普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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3.行かなきゃ

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 レヴェリルインに謝りに行くことを決めた僕は、ドキドキしながら自分の部屋のドアに振り向いた。

 僕の方からレヴェリルインに会いに行くことは、ほとんどない。
 前にレヴェリルインの部屋に行ったのは、彼が僕の部屋に忘れ物をした時だから、半年前だ。
 その時は何も言えずに忘れ物だけ渡して、ほとんど逃げるようにして自分の部屋に戻った。
 そのあとしばらく後悔と自己嫌悪で動けなくなってたんだっけ。

 今度は忘れ物じゃなくて、勝手に戻ったことを謝るんだから、ちゃんとレヴェリルインに会って、勝手に戻ってごめんなさいって言わなきゃ。

 ……できる気がしない。

 だけど、ここで悩んでいたら、結局行かなくなるのは分かっている。勝手に失敗作が姿を消して、もしかしたらレヴェリルインは焦っているかもしれない。

 意を決してドアを開けようとしたら、いつのまにか足元に、小さな魔物がいるのを見つけた。真っ白い子犬みたいなもので、それは、僕に気づかれたことに気づいて、すぐに逃げて行こうとする。

 慌てて、抱っこして捕まえる。

 魔物は、僕のことを見上げてキュトンとしていた。体もしっぽももふもふで、抱き上げるだけで、なんだか気持ちいい。

 魔物は、命を持たず、魔力だけで動く意志のないもの。形も様々で、自由に姿を変えることもある。
 僕にも、ほんのちょっとくらい魔力が残っているから、こうして触れていれば、これが魔物ってことくらいは分かる。

 だけど、僕が今捕まえたこれは、魔物に見えない。可愛いくらいだ。本当に魔物か?

 でも、魔物は、最初は小さくても放っておけばどんどん大きく強力なものになって人を襲う。放ってはおけない。

 この辺りはよく魔物が出たり、失敗した魔法の暴走でトラブルが起こるから、緊急の時は、すぐに誰かに伝えるように言われている。これのことも、レヴェリルインに話さなきゃ。

 ってことは、話すことが増えたのか……

 項垂れてしまう。そんなにいっぱい話せるかな……

 普段、僕とレヴェリルインの会話は、レヴェリルインが何か言って、僕が「はい。マスター」って答える。それだけ。

 ……そんなんで、僕はよく謝りに行こうなんて思ったな……まともに話せないのに、レヴェリルインの前に行ったりしたら、余計に迷惑なんじゃ……

 って、また行かなくなりそうなことを考えている。

 今はこうして、魔物だって見つけたんだ。ちゃんと、言いに行かなきゃ。

 魔物を見つけたって報告してから、パーティーの件を謝るんだ。勝手に戻ってごめんなさいって。僕が勝手に出て行ったことが知れたら、失敗作から目を離したと言って、レヴェリルインが責められるかも知れないんだから、できるだけ目立たないように行かなきゃ。

 でも、パーティーの会場に魔物を連れていくわけにはいかない。僕の腕の中の魔物は、まだ子犬みたいに尻尾を振っているけど、いつ凶暴化するか、分からない。万が一パーティーの席で暴れ始めたら大変だ。

 だけど、これを部屋に置いてレヴェリルインに報告に行ったら、その間に逃げてしまうかもしれない。部屋で凶暴化するかもしれないし……

 少し考えて、僕は、魔物を自分の服の中に突っ込んだ。
 これなら、いきなり誰かに襲い掛かることはないだろう。レヴェリルインに会って、さっきのことを謝って、魔物のことを話すんだ。

 やることが増えて、ますます自信がなくなりそう。

 って、弱気になってどうするんだ。魔物のことだってあるんだから、絶対に行かなきゃ。
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