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無心になってろくろを回す。微妙な手先の力加減であっという間に形を変えるから、とても繊細で集中力がいる作業だ。……楽しい。俺は周りの雑音が一切聞こえないほどに夢中になって取り組んでいた。
「いい形に仕上がったね」
成形してふうっと一息ついた時、部長の白石先輩から声をかけられた。
「あ、はい。すごく楽しいですね、陶芸って」
「ふふ。そうみたいだね。滝宮くんが一番集中してた」
部長はそう言って優しく笑いかけてくれる。
緑に囲まれた空気の美味しい山の中での合宿はとても有意義で楽しい時間だった。来てよかったなー。景色も素敵で、風景画を描くのも楽しみだ。他の部員たちも皆成形が終わって一息つきながらお喋りをしている。
「滝宮くんが作っていたのは、コップ?」
「あ、はい…大きめのマグカップを…2つ」
「へぇ。綺麗に焼き上がるといいね」
「はい、そうですね。楽しみです」
「2つってことは……、誰かの分とペアで作ったの?」
部長から突っ込まれてドキッとしてしまう。
「あ、い、いえっ、……な、なんとなく……。上手くいったら両親にあげてもいいかなー、なんて…」
「あぁ、そっか。優しいんだね、滝宮くんは」
部長は疑うことなくニコニコ笑っている。……本当は両親のことなんて今言い訳にするまで思いつきもしなかった…。ごめんね、父さん、母さん。お土産はちゃんと買って帰るからね。
何を作るかは自由に決めていいと言われた時、真っ先に樹とお揃いの何かが欲しいと思ってしまった。陶芸なんて初体験だし、不格好なものしかできないかもしれないけど、樹なら俺とお揃いだよって渡したらすっごく喜んでくれそうな気がした。
樹、今頃何してるかな。……会いたい。
あとでこの辺りの写真撮って送ろうっと。
その夜。宿泊施設の中の大きな宴会場で部員全員で夕食を食べたあと、1階のお土産コーナーを見に行ってみた。両親には何か美味しそうなここの特産品を……ちょっと奮発しよう。さっき部長との会話で言い訳に使ってしまった罪悪感がある。
樹は何なら喜ぶかなー。あまり甘い物食べないんだよなぁ。でもキーホルダーとかは別にいらないだろうし…。うーん…。あ、ご当地ゆるキャラのスポーツタオルだ。これいいな…。
「滝宮くん」
真剣にお土産を物色していると、ふいに声をかけられて振り向いた。
「あ、部長…」
部長の白石先輩がいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「ご両親へのお土産探してるの?」
「はい、部長もですか?」
「ん、俺はなんとなく外の空気を吸いたくて…。もう星が出てるよ。…少し散歩しない?」
「あ、はい。いいですね」
部長に誘われたら断るわけにもいかない。俺は部長の横に並んで建物の外へ出た。
しばらく歩いて宿泊施設から離れると辺りは真っ暗だ。田舎だから灯りが少ない。
「うわぁ……!」
空を見上げて感嘆した。こんな綺麗な星空、見たことがない……。一面にちりばめたような星がキラキラと輝いている。これは……、真冬はもっと綺麗なんだろうなぁ。……樹と一緒に見たい。この星空のことも、帰ったら話そう。いつか一緒に見に行こうねって。その時は冬がいいな。寒いだろうけど、二人ならきっと楽しい。
「満天の星空だね」
隣から部長の声が聞こえる。俺は空を見上げたまま答えた。
「本当ですね…。すごく、綺麗ですね…」
「……うん。…………綺麗だ。本当に…」
何気なく部長の方を見ると、空ではなく、真面目な顔で俺のことを見ていた。思わずドキッとして心臓が跳ねる。
「……綺麗だね、…滝宮くん」
(………………え?)
