ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 4月。ついに俺たちは高校生になった。神は俺をまだ見放してはいないようだった。なんとまた颯太と同じクラスになれたのだ。同じ高校、同じクラス。そして当然、出席番号順で席は前後に。
 あぁ、何年ぶりだろう……。こうして颯太の頭を見ながら自分の席に座るのは……。感無量だ。受験勉強頑張って本当に本当によかった……!!
 担任の教師が何やらいろいろと前で喋っているが、俺の耳には何も入ってこない。ただひたすら颯太の後頭部を見つめながら、ニヤける顔を引き締めることで精一杯だった。

 颯太は引き続き美術部に、俺は悩みに悩んだ挙げ句にまたサッカー部に入った。バスケも陸上もやってみたかったけどそんなにいくつも入ることはできないし、そもそも早くバイトがしたい。ひとまずサッカー部に入部し、部活がない日はバイトをすると決めていた。
 中学の時ほどではないが、やはり入学するやいなや何人かの先輩や女子に言い寄られた。もちろん完全スルーだ。同じクラスに颯太がいるんだ。もう変なことして変な噂を立てられるわけにはいかない。全ては颯太に筒抜けになる。いや、別にはなから浮気しようなんて微塵も考えてないんだけどさ。とにかく妙な言動して颯太に浮気なんか疑われないよう細心の注意を払って行動しなければ。俺はこれから先の人生、ずーっと颯太とラブラブでいるんだ。ぐふ。
 高校の近くのカラオケボックスでアルバイトもすぐに決まった。

「えー、もう決まったの?バイト。すごいね樹」
「あたりめーだろ。そんなに選り好みしてねーしな。とにかくバリバリ稼ぐから、待ってろよ、颯太」
「……待ってろって、……何を?」
「わ、分かってるくせに。……むふ」
「…………。」

 颯太がいつ「もう、いいよ、ホテル行っても…」と恥じらいながら言ってくれるかは分からないが、その日に備えて金だけはしっかり貯めておかなくては。

 朝から夕方まで毎日颯太の姿が見られる幸せを、俺は心の底から満喫していた。放課後は互いに部活があったが、ない日はできるだけ一緒に帰るようにしていた。

 

 6月のその日。俺は颯太の部活が終わるのを教室で待っていた。

(おっせーな、颯太…)
 
 ずっと待っているのに、なかなか戻ってこない。自分の席に座ってゲームをしながら時間をつぶしていたが、なんとなく気が向いて美術室に見に行ってみようかな、と思い立った。

 階段を上り、渡り廊下を渡ってウロウロする。

(たしかこの辺りだったよなー)

 あ、あった。ここだな、美術室。
 ようやく見つけて、窓から教室の中を覗き込んでみた。

(………………。誰だ?あれ)

 美術室にはもう颯太ともう一人の男しか残っていなかった。絵を描いている風でもない。隣並んだ席に座り、向かい合って何やら楽しそうに喋っている。声は聞こえないが、颯太がはしゃいでいるのは雰囲気で分かる。頬が少し紅潮し、口を開けてケラケラ笑っている。

「…………。」

 なんとなくモヤッとして、俺はわざと音を立てて教室の引き戸を開けた。

「!……樹」
「おー。遅ぇから迎えに来たぞ。…まだ終わらねぇの?」
「あ……」

 颯太が立ち上がりかけると、

「じゃあ、また。来週ね、滝宮くん」

と、隣にいた男が颯太に声をかけた。

「あ、はい。……ありがとうございました、部長」

 颯太はペコリと男にお辞儀をして俺の方に歩いてきた。

「…行こーぜ」
「うん」

 美術室を出て並んで廊下を歩く。なんとなく、視線を感じる気がして振り返ると、やはりさっきの男が廊下に出てこちらをじっと見ていた。こちらを、というよりは、颯太を。中性的で線の細い男だ。俺と目が合うとふいっと視線を逸らし美術室に戻っていった。

「待たせてごめんね、樹」
「いや。……さっきの、誰?」
「え?部長だよ。3年の、白石先輩」
「ふーん。…何話してたの?」
「もちろん部活のこと。って言うか絵のことかな。部長、知識が豊富だからいろいろ聞いてると楽しいんだー」
「…へー」

 ニコニコ話す颯太に他意はなさそうだ。俺は深く考えるのをやめた。



 1学期が終わり夏休みに入ると、俺たちは互いに部活や、颯太は勉強、俺はバイトなどで忙しく過ごした。その合間を縫ってはちょこちょこと逢瀬を繰り返し、順調に日々を過ごした。時々隙を見て迫ってみるけれど軽くいなされて進展はない。悶々とした思いを抱えながら一人寂しく自分を慰める夜が続いた。

「美術部の合宿って何泊あるんだ?」

 そんな夏休みのある日、颯太のマンションで過ごしている時に聞いてみた。もうすぐお互い夏合宿がある。

「2泊3日だよ」
「ふーん。何やんの?」
「何か、陶芸とかするみたい」
「へー」
「サッカー部は?長い?」
「3泊4日」
「そっか。…怪我しないようにね」
「ん」

 颯太のベッドでごろんと横になったまま、座って参考書を読んでいる颯太の横顔を見つめる。
 …なんとなく、あの部長と2泊3日も一緒に過ごすのかと思うといい気がしない。別に何もないと分かっていても。たまたま話が盛り上がってあの時二人で残っていただけだろう。颯太に限って浮気なんてするはずないし。

 でも。
 幸せな毎日の中、俺の脳裏には何度もよぎっていた。あの時の、蘭の言葉が。


『あんたって、本当に最っ低のクズ野郎だからね!絶対に一生許さない!……いつか、絶対、同じ目に遭うから!いつか……、いつか本当に大切な人ができたときに、同じようにその人から捨てられる。絶対に』


 俺が身勝手に捨てた中学の時の彼女。好意なんて微塵もないまま、ただ自分の性欲を満たすためだけに付き合って、そして自分の都合であっさり捨てた。
 あの時殴られた痛みとともに蘭に投げつけられた言葉は、呪いのように俺にずっと纏わり付いている。特に颯太と両想いだと分かって幸せな毎日を過ごすようになってからというもの、あの言葉は何度となく頭をよぎっていた。
 俺は手ひどく女を傷付けた報いを、いつか受けるんじゃないか。それは、颯太を失うという最悪のかたちで、ある日突然俺に襲いかかってくるんじゃないだろうか。
 あの時の後ろめたさがあるからこそ、その不安はいつまでも俺についてまわっていた。
 颯太を失ったら、俺は生きていけない。俺は祈るような思いで颯太の綺麗な横顔を眺めていた。



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