ずっと二人で。ー俺と大好きな幼なじみとの20年間の恋の物語ー

紗々

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 3年生になったら、さすがに同じクラスにはならなかった。颯太は頭いいヤツが固まってる特進クラス。俺は普通のクラス。でも同じ学校にいるわけだから、顔が見れないなんて日はない。一緒に昼飯食べたり、休み時間に顔出したり。帰れる日は一緒に帰ったり。休みの日はデートしたり。満たされた幸せな日々が続いた。

 だけどいよいよやってくる。その時期は着実に近づいてきている。もう3年だ。卒業後の進路はどう考えても別々になる。アイツがどこに行くにせよ、俺が同じ大学に通うことはもう不可能だ。俺は高校受験の時に全てを出し尽くしたから、もう何も出ない。気力も脳みそもすっからかんだ。俺は俺の進む道を決めなくてはならない。颯太を一生養っていけるいい仕事がしたいなぁ。何がいいんかなぁ。俺の特技を活かせる仕事……。
 サッカーは好きだけど、プロの選手を目指すってほどのレベルじゃないし。他に取り柄……、取り柄……。
 ……取り柄がねぇなぁ、俺……。うーん……。
 バイト先のカラオケボックスの受付で、ボケーッとそんなとりとめもないことを考えていると、ウィーンと音を立てて出入り口の自動ドアが開いた。俺は瞬時に表情を作り、

「いらっしゃいませぇ」

と営業スマイルで声をかけた。…スーツ姿の男の人が一人で入ってきた。珍しいな。こんな時間に。ヒトカラするリーマンはたまに来るけど、それにしちゃ時間が早い……

「あ、君が立本樹くん、かな?あってるよね?」
「へ?」

 突然知らない男に名前を呼ばれて俺は固まった。……なんだ?誰だ?この人……。少し警戒しながら答える。

「はぁ。そうです、けど……」
「やっぱり。見たらすぐに分かったよ。オーラ出てるね」
「……?……あ、あの……」
「突然ごめんね。YMエンターテイメントという事務所の弓沢という者です。君の評判を聞いて、会ってみたくて来たんだけど…。アルバイトが終わったら、少しお話できるかな」
「………………??」



「え、……えぇっ?!げ、芸能人になるってこと?!樹」
「シーッ!シーッ!ちょ、おま、声でけーよ」
「あ、ごめん…。あまりにも予想してない話だったから、つい」

 放課後デートでファーストフード店に寄って喋っていたら、突然樹から“卒業したら芸能事務所に入る”なんて言われて思わず叫んでしまった。…よかった、この時間、学校帰りの高校生たちで店内が賑やかすぎて誰もこっちを気にしてなさそうだ。チラチラ遠巻きに見てる女の子たちはいるけど、樹といればこれは日常茶飯事。声をかけられることもよくあるぐらいだ。

「や、俺もさ、最初はすげーうさんくせーなーと思って半信半疑だったんだけどさ、いろいろ話聞いてたら大手のちゃんとした会社っぽかったんだよな。YMエンターテイメントっていうところ」
「さ、最大手だよ、そこ、たぶん…」
「聞いたことあんの?颯太」
「あ、あるよそりゃ名前くらい。有名な事務所だよ!第一線で活躍してる俳優さんがたくさん所属してるはずだよ。逆に樹、聞いたことなかったの…?」
「んー、たぶん」

 ふーん、って顔してズビッとシェイクを飲んでいる。…どこまでもマイペースな樹だ。

「じゃあ、高校卒業したらすぐってこと…?」
「うん。そうなるな。まぁ他にこれやりたいって仕事も特にねぇし、芸能人なら売れたらいいトコ住めるだろ?お前に楽させてやれるしな……ふふん」

 ニヤニヤと悪だくみするお代官様のように笑っているけど、こんな時でも真っ先に俺との将来のことを含めて考えてくれているのかと思うと胸がぎゅうっと甘く締めつけられるほどに嬉しい。

「……樹なら、すぐに売れっ子芸能人になりそう」
「どーだろな。演技力なかったらバラエティタレントになるか。過去の黒歴史をペラペラ喋って切り売りして笑いとってくしかねーな。…俺のトークで幻滅しないでね、颯太」
「しないでね、って言われても」

 俺がクスクス笑っていると、樹が真顔になって聞いてきた。

「……で?お前は?……卒業後、どうするつもりなんだよ」
「俺はK芸術大学の美術学科に進みたいなぁって思ってるよ」
「どっ!どこにあるんだよ、その、……なんとか大学は」
「えぇ……?すぐ近くだよ…、うちの高校の目と鼻の先にあるじゃん。あの大学だよ」
「……。そうなのか?あるのか?そんなの。……よかった。ならお前はそんなに遠くに行くことはないわけだな」

 ……結構有名な大学なんだけどな…。うちの高校から進学する人も多いし。全然知らない樹が逆にすごい…。

「進路分かれるからさ、また会う時間減るかもしんねぇけど、大丈夫だからな、颯太。俺が先にしっかり稼いで、いいトコ住ませてやるからな。ふふん。この俺様に任せとけ」

 樹は優しい目で俺を見つめながら、ふざけたテンションでそんなことを言ってくれるけど。

「……別に、……いい所じゃなくてもいいから、俺。樹と一緒に暮らせれば、それだけで充分幸せ」
「……っ、」
「そんなことよりも、……なんか、……心配。芸能界なんて、美男美女の集まりじゃん。…………う、浮気とか、しないでよね」

 こんな女々しいこと言うの恥ずかしくてたまらなかったけど、芸能界に行くって聞いた瞬間からそこが気になってしかたなかった。樹はただでさえモテモテなんだ。不安じゃないわけがない。顔が真っ赤になってしまったけど、どうしても言っておきたかったから、勇気を出して伝えた。
 てめー俺のこと疑ってんのかよとか怒られるかなぁ……、と、おそるおそる樹の顔を窺うと、……なぜだか樹の顔まで真っ赤になっている。

「…………?」
「そ、……颯太」
「なあに?」
「…………ホテル行きたい」
「…………へっ?!な、なんで、き、急に」
「お前が可愛いことを可愛い顔で言うからだ!小悪魔かよてめぇ。…時間がねぇ。早く行くぞ」
「ち、……ちょっと!」

 バタバタとトレイを片付けた樹にグイグイ手を引かれて、俺たちは店を後にしたのだった。



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