ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

文字の大きさ
34 / 63

34.

しおりを挟む
 待ちに待った合格発表当日。俺はそわそわしながらA高の校門前で颯太を待っていた。やっと……、やっと顔が見られる……!この日をどれだけ待ったか。いやでももし俺が落ちてたら一気に気まずい雰囲気になる上に颯太にめちゃくちゃ気を遣わせ、そして落ち込ませるんだろうな…。すげえドキドキする。

「樹!」
「……っ!」

 声がした方を振り向くと、颯太が満面の笑みで真っ直ぐこっちに向かって駆けてくる。……はぁぁ……可愛い~ぃ……、俺の颯太……。やっと会えたぁぁぁ……。

「よ、よぉ。もう受かったみてーな顔してるじゃねぇか」
「だって!やっと樹に会えたんだもん!」

 キュン。
 やめてくれその笑顔でそんなことを言うのは……。可愛すぎて力が抜ける……。

「だよな。長かったなー約1年。…ごめんな、連絡全然しなくて」
「ううん。もういい。会えたし。樹が必死で頑張ってくれてるのもちゃんと分かってた。……行こ」
「ああ」

 俺たちは二人並んで合格者の受験番号が貼り出されている掲示板まで歩いた。
 すさまじい人だかりの中、なかなか前に進めなくて番号が見えない。

「ち、ちょっと待て…。お前何番だ?颯太」
「2584だよ」
「よ、よし。安全パイのお前から先に見ようぜ」
「樹は何番?」
「……ちょっと……、まずお前を見てからだ……」
「なんでそんなもったいぶるんだよ」

 俺と違ってまるっきり緊張感がない颯太は楽しそうにクスクス笑っている。余裕がすごい。

「どっ、どこだ?!2500番台は」
「…たぶん、あの辺だねぇ」
「よし!行くぞ颯太!」

 俺は颯太の手首を掴み、けたたましい叫び声が渦巻く人だかりをかき分けどんどん前に進んでいく。通り過ぎる瞬間にキャァァァッ!!ヤッタァァァ!!と甲高い女の声が耳の真横で聞こえて鼓膜がどうにかなりそうだった。

「あ、あの辺だ」
「よ、よし、……大丈夫だからな、颯太……、お前は大丈夫だ……」
「……ふふ」
「……2574、2579、2582、……2584…、2584!!よっしゃぁぁぁ!!」

 颯太の番号を見つけた瞬間、俺は思いっきり颯太を抱きしめた。

「ふふ、ありがと。でもまだ俺のだけでしょ?」

 俺にムギューッと力いっぱい抱きしめられた颯太は頬を染めて静かに合格を喜んでいる。

「はい、次は樹。何番?」
「……そ、その前に、ちょっと一回休憩しない?」
「何言ってるのバカ。何番?」
「……さっき歩いてくる途中近くにカフェあったぞ、カフェ。コーヒー飲んで一回落ち着……、うお!何すんだよお前」

 颯太は無言で俺のコートのポケットをゴソゴソまさぐると受験票を取り出した。

「2977ね、……あっちの方だ」

 今度は颯太が俺の手を握ってぐんぐん進んでいく。
 あぁぁイヤァァァ……怖い……。なんか急に見るのが怖い……!どうしよう。落ちてたら颯太、落ち込むだろうなぁ…。ほんとごめんな、颯太……。俺は俺にできる限りのことをやったんだ……。どうか見捨てないで……。……いや、ちょっと待て、最悪、A高の修学旅行の時に現地集合してこいつのクラスか班に勝手に合流するって手もなくはない……、それでせめて最低限の約束を一つは守っ……、

「樹!!見て!!」
「っ?!」

 颯太が急に大声を上げて俺の服を思いっきり引っ張った。興奮して指差している方向を見ると、

「…………あ、…………ある……」

 …2968、2971、2973、2977……

 2977!!間違いねぇ!!ある!!

「やっ……!」
「やったぁぁぁぁ!!」

 俺より先に叫んだ颯太が全力で抱きしめてくる。
 あぁ、神様……!ありがとうございますぅぅー!!
 俺はここぞとばかりに思いっきり颯太を抱き返して喜びを分かち合った。互いにしっかり抱き合って、なかなか離さない。俺からは絶対離す気はなかった。せっかくのご褒美だ。ギリギリまで抱きしめて堪能してやるんだ。はぁ…いい匂い…。

「……っく、……う……、っ」
「……。……?!颯太?!」

 な、泣いてる?!

「あ、……ありがと……、いつき……。…よかっ……」
「……颯太……」
「う……、……うぅっ……」

 ……そ、そんなに?…そんなに泣くほど、嬉しいのか?俺と同じ高校に通えることが……?
 ……颯太…………!!

