普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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39.僕は全部

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 僕にだって、その杖の価値は分かる。僕に渡すべきじゃない。僕に魔力を返すより、彼が失ったものを取り返すべきだ。

「あ、あのっ……ま、マスター!! こ、これは……マスターのためにっ……!! そ、それに……僕、今、ま、ま、魔力……つ、使え……ないから……持ってても……」
「魔力を使えないから、その杖を使うんだ。それを持って、隣町へ行く」
「え…………?」
「向こうの海岸線には、魔物が多い。各地のギルドに討伐の依頼が絶えないほどにだ。その魔力を奪う杖で、魔物から魔力もいただいて、ついでに報酬もいただきに行こう」
「それならっ……僕じゃなくて、マスターが使った方が…………こ、こんな……き、貴重なものですっ!! そ、そんなもの……僕が……」
「お前のために作ったものだ。それはお前にしか扱えない」
「そ、そんな…………む、無理……無理です…………」
「……そんな泣きそうな顔で煽るな」
「あ、あおるっ……??!! ぼ、僕はっ……!!」
「なんでも受け取ると言ったのはお前だ」
「で、でもっ……! ゆ、許して……許してください……僕……し、失敗作なんです……失敗……してるんです…………僕っ……野菜だって落としたんです!!!」
「野菜……? ああ、あれか」
「さっき……あ、洗ってる時にっ……も、申し訳ございませんっっ……! そんなこともっ……できないんです! 野菜も……あ、洗えないのにっ……それなのに……! ま、マスターに……報告もできなくて……そんな僕にっ……!! こ、こんなものっ…………い、いただけませんっ!!」
「落ち着け。野菜の話は後でいい」
「だめっ……マスター……!!」
「だめじゃない。いい加減受け取らないと、ただじゃ置かないぞ」
「え!!??」

 怖いことを言われて、僕は震え上がってしまう。
 すると、レヴェリルインは、ニヤリと笑って言った。

「俺が渡したものは全部受け取ると言ったじゃないか。それに、どう扱われてもいいんだろう? 俺の好きにしろと、そう言ったくせに、今更嫌だと言うのか?」
「そ、それは……」

 好きに扱えとは言ったけど、こんなの想像してなかった。こんな貴重なもの渡されるなんて。絶対に無理だ。

 だけど……

 僕はもう一度、レヴェリルインを見上げた。そしたら彼と目が合う。

 確かに、僕はこの人に、好きにしてくれって言ったんだ。それなