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2.ホッとする
しおりを挟む部屋に戻ると、やっとホッとする。レヴェリルインの部屋の隣なんだけど、ここに一人でいる時だけが、僕の落ち着く時間だ。
あー……ホッとする……
周りには、魔法の道具の出来損ないがいっぱい放り込まれている。僕の部屋っていうより、失敗したものを詰め込む物置になってるんだ。
魔力がこもったものの処分には時間がかかるらしく、ずっとここに置きっぱなしになっている。
多分、僕なんかは、ここに突っ込まれたガラクタと違って、生きているから余計に始末に負えないんだろうなぁ……
そんな部屋だけど、僕は結構気に入っている。ごちゃごちゃ物があって、その隅に隠れていた方が、心が安らぐんだ。
誰にも会わなくて良くなったことにホッとしながら、パンをかじる。
美味しい……誰もいなくて静かだと、パンの味もよくわかる。これ……美味しい。
レヴェリルインはいつもあんな風で、僕とはいつも距離をとっている。だけど、こうして食事を持ってきてくれるし、僕に手を上げたりもしない。僕が失敗作だと分かった時、彼と一緒に僕に毒の魔法を教えていた人には、よく殴られたりしていたのに。
そんなことを思い出したら、パンを食べる手も止まる。
ついでに、パーティー会場で自分の晒した醜態も思い出して凹む。
僕が隅に座っていたことも逃げ出したことも、みんなが全く覚えていませんように……
もう全部忘れて食事に集中しようとするのに、今度は出てきた時のことを思い出した。
ドルニテットに出て行けって言われて出てきたけど、よかったのかな……僕の主人はレヴェリルイン。レヴェリルインの許可なく何かをしちゃいけないのに、勝手に部屋を出てきてしまった。
そのことを思い出したら、血の気が引いて行く。
戻った方がいいのか? いや、戻ったって、どんな顔をしていいか分からない。どうせまた、刺すような視線が一斉に来るんだろう。それを掻い潜って、レヴェリルインに会って、なんて言おう。さっき勝手に出て行って、すみません、か? だけど、レヴェリルインだって、僕となんか話したくないだろうし、下手に戻ったら、余計に迷惑かもしれない。ドルニテットにも、なんで戻ったのか説明できないし……
どうしよう。
いろいろ考え出すと、不安が止まらなくなる。頭を抱えそうになって、手からパンが落ちて、レヴェリルインのことを思い出した。
レヴェリルインは、わざわざパン持ってきてくれたんだ。失敗作の僕に勝手にそんなことしたら、後でヒソヒソ言われることを知りながら。
レヴェリルインは、僕に毒の魔法を教えた人だ。だから、失敗したのは彼だと陰口を叩かれている。僕なんかさっさと廃棄すればいいのに、レヴェリルインはそうしなかった。
優秀な魔法使いで、国王にも頼りにされる伯爵。その弟である彼は、どこへ行っても注目される。その背後に僕がついていると、失敗作を連れて歩いているように見えるらしい。そのせいなのかは分からないけど、伯爵家の名を汚したと言われて、酷い目にあったことがある。その日から、レヴェリルインは僕と目を合わせなくなったし、僕を連れて歩くこともほとんどなくなった。もともと口数の少ない人だったけど、僕は最近、彼の声を聞いていない気がする。
それでも、こうして食事をくれる彼から、僕はあっさり逃げ出したりして……
不安の次に自己嫌悪が襲ってくる。
やっぱり、こんなのだめだ。ちゃんと謝りに行かなきゃ。
僕は立ち上がった。
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