 A高に受かった事実よりもそっちの方がよっぽど嬉しくて、俺はデレデレニヤけながら、颯太はポロポロと大粒の涙を零しながら互いにいつまでも抱き合っていた。


 その場を後にしてからも1年ぶりの逢瀬になんとなく離れがたく、ひとまず互いに電話で親に合格を伝え、二人で並んでゆっくり歩いた。あぁ、…帰したくない……。
 真っ直ぐバス停に向かいたくなくて、ちょっとこの辺散策してみるか、なんて提案をしてみる。颯太もすぐさまそうだね、と返事をした。春からはここに毎日のように通ってくるんだ。ちょっとブラブラしてこの辺りがどんなかんじか把握しておくのも悪くないだろう。
 少し歩くと奥まったところに人気のない公園があった。ブランコやすべり台、砂場やジャングルジムなどの遊具がある。平日の昼間だから子どもが少ないのかもしれない。皆幼稚園だの小学校だのに行ってる時間だ。公園の端の方に、大きな木の陰になっているベンチがあり、そこに並んで座る。うん。人がいなくて話しやすい。

「これで4月からは毎日顔が見られるな」
「うん。夢みたいだよ。…本当に幸せ。子どもの時からずっと、この日が来るのを待ってたから…」
「…………。」

 颯太は赤い目をしてそんな可愛いことを言う。
 …なんか……、今日の颯太、ものすごく……、

「……ふ、幸せって。大袈裟だな」
「……。」

 な、なぜ黙る。なんか緊張するじゃねぇか。

「…大袈裟じゃないよ」

 急に颯太が、何か覚悟を決めたかのような真剣な表情で俺の目をじっと見つめてくる。頬が赤い。

「……っ、……そう、た」
「…………。」

 ……え、……えっ?
 な、なんか……、この、この雰囲気……って……
 
 今までにない二人の間の空気に戸惑う。俺を見つめる颯太の潤んだ瞳がすごく色っぽくて、体の奥にジン…と熱いものが灯る。

「……っ、」

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン……

 心臓の鼓動が急に速くなる。颯太は俺から目を逸らさない。な、何だろう。何か俺の言葉を待ってるんだろうか。それとも……。
 久しぶりに愛しい颯太が目の前にいる喜びと、この雰囲気がもたらす体の熱とで冷静な判断力をなくしたまま、俺はぼうっと頭に浮かんだ欲求を口にする。

「……なぁ、……そうた…」

 自分の声が、低く掠れている。

「……なあに」

 颯太も熱に浮かされたような顔をしている。…きっと俺も今、こいつと同じような表情をしているんだろう。

「…俺さ、…マジでめちゃくちゃ頑張ったんだよ。この10ヶ月」
「…うん」
「…分かるだろ?この俺がA高に受かるなんて、奇跡なんだよ。…俺の努力のすさまじさ、想像つくだろ?」
「…うん」
「こんな勉強嫌いの俺が、死に物狂いだったんだ。ずっと。……10ヶ月間、……お前の、声さえ、聞かないで」
「…………い、」
「ご褒美、くれよ」
「………………えっ?」
「……。」

 本当は、こう言うつもりだったんだ。
 小学生の時みたいに、あの時教室でしてくれたみたいに、頬にキスしてくれって。
 でも────

「…………。」
「…………。」

 俺たちはどちらから近づいたんだろう。
 意識しないままに、颯太の少し熱い吐息がかかる距離まで、俺たちの唇は近づいていた。
 颯太の綺麗な瞳の中にも、俺と同じ熱が灯っていると、その時ふいに確信した。もしかしたら錯覚なのかもしれないと、ほんの少しだけ頭をよぎったけれど。

 颯太の悩ましげな表情と熱い吐息に、もう我慢できなかった。

「……っ!……いつ、き、…………っ!」
「……っ」

 頭が真っ白になった。
 俺は吸い寄せられるように、颯太の唇に自分の唇を押し当てた。



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

孤独なライオンは運命を見つける

朝顔
BL
9/1番外編追加しました。 自分はアルファであると信じて生きてきたのに、発情したことがキッカケで、オメガだったと発覚してしまった。 アルファだと思っていた時も、孤独で苦しかったのに、オメガになったことで俺の人生はより厳しいものになった。 そんな時、俺は運命と呼べる相手と出会うことになる。 ※※※※※ 高校生×高校生で、オメガバースの設定をお借りしています。 設定はよくあるものだと思いますが、おかしなところがあったら、すみません。 オメガバースについて詳しい説明などは省略しています。 シリアスあり、ラブコメもあり、淡くて青い恋愛がメインのお話です。 ※重複投稿 全十話完結済み