…………この星空の、ことだよね……?返事をしようと思うのに、部長の顔を見ていると喉が貼りついたように声が出ない。……なんだか、……部長……、上手く言えないけど、いつも、違う気が……。
真剣な目でじっと見つめてくる部長から目を逸らしづらくて、俺も固まってしまう。徐々に鼓動が速くなる。……なに?この空気。
「…………滝宮くん」
部長が少し掠れた声で、切なげに俺の名を呼ぶ。な、…何だろう。どうしたんだろう。なぜだか少し怖くて、ドキン、ドキン、と心臓が大きく鳴り出した。
ふと、樹の顔が頭をよぎった。なんとなく、このまま聞いていてはいけない気がして、俺は無理矢理部長から視線を逸らすと、少し震える声を絞り出した。
「そっ、そろそろ戻りましょうか、部長。俺、……なんだか、今日、疲れてしまって……」
「……あぁ、そうだね。ごめん。戻ってゆっくり休もう。明日も朝早いしね」
幸い部長も俺の提案にすぐに応えてくれた。俺たちは二人並んで施設まで戻った。
なんとなく気まずい感じがしていたけれど、翌日の朝には部長は普通におはよう滝宮くん、と声をかけてきてくれた。俺はホッとしておはようございます、と返事をした。
「いい形に仕上がったね」
成形してふうっと一息ついた時、部長の白石先輩から声をかけられた。
「あ、はい。すごく楽しいですね、陶芸って」
「ふふ。そうみたいだね。滝宮くんが一番集中してた」
部長はそう言って優しく笑いかけてくれる。
緑に囲まれた空気の美味しい山の中での合宿はとても有意義で楽しい時間だった。来てよかったなー。景色も素敵で、風景画を描くのも楽しみだ。他の部員たちも皆成形が終わって一息つきながらお喋りをしている。
「滝宮くんが作っていたのは、コップ?」
「あ、はい…大きめのマグカップを…2つ」
「へぇ。綺麗に焼き上がるといいね」
「はい、そうですね。楽しみです」
「2つってことは……、誰かの分とペアで作ったの?」
部長から突っ込まれてドキッとしてしまう。
「あ、い、いえっ、……な、なんとなく……。上手くいったら両親にあげてもいいかなー、なんて…」
「あぁ、そっか。優しいんだね、滝宮くんは」
部長は疑うことなくニコニコ笑っている。……本当は両親のことなんて今言い訳にするまで思いつきもしなかった…。ごめんね、父さん、母さん。お土産はちゃんと買って帰るからね。
何を作るかは自由に決めていいと言われた時、真っ先に樹とお揃いの何かが欲しいと思ってしまった。陶芸なんて初体験だし、不格好なものしかできないかもしれないけど、樹なら俺とお揃いだよって渡したらすっごく喜んでくれそうな気がした。
樹、今頃何してるかな。……会いたい。
あとでこの辺りの写真撮って送ろうっと。
その夜。宿泊施設の中の大きな宴会場で部員全員で夕食を食べたあと、1階のお土産コーナーを見に行ってみた。両親には何か美味しそうなここの特産品を……ちょっと奮発しよう。さっき部長との会話で言い訳に使ってしまった罪悪感がある。
樹は何なら喜ぶかなー。あまり甘い物食べないんだよなぁ。でもキーホルダーとかは別にいらないだろうし…。うーん…。あ、ご当地ゆるキャラのスポーツタオルだ。これいいな…。
「滝宮くん」
真剣にお土産を物色していると、ふいに声をかけられて振り向いた。
「あ、部長…」
部長の白石先輩がいつもの穏やかな笑みを浮かべて立っていた。
「ご両親へのお土産探してるの?」
「はい、部長もですか?」
「ん、俺はなんとなく外の空気を吸いたくて…。もう星が出てるよ。…少し散歩しない?」
「あ、はい。いいですね」
部長に誘われたら断るわけにもいかない。俺は部長の横に並んで建物の外へ出た。
しばらく歩いて宿泊施設から離れると辺りは真っ暗だ。田舎だから灯りが少ない。
「うわぁ……!」
空を見上げて感嘆した。こんな綺麗な星空、見たことがない……。一面にちりばめたような星がキラキラと輝いている。これは……、真冬はもっと綺麗なんだろうなぁ。……樹と一緒に見たい。この星空のことも、帰ったら話そう。いつか一緒に見に行こうねって。その時は冬がいいな。寒いだろうけど、二人ならきっと楽しい。
「満天の星空だね」
隣から部長の声が聞こえる。俺は空を見上げたまま答えた。
「本当ですね…。すごく、綺麗ですね…」
「……うん。…………綺麗だ。本当に…」
何気なく部長の方を見ると、空ではなく、真面目な顔で俺のことを見ていた。思わずドキッとして心臓が跳ねる。
「……綺麗だね、…滝宮くん」
(………………え?)
…………この星空の、ことだよね……?返事をしようと思うのに、部長の顔を見ていると喉が貼りついたように声が出ない。……なんだか、……部長……、上手く言えないけど、いつも、違う気が……。
真剣な目でじっと見つめてくる部長から目を逸らしづらくて、俺も固まってしまう。徐々に鼓動が速くなる。……なに?この空気。
「…………滝宮くん」
部長が少し掠れた声で、切なげに俺の名を呼ぶ。な、…何だろう。どうしたんだろう。なぜだか少し怖くて、ドキン、ドキン、と心臓が大きく鳴り出した。
ふと、樹の顔が頭をよぎった。なんとなく、このまま聞いていてはいけない気がして、俺は無理矢理部長から視線を逸らすと、少し震える声を絞り出した。
「そっ、そろそろ戻りましょうか、部長。俺、……なんだか、今日、疲れてしまって……」
「……あぁ、そうだね。ごめん。戻ってゆっくり休もう。明日も朝早いしね」
幸い部長も俺の提案にすぐに応えてくれた。俺たちは二人並んで施設まで戻った。
なんとなく気まずい感じがしていたけれど、翌日の朝には部長は普通におはよう滝宮くん、と声をかけてきてくれた。俺はホッとしておはようございます、と返事をした。
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