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一章 厄介な後輩
六話 ハイスぺ後輩の欠点
しおりを挟むそれから甘利の写真攻撃はなくなった。
――が、代わりにメッセージが山ほどくるようになった。
[おはようございます、先輩。今日も大好きです]
[猫いました。先輩は犬と猫、どっちが好きですか?]
[春先輩の髪と同じ色。かわいい]
「いや、可愛くねーし」
ていうか写真、相変わらず下手過ぎないか?
桃色の小さな花が、甘利から送られてきた写真の中に収められている。確かに同じ桃色ではあるが、だからと言って可愛いはないだろ。可愛いは。
「蒼井くーん、写真持ってきてくれましたかー?」
「先生!?」
間延びした声で声を掛けてくるのは、写真部顧問の西田先生だ。
「ど、どうしたんですか?」
「あははは、何がです?」
「なんか、萎びてません……?」
高い背を丸めて、どんよりとした闇を背負う西田先生は「いやぁ、だってねぇ……」と零す。
「誰も課題持ってきてくれないんですよ……僕、すっごく楽しみにしてたのに……!」
「あ、ああ……なるほど」
「だから蒼井くんの写真でも見て元気を出そうかと思いまして」
「なんで俺なんですか」
「だって蒼井君の写真、面白いので」
意味が分からない。
俺は眉を寄せ、先生を見る。訝し気な視線になってしまったのは申し訳ないが、誰でもそうなると思う。
「それでそれで? 蒼井君はどんなの撮って来てくれたんですか? 早く見せてくださいっ」
「ちょっ、近っ……! べ、別に、面白いものなんてないですよ?」
「いいんです。僕が見たいだけなんだから」
さっきは面白いからだのなんだの言っていたくせに、随分と虫がいい。
(まあ、別にいいけど)
俺はスマホを取り出し、カメラロールを取り出す。部活用の写真は、通常の写真と別にしてある。ファイルを開き、中を見せた。
「こんな感じです」
「へぇー! これは隣町の公園ですか?」
「あ、はい。よくわかりましたね」
「もちろん。僕もあの公園が大好きですから」
のほほんとしながら写真を見る西田先生。わくわくしているのが表情からも読み取れる。
(本当に写真、好きなんだな)
優しい目つきでスマホを眺める先生の視線は、存外嫌じゃない。それに、西田先生はどんな写真も茶化さないで見てくれるから、安心して見せられる。
ふと、先生の横顔が記憶と重なる。残像が見えるのに、はっきりとしない。
(なんだろうな。この横顔、何かに似てるんだよなぁ……)
何だっけ。結構最近見た気がするんだけど。
「あれ? この子……」
「え?」
西田先生の声にはっとして、俺はスマホを覗き込む。
映っていたのは盛大にブレた甘利の姿。
(やべっ、消し忘れてた……!)
「これって、一年の甘利檸檬くん……ですよね? 仲いいんですか?」
「え、あー……まあ、一応?」
「一応?」
「いや、仲がいいっていうか、懐かれているっていうか……」
(俺からしたら、ペットに近い感覚だし)
毛がクルクルした、黒い大きな犬。懐いて行くところ全てについてくるような、そんな感じ。
「ふふふ。よくわかりませんが、仲良しなことは良いことですね」
「別に仲がいいわけじゃ……!」
「隠さなくてもいいんですよ」
(話を聞いて、先生!!)
主張がにこやかにスルーされ、俺は諦めに口を噤む。
大人からすれば、一緒に居る=仲がいいと変換されるのだろうけど、それは大きな間違いだ。寧ろ自分は毎度貞操の危機に瀕している。
(くそっ、それが言えれば絶対に違うってわかるのに……!)
男の後輩に告白され迫られているなんて、俺のなけなしのプライドが許さない!
