ギフテッド

路地裏乃猫

文字の大きさ
53 / 68
2章

41話 未知との遭遇

しおりを挟む

 結局、初任務はギフテッド探索という意味では空振りに終わった。

 それでも、漣にとっては有意義な時間ではあった。改めて、この任務において大事なスタンスを学ぶことができたように思う。任務は任務として、まずはアートとの出会いを楽しむこと。遠回りのようで、それが最善の近道であることも。

「そろそろですね。では、出ましょうか」

 展示室を出ると、さっそくロビーで嶋野が端末を差し出してくる。

「じゃ、さっそく本部に報告を入れましょう。やり方は、事務所で説明を受けましたね?」

「え、ええ」

 ここでいう報告とは、もちろんギフテッドの有無に関する報告だ。これは、単なる調査報告であるだけでなく、漣たちのようなギフテッドのキュレーターにしてみれば、命を繋ぐための行動報告も兼ねている。

 美術館を出る頃には、昼を大きく過ぎていた。どうりで腹が空くはずだ、と、漣はスーツ越しにからっぽの胃袋を軽くさする。

「あの、昼飯、どこで食います?」

「昼……ああ、それなら」

 そして嶋野は、手元のビジネスバッグから何やら黄色い箱を取り出す。やけに見覚えのある――漣も、創作が煮詰まったときに世話になるそれは、カロリーメイトの箱で間違いない。まさか……

「え……それが……昼飯っすか」

「えっ? え、ええ……あ、大丈夫ですよ。海江田くんの分もちゃんと用意してありますので」

 言いながら嶋野は、鞄からニ箱目のカロリーメイトを取り出し、それを漣に差し出してくる。これは……食え、ということだろうか。少なくとも、差し出す嶋野の目は冗談には見えない。が、てっきりどこかの店でランチを楽しめると期待していた漣は、正直、かなりがっかりする。せっかく半年ぶりに外で食事を摂れると思ったのに。

「足りませんか?」

「あ、いえ……それもありますけど……せっかくなんで、外で普段と違うもん食べたいなって」

「ああ、あるほど……すみません。気が利きませんでした。つい、いつもの調子で予定を組んでしまって」

「いつも? じゃあ普段から、昼はカロリーメイトなんすか」

「えっ? え、ええ……楽でいいですよ。余計な時間も手間もいりませんし」

 言いながら嶋野は、さっそくパッケージを開いて中身を口に押し込む。そう、押し込む、という表現がぴったりな食べ方だった。まず一本を口に頬張り、ほとんど飲み込むようにしてすぐに二本目も片付けてしまう。そういえば……以前、夜の食堂で一緒に食事を摂ったときも、異様に食べるのが早かった印象がある。

「あの、差し出がましいのは承知の上で言いますけど、もうちょっと、その、食事を楽しんだ方が良くないっすか。食事も、その、人生を彩る大事な要素だと思うんすけど……アートと同じぐらい」

 すると嶋野は軽く肩をすくめ「らしいですね」と笑う。

「でも、すみません。僕には、その感覚がどうしてもわからないんです。それに、わからないことを苦痛に感じたこともない。なので、どうかお構いなく。――といっても、付き合わされる海江田くんにしてみれば災難ですよね。まぁ明日からは、そのあたりの時間調整もさせてもらいますので、すみません、今日はこれで」

 そして、手元のカロリーメイトを漣に押しつけてくる。仕方ない、と、その黄色い箱を受け取りながら、なぜ、と漣は思う。本来、楽しいはずの食事を楽しめないなんて。ただの嗜好ならそれでいい。が、嶋野の食べ方は、どうも見えない何かに急かされているようにも見える。急がなければ誰かに奪われてしまう。そんな孤独と焦り。

 まだまだ知らないことだらけだ、と思う。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...

MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。 ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。 さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか? そのほかに外伝も綴りました。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

天才天然天使様こと『三天美女』の汐崎真凜に勝手に婚姻届を出され、いつの間にか天使の旦那になったのだが...。【動画投稿】

田中又雄
恋愛
18の誕生日を迎えたその翌日のこと。 俺は分籍届を出すべく役所に来ていた...のだが。 「えっと...結論から申し上げますと...こちらの手続きは不要ですね」「...え?どういうことですか?」「昨日、婚姻届を出されているので親御様とは別の戸籍が作られていますので...」「...はい?」 そうやら俺は知らないうちに結婚していたようだった。 「あの...相手の人の名前は?」 「...汐崎真凛様...という方ですね」 その名前には心当たりがあった。 天才的な頭脳、マイペースで天然な性格、天使のような見た目から『三天美女』なんて呼ばれているうちの高校のアイドル的存在。 こうして俺は天使との-1日婚がスタートしたのだった。