優等生αは不良Ωに恋をする

雪兎
BL
学年トップの優等生α・如月理央は、真面目で冷静、誰からも一目置かれる完璧な存在。 そんな彼が、ある日ふとしたきっかけで出会ったのは、喧嘩っ早くて素行不良、クラスでも浮いた存在のΩ・真柴隼人だった。 「うっせーよ。俺に構うな」 冷たくあしらわれても、理央の心はなぜか揺れ続ける。 自分とは正反対の不良Ω——その目の奥に潜む孤独と痛みに、気づいてしまったから。 番なんて信じない。誰かに縛られるつもりもない。 それでも、君が苦しんでいるなら、助けたいと思った。 王道オメガバース×すれ違い×甘酸っぱさ全開! 優等生αと不良Ωが織りなす、じれじれピュアな恋物語。

青い炎

瑞原唯子
BL
今日、僕は同時にふたつの失恋をした——。 もともと叶うことのない想いだった。 にもかかわらず、胸の内で静かな激情の炎を燃やし続けてきた。 これからもこの想いを燻らせていくのだろう。 仲睦まじい二人を誰よりも近くで見守りながら。

新訳 美女と野獣 〜獣人と少年の物語〜

若目
BL
いまはすっかり財政難となった商家マルシャン家は父シャルル、長兄ジャンティー、長女アヴァール、次女リュゼの4人家族。 妹たちが経済状況を顧みずに贅沢三昧するなか、一家はジャンティーの頑張りによってなんとか暮らしていた。 ある日、父が商用で出かける際に、何か欲しいものはないかと聞かれて、ジャンティーは一輪の薔薇をねだる。 しかし、帰る途中で父は道に迷ってしまう。 父があてもなく歩いていると、偶然、美しく奇妙な古城に辿り着く。 父はそこで、庭に薔薇の木で作られた生垣を見つけた。 ジャンティーとの約束を思い出した父が薔薇を一輪摘むと、彼の前に怒り狂った様子の野獣が現れ、「親切にしてやったのに、厚かましくも薔薇まで盗むとは」と吠えかかる。 野獣は父に死をもって償うように迫るが、薔薇が土産であったことを知ると、代わりに子どもを差し出すように要求してきて… そこから、ジャンティーの運命が大きく変わり出す。 童話の「美女と野獣」パロのBLです

旦那様と僕

三冬月マヨ
BL
旦那様と奉公人(の、つもり)の、のんびりとした話。 縁側で日向ぼっこしながらお茶を飲む感じで、のほほんとして頂けたら幸いです。 本編完結済。 『向日葵の庭で』は、残酷と云うか、覚悟が必要かな? と思いまして注意喚起の為『※』を付けています。

今からレンタルアルファシステムを利用します

夜鳥すぱり
BL
大学2年の鳴水《なるみ》は、ずっと自分がオメガであることを隠して生きてきた。でも、年々つらくなる発情期にもう一人は耐えられない。恋愛対象は男性だし、男のアルファに会ってみたい。誰でも良いから、定期的に安全に話し相手をしてくれる人が欲しい。でもそんな都合のいい人いなくて、考えあぐねた結果たどり着いた、アプリ、レンタルアルファシステム。安全……だと思う、評価も星5で良いし。うん、じゃ、お問い合わせをしてみるか。なるみは、恐る恐るボタンを押すが───。 ◆完結済みです。ありがとうございました。 ◆表紙絵を花々緒さんが描いてくださりました。カッコいい雪夜君と、おどおど鳴水くんです。可愛すぎますね!

僕を惑わせるのは素直な君

秋元智也
BL
父と妹、そして兄の家族3人で暮らして来た。 なんの不自由もない。 5年前に病気で母親を亡くしてから家事一切は兄の歩夢が 全てやって居た。 そこへいきなり父親からも唐突なカミングアウト。 「俺、再婚しようと思うんだけど……」 この言葉に驚きと迷い、そして一縷の不安が過ぎる。 だが、好きになってしまったになら仕方がない。 反対する事なく母親になる人と会う事に……。 そこには兄になる青年がついていて…。 いきなりの兄の存在に戸惑いながらも興味もあった。 だが、兄の心の声がどうにもおかしくて。 自然と聞こえて来てしまう本音に戸惑うながら惹かれて いってしまうが……。 それは兄弟で、そして家族で……同性な訳で……。 何もかも不幸にする恋愛などお互い苦しみしかなく……。

《完結》僕が天使になるまで

MITARASI_
BL
命が尽きると知った遥は、恋人・翔太には秘密を抱えたまま「別れ」を選ぶ。 それは翔太の未来を守るため――。 料理のレシピ、小さなメモ、親友に託した願い。 遥が残した“天使の贈り物”の数々は、翔太の心を深く揺さぶり、やがて彼を未来へと導いていく。 涙と希望が交差する、切なくも温かい愛の物語。

処理中です...