「そういえば、甘利くん、新人大会に出るんですよね? すごいですねぇ、一年生でなんて快挙ですよ」
「へ? そう、なんですか?」
「あれ、聞いていないんですか?」
眼鏡を右の人差し指で上げつつ、西田先生は首を傾げた。
「聞いてないです」
「そうなんですか? 仲いいから知ってるかと」
「だから仲がいいわけじゃ――」
「甘利くん、すっごく足が速いじゃないですか。僕もこの前見てびっくりしました」
――本当に話を聞かない先生だ。
伝えるのはもう諦めた。
「あの身長で足の回転も速いんだから、すごいですよね。筋肉もすごくて、一見重そうなのにすごく軽やかで」
「ソウナンデスネー」
「まるでサバンナで獲物を見つけたチーターみたいにしなやかで、長い手足が力強く地面を蹴るんです。それで更に前に進む。地盤である筋肉がちゃんとついているからこそ、出来る走りです。まさしく彼の努力の賜物だ」
上機嫌に甘利のことを話す西田先生。例えがちょっと変態チックだとか、普通そんなところ見ないだろ、とかいろいろ言いたいことはあるけど、とりあえず――。
「先生、アイツのファン? なんですか?」
「うーん、そうかもしれませんね。でも、何度頼んでも撮らせてもらえないのは、ちょっと寂しいです」
「えっ」
「この前なんか、ついカメラ構えちゃって。そしたらすぐにバレてしまいまして。カメラ奪われて、校庭の反対側まで走られてしまいました」
「この歳で全力疾走する羽目になるとは思いませんでしたよ」と笑う西田先生。
(何してんだ、アイツ)
西田先生のカメラを持って走るなんて、壊したらとか考えないのか。……考えないだろうな。アイツ、カメラに詳しいわけじゃなさそうだったし。
「でも、蒼井くんなら……いつか撮らせてもらえるのかもしれませんね」
「えっ?」
「なんてね。すみません、変なこと言っちゃって」
「課題は受け取りました。ちゃんと評価に付けておきますから、安心してください」と先生が笑う。
「あ、ありがとうございます……」
「ああでも、もし――もし、彼を撮ることが出来たら、僕にも見せて欲しいです。きっと素敵な写真になるだろうから」
チャイムが響く。部活終了のチャイムに、先生は俺に帰るように促した。
俺は一人廊下を歩きながら、さっきの話を思い出していた。
(西田先生があんなに褒めるなんて)
好きなものにはいつだって全力だけど、それにしたって熱の入れようが違うのは明らかだった。それだけ被写体としていいのだろうか。それとも西田先生がただ変態なだけなのか。
(……気になる)
気になる、けど、自分から行くのはなんとなく癪だ。
ちらりとグラウンドを見る。ストレッチをしているのは、陸上部かサッカー部か。
(甘利の走る姿、か)
俺は両手で人差し指と親指でフレームを作る。四角く切り取られた光景を指越しに覗き込んで、俺は息を吐いた。
「何やってんだか」
バカなことしてないでさっさと帰ろう。
俺は鞄を肩に掛け直して、止まっていた足を動かした。――まさか昇降口で今日も甘利に捕まるとは、思っていなかったけど。
「は? 勉強を教えて欲しい?」
「はい」
とある昼休み。
弁当を平らげた甘利は、物々しい雰囲気を醸し出しながら姿勢を正していた。「先輩」と真剣な声で呼ばれたかと思えば、「勉強を教えてください」とのこと。
(こいつ、勉強できなかったのか?)
「お前、推薦じゃなかったっけ?」
「そうですけど、それはスポーツだけで、成績は本当にぎりぎりです」
「中間は?」
「……半分……いえ、そのちょっと下、くらいは取れたと、思います」
「なんで他人事なんだよ」
視線がぎこちなく宙を泳ぐ。嘘をついているのが丸わかりだ。
「ちなみに、何位だったわけ?」
「……二百五十二でした」
「何人中?」
「…………二百五十六人」
「バカじゃん」
ガツン、と甘利の頭が横に揺れる。今俺の言葉が勢いよく甘利の頭に突き刺さったのが見えた。
(バカだバカだって思ってたけど)
やっぱりそうだったのか。俺の勘も大概侮れないな。
「教えんのは良いけど、俺もそんな勉強できるわけじゃねーぞ?」
「大丈夫です。むしろ難しいこと言われてもわからないので、先輩くらいが丁度いいっていうか」
「よーし。今からテストまでの期間の昼休みと放課後、全部予定入れてこよー」
「すみませんでした」
深々と頭を下げる甘利に、俺は立ち上がりかけた腰を下ろす。優しいな、俺。
「んじゃ。昼休みと、放課後……は部活あるか。大会近いんだっけ?」
「いえ。期末までは部活は休みになるそうです。なので、赤点取ったらマジでシメられます」
「怖いな陸上部」
運動部の上下関係は厳しいと夏生の話を聞いて知ってはいるが、まさかそこまでとは思っていなかった。
(これ、もしかして俺責任重大なんじゃね?)
まあ、いいか。これで赤点をとっても、俺を選んだ甘利が悪いってことで。
「なので放課後も大丈夫です」
「そ。んじゃ、そういうことで」
「何かあったら連絡するわ」とスマホを振って告げる。甘利はこくりと頷いた。
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