普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
3 / 105

3.行かなきゃ

しおりを挟む

 レヴェリルインに謝りに行くことを決めた僕は、ドキドキしながら自分の部屋のドアに振り向いた。

 僕の方からレヴェリルインに会いに行くことは、ほとんどない。
 前にレヴェリルインの部屋に行ったのは、彼が僕の部屋に忘れ物をした時だから、半年前だ。
 その時は何も言えずに忘れ物だけ渡して、ほとんど逃げるようにして自分の部屋に戻った。
 そのあとしばらく後悔と自己嫌悪で動けなくなってたんだっけ。

 今度は忘れ物じゃなくて、勝手に戻ったことを謝るんだから、ちゃんとレヴェリルインに会って、勝手に戻ってごめんなさいって言わなきゃ。

 ……できる気がしない。

 だけど、ここで悩んでいたら、結局行かなくなるのは分かっている。勝手に失敗作が姿を消して、もしかしたらレヴェリルインは焦っているかもしれない。

 意を決してドアを開けようとしたら、いつのまにか足元に、小さな魔物がいるのを見つけた。真っ白い子犬みたいなもので、それは、僕に気づかれたことに気づいて、すぐに逃げて行こうとする。

 慌てて、抱っこして捕まえる。

 魔物は、僕のことを見上げてキュトンとしていた。体もしっぽももふもふで、抱き上げるだけで、なんだか気持ちいい。

 魔物は、命を持たず、魔力だけで動く意志のないもの。形も様々で、自由に姿を変えることもある。
 僕にも、ほんのちょっとくらい魔力が残っているから、こうして触れていれば、これが魔物ってことくらいは分かる。

 だけど、僕が今捕まえたこれは、魔物に見えない。可愛いくらいだ。本当に魔物か?

 でも、魔物は、最初は小さくても放っておけばどんどん大きく強力なものになって人を襲う。放ってはおけない。

 この辺りはよく魔物が出たり、失敗した魔法の暴走でトラブルが起こるから、緊急の時は、すぐに誰かに伝えるように言われている。これのことも、レヴェリルインに話さなきゃ。

 ってことは、話すことが増えたのか……

 項垂れてしまう。そんなにいっぱい話せるかな……

 普段、僕とレヴェリルインの会話は、レヴェリルインが何か言って、僕が「はい。マスター」って答える。それだけ。

 ……そんなんで、僕はよく謝りに行こうなんて思ったな……まともに話せないのに、レヴェリルインの前に行ったりしたら、余計に迷惑なんじゃ……

 って、また行かなくなりそうなことを考えている。

 今はこうして、魔物だって見つけたんだ。ちゃんと、言いに行かなきゃ。

 魔物を見つけたって報告してから、パーティーの件を謝るんだ。勝手に戻ってごめんなさいって。僕が勝手に出て行ったことが知れたら、失敗作から目を離したと言って、レヴェリルインが責められるかも知れないんだから、できるだけ目立たないように行かなきゃ。

 でも、パーティーの会場に魔物を連れていくわけにはいかない。僕の腕の中の魔物は、まだ子犬みたいに尻尾を振っているけど、いつ凶暴化するか、分からない。万が一パーティーの席で暴れ始めたら大変だ。

 だけど、これを部屋に置いてレヴェリルインに報告に行ったら、その間に逃げてしまうかもしれない。部屋で凶暴化するかもしれないし……

 少し考えて、僕は、魔物を自分の服の中に突っ込んだ。
 これなら、いきなり誰かに襲い掛かることはないだろう。レヴェリルインに会って、さっきのことを謝って、魔物のことを話すんだ。

 やることが増えて、ますます自信がなくなりそう。

 って、弱気になってどうするんだ。魔物のことだってあるんだから、絶対に行かなきゃ。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...