本当に俺だけが落ちたらもう顔向けできない。ちゃんと集中して勉強しなきゃ。そう思って俺は再びノートにペンを走らせる。

「…………、……はぁ」

 また溜息が出て、思わず両手で顔を覆った。
 1年って、とてつもなく長い。



「よし!よくやったじゃねぇか立本!!立本ぉ!!」
「や、先生……、たかが模試ですよ、まだ受かったわけじゃ…」
「何がたかが模試だてめぇ!バカだったくせに調子に乗りやがって!よかったじゃねぇか!!おい!!」

 口の悪い担任は褒めてるのかけなしてるのかよく分からない口調で興奮しながら俺の背中をバッシバシ叩いてくる。痛いんですけど…。
 この冬の塾の全校模試で、ついに俺は過去最高の偏差値を叩き出したたのだ。A高校は70%以上の確率で合格ラインという判定だ。我ながら信じられない。よくここまで来たもんだ。

「お、お前…っ、ただの顔がいいだけのバカだと思ってたのに…、頭の悪いクソ生意気なリア充野郎だと…、」
「先生、ひでぇよ」
「やればできるヤツだったんだなぁ…。マジで感動したよ、俺は。……なんで今まで頑張らなかったんだよ逆に。はぁ…」

 先生はそう言うと、我に返ったようにすごい目力で俺を真正面から睨みつけながら、俺の両肩をわしっと握った。痛い。

「……ぜっったいにここで気を抜くなよ、立本。最後までこのまま突っ走れ。あと2ヶ月もねぇんだ。まだまだ全然安心できねぇんだからな」
「わ、分かってますよ、もちろん」
「よし!なら今すぐ帰って勉強しろ!いつまでここにいるつもりだてめぇ!行け!帰れ!」
「……うす。失礼しまーす……」
 
 興奮して情緒がおかしい担任に頑張れよー!と後ろから声をかけられながら学校を後にした。俺以上に盛り上がっている。うちの親みたいだ。

 さみーな外は。死に物狂いで勉強ばっかりしているうちにもう年末になろうとしていた。……颯太のヤツ、元気にしてるかな。あいつのことだから勉強は問題ないだろうけど、体調崩してないか心配だ。
 …早く会いたい。もうここまで来たんだから電話ぐらいしてもいい気がするんだけど、…なんか今ふにゃっと気を抜いてしまうのは良くない気がする。俺的に。
 せっかくここまで来たんだ。もうあと2ヶ月。今腑抜けになるわけにはいかない。やめておこう。合格発表の日まで、我慢するんだ。

 マンションの前まで颯太のことを考えながら歩いて帰ってきた時、ふと視界の右端に颯太の姿が見えた気がした。……え?俺は慌ててそっちを向く。
 ……誰もいない。
 
「……いるわけねーか……。はぁ」

 ついに禁断症状で頭がおかしくなってきた…。幻覚っぽいものまで見え始めたのか。ヤバい。頑張れ俺。あと少し。あと少しなんだ。気合いを入れろ気合いを。合格発表の日にめいっぱいあいつを抱きしめてやる。思いっきり。あくまで幼なじみのノリで。それぐらいのご褒美はいいだろう。
 とっくに限界を越えている頭の中で自分に言い聞かせながらマンションに入った。


「………………っ!」

 あ、あっぶなぁい……。もう少しで見られるところだった……。
 マンション近くの曲がり角にある自販機の陰に隠れて、俺は口元を押さえて何度も深呼吸をした。
 こんなにも長いこと連絡もとれず、寂しくて寂しくて、ついに寂しさに耐えきれずこんなストーカーまがいのことをしてしまった。マンションの前まで勝手にやって来て、待ち伏せしてしまった。…何してるんだろう、俺。

「…………ふぅ…」

 心臓がうるさい。久しぶりに樹の姿を見ることができて、叫び出したいくらいに嬉しかった。相変わらずカッコよかった…樹…。
 うん。元気そうでよかった。それが分かっただけでも充分。俺も帰って勉強しよう。
 …またね、樹。…頑張って。俺も樹を信じて、最後まで頑張るよ。
 俺はバス停に向かって静かに歩き始めた。


(………………い、いやいやいや…、マジか……)

 マンションの3階に上がって玄関前の通路から、なんとなく気になって下の通りを覗いてみた。

 ……幻覚じゃねぇじゃん。来てんじゃん!颯太!
 バス停のほうにてくてく歩いて行く颯太の後ろ姿が見えなくなるまで、黙って上から見送る。姿が見えなくなった後、俺は真っ赤になった顔を覆ってその場にズルズルとへたり込んだ。

 ……か、……かんわい~い……

 えぇ?なに?なんであいつあんなに可愛いことすんの?俺に会いに来たんだよな?絶対そうだよな?!他にここにいる理由ねぇもんな?!
 俺は悶絶した。ヤバい。可愛すぎる、颯太。俺に会えなくて、連絡できなくて寂しいから、わざわざここまで来てくれたんだよな?!そういうことですよね?!神様!はぁぁぁ~やめてくれ!!そんな健気なことされたら抱きしめたくなるから!!
 心ゆくまで悶えのたうち回った俺は、深呼吸して立ち上がる。自分の頬を思いっきりバチンとひっぱたいた。よし。もういい。ご褒美タイム終了だ。ありがとう、颯太。みなぎってきた。気を付けて帰れよ。

 俺は気合いを入れ直して玄関のドアを開けた。
 頑張ろうな、お互いに。



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