愛人のいる夫を捨てました。せいぜい性悪女と破滅してください。私は王太子妃になります。

Hibah

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私が王太子妃に……? 想像したこともない。
「お父様、ご冗談でしょう」

「王家のことで冗談など言わん。本当の話だ。以前に流行っていた疫病の沈静化におけるお前の働きが認められている。街におもむき人を救う姿は、国民の脳裏に深く刻まれている。だからこそ、国王陛下も王太子様もお前を望んでいるのだ」

あまりに唐突な話だった。
「私は夫との離縁手続きが進んでいる最中です。そのような女を受け入れてもらえるのでしょうか? 国民は納得するのでしょうか? 私に王太子妃など務まるのでしょうか?」

父はニカッと笑った。
「そうだ、お前だからこそできるのだ。王家も国民もお前に感謝している。幸せになってほしいと願っている。だからこそ今回の件でフィリップは袋叩きにあっているんだ。領地を回復したとはいえフィリップは宮廷貴族として成り上がった男。国王陛下のひんしゅくを買ったら終わりだよ」

私の一つひとつの働きは、無駄ではなかったんだ。
そう思うと、自然に涙が出てきた。

「――かしこまりました。王太子妃のお話、お受けいたします」



それからトントン拍子に話は進んだ。
王太子様との面会を済ませ、城での生活をするため準備を進めた。

置いてきた荷物を回収するため、久しぶりに夫の家に行った。
リーゼがいるのかと思ったら、使用人のミシェルが一人いるだけだった。ミシェルは生真面目な使用人で、律儀に夫の元で働き続けていた。
だけどさすがに一人では限界がある。家の中は散らかり放題であり、値がつく家具や装飾品の大部分がなくなっていた。ところどころ蜘蛛の巣が見えて、掃除も行き届いていない。

私を見たミシェルはすがりつくような勢いで「奥様!」と言い近づいてきた。
「奥様、よくぞお戻りくださいました。家を守れず申し訳ございません。旦那様の雑務をこなすのが精一杯で、家のことまで手が回らず……」

「いえ、よくがんばってるわ。他の使用人たちはどうしたの?」

「みな出ていきました。そのときに金目のものは持っていかれました。リーゼ様もこの家にある物を売る始末でして……。最近は旦那様も帰って来ないですし……」

「なるほど、リーゼは今日いないのね」

「それが……さきほど使いの者が来て……」

「え!?」


リーゼが王都で何者かに刺されたということだった。
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