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4.部屋に戻りたい
しおりを挟む自分の部屋のドアから顔を出す。
廊下には誰もいない。
勝手に部屋を出るなって言われているけど、緊急の時は別。
それでも、実際に報告に行くのは初めてだ。いつもは僕が気づく前に、誰かが飛んでくる。大体はレヴェリルインで、たまにドルニテット。彼らが気づくから、僕が報告することはなかったんだ。
それなのに、なんで今日に限って……みんなパーティーに夢中なのかな? どっちにしろ、見つけたんだから、ちゃんと報告しなきゃ。
パーティーの会場に向かおうとしたら、隣の部屋から物音がした。レヴェリルインの部屋からだ。
誰かいるのか? もしかしたら、レヴェリルインはもう部屋に戻ったのかもしれない。
それならラッキーだ。パーティー会場に行かなくて済むし、魔物を会場に連れて行かなくていい。
僕は部屋を出て、あたりをキョロキョロ見渡した。
誰もいない。失敗作の僕が姿を見せることをめちゃくちゃ嫌がる人もいるから、できるだけ誰にも見つからないように、レヴェリルインの部屋まで行きたい。
隣の部屋に行くだけなのに、ドキドキする。
そんなことをしていたら、腕の中の子犬みたいな魔物が暴れ出した。
慌ててそれを強く抱きしめる。まるで意志があるみたいだ。魔物って、意志がないんじゃなかったか?
だけどそれは生きているかのように、レヴェリルインの部屋のドアに向かって尻尾を振ってる。魔物なんて嘘で、本当に犬なんじゃないかとすら思う。
とにかく急いだ方がいい。ずーっとここにいたら、魔物を逃してしまうかも知れない。
もう一回キョロキョロして、隣の部屋に走った。
ドアの前までくる。廊下を歩いてくる人は誰もいない。今のうちに用事を済まそう。
すぐにノックしようとしたけど、部屋の中から「隠せっ」って言う、レヴェリルインの声がした。そして、またガタガタ物音がする。
隠せってなんだろう……何か隠しているのか? 見られたらまずいもの?
じゃあ、今、ノックしない方がいいのか……
……隠すまで待とう。
しばらく、子犬みたいな魔物を抱っこしたまま、部屋の外で待つ。
部屋の中では、しばらくガタガタ音がしている。
もう少し待つ。
……だんだん廊下を誰かが歩いてこないか心配になってきた。
抱っこした魔物だって凶暴化するかも知れないのに、ここでずっと待ってていいのか?
部屋の中からも、もう物音はしない。
隠し終わったのかな……
こんこんと、ドアをノックする。
するとすぐに、レヴェリルインの声で、少し待っていろと言われた。
まだ隠してなかったのか。もう少し待てばよかった。
だけど、少しって……いつまで?
できるだけ早く出てきてほしい。魔物もいるし。
だけどいつまで待っても、なかなかドアは開かない。
そんなに大事なものを隠していたのか? なんだか悪いことをしたな……
それに「隠せ」って言っていたってことは、多分、レヴェリルイン以外に誰かいるんだ。
やっぱりこなきゃよかった。なんで僕はこう、余計なことばっかりしちゃうんだ。
もうすでに何度目か分からなくなった自己嫌悪。
部屋に戻りたくなってきた。帰りたい。だけど、レヴェリルインには、謝らなきゃならないんだ。だいたい魔物だって、放っておいたらこの屋敷にいる人みんなが危険だ。
それに僕は、パンをもらっておいて、何も言ってない。そのお礼も言うんだ。
お詫びとお礼と魔物だ。よし、覚えた。最初はお礼から言うか。
開かない扉を前に、ドキドキしてきた。
そんなに一生懸命に隠さなくてもいいのに。
そもそも、この部屋に来たのは僕。部屋に入れる必要はないし、何かを見られたところで、僕を処分すればいいだけの話だ。部屋を訪ねて来たのが僕って知らないから、レヴェリルインは焦っているだけだ。じゃあ、最初に僕ですって言えばよかったのか。
あ、でも、そうしたら、僕は今度こそ廃棄処分じゃないか!!
……廃棄処分って、何されるんだろう。ゴミみたいに燃やされるのか? さすがにそれは怖いっ!
一思いに殺されたいけど、向こうには、僕に対してそんなことをする義理もない。
…………帰りたい。
体がガタガタ震えてる。やっぱり廃棄処分なんて嫌だ! だけど魔物がいるから帰れないし……
そうだ! 何も見なかったら、廃棄処分を先延ばしにできるかもしれない。
とにかく何も見ないようにしなきゃ。だけど、それはどうすればいいんだ?
完全に混乱した僕は、子犬で顔を隠して目を瞑って蹲った。
そこですぐに正気に戻る。何をしているんだ、僕は。
だけど、立ち上がる前にレヴェリルインの部屋のドアが開いてしまう。
出てきたレヴェリルインは、驚く様子もなく、俺を見下ろした。
「…………何をしているんだ?」
「……ぁ……マスター…………あの……」
「中に入れ」
「はい」
招かれるままに、僕はその部屋に入った。
怒ってはいないのか……
部屋の中にも変わったものはないし、無事に隠せたみたいだ。
ちょっとホッとした。
だけどすぐに絶望した。部屋には予想通り先客がいたからだ。ずーっと僕を睨んでいるドルニテットだ。
部屋に戻りたい。今すぐに。
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