還暦の性 若い彼との恋愛模様

MisakiNonagase
恋愛
還暦を迎えた和子。保持する資格の更新講習で二十代後半の青年、健太に出会った。何気なくてLINE交換してメッセージをやりとりするうちに、胸が高鳴りはじめ、長年忘れていた恋心に花が咲く。 そんな還暦女性と二十代の青年の恋模様。 その後、結婚、そして永遠の別れまでを描いたストーリーです。 全7話

女神の白刃

玉椿 沢
ファンタジー
 どこかの世界の、いつかの時代。  その世界の戦争は、ある遺跡群から出現した剣により、大きく姿を変えた。  女の身体を鞘とする剣は、魔力を収束、発振する兵器。  剣は瞬く間に戦を大戦へ進歩させた。数々の大戦を経た世界は、権威を西の皇帝が、権力を東の大帝が握る世になり、終息した。  大戦より数年後、まだ治まったとはいえない世界で、未だ剣士は剣を求め、奪い合っていた。  魔物が出ようと、町も村も知った事かと剣を求める愚かな世界で、赤茶けた大地を畑や町に、煤けた顔を笑顔に変えたいという脳天気な一団が現れる。  *表紙絵は五月七日ヤマネコさん(@yamanekolynx_2)の作品です*

母の下着 タンスと洗濯籠の秘密

MisakiNonagase
青春
この物語は、思春期という複雑で繊細な時期を生きる少年の内面と、彼を取り巻く家族の静かなる絆を描いた作品です。 颯真(そうま)という一人の高校生の、ある「秘密」を通して、私たちは成長の過程で誰もが抱くかもしれない戸惑い、罪悪感、そしてそれらを包み込む家族の無言の理解に触れます。 物語は、現在の颯真と恋人・彩花との関係から、中学時代にさかのぼる形で展開されます。そこで明らかになるのは、彼がかつて母親の下着に対して抱いた抑えがたい好奇心と、それに伴う一連の行為です。それは彼自身が「歪んだ」と感じる過去の断片であり、深い恥ずかしさと自己嫌悪を伴う記憶です。 しかし、この物語の核心は、単なる過去の告白にはありません。むしろ、その行為に「気づいていたはず」の母親が、なぜ一言も問い詰めず、誰にも告げず、ただ静かに見守り続けたのか——という問いにこそあります。そこには、親子という関係を超えた、深い人間理解と、言葉にされない優しさが横たわっています。 センシティブな題材を、露骨な描写や扇情的な表現に頼ることなく、あくまで颯真の内省的な視点から丁寧に紡ぎ出しています。読者は、主人公の痛みと恥ずかしさを共有しながら、同時に、彼を破綻から救った「沈黙の救済」の重みと温かさを感じ取ることでしょう。 これは、一つの過ちと、その赦しについての物語です。また、成長とは時に恥ずかしい過去を背負いながら、他者の無償の寛容さによって初めて前を向けるようになる過程であること、そして家族の愛が最も深く現れるのは、時に何も言わない瞬間であることを、静かにしかし確かに伝える物語です。 どうか、登場人物たちの静かなる心の襞に寄り添いながら、ページをめくってください。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

(学園 + アイドル ÷ 未成年)× オッサン ≠ いちゃらぶ生活

まみ夜
キャラ文芸
年の差ラブコメ X 学園モノ X オッサン頭脳 様々な分野の専門家、様々な年齢を集め、それぞれ一芸をもっている学生が講師も務めて教え合う教育特区の学園へ出向した五十歳オッサンが、十七歳現役アイドルと同級生に。 子役出身の女優、芸能事務所社長、元セクシー女優なども登場し、学園の日常はハーレム展開? 第二巻は、ホラー風味です。 【ご注意ください】 ※物語のキーワードとして、摂食障害が出てきます ※ヒロインの少女には、ストーカー気質があります ※主人公はいい年してるくせに、ぐちぐち悩みます 第二巻「夏は、夜」の改定版が完結いたしました。 この後、第三巻へ続くかはわかりませんが、万が一開始したときのために、「お気に入り」登録すると忘れたころに始まって、通知が意外とウザいと思われます。 表紙イラストはAI作成です。 (セミロング女性アイドルが彼氏の腕を抱く 茶色ブレザー制服 アニメ) 題名が「(同級生+アイドル÷未成年)×オッサン≠いちゃらぶ」から変更されております

処理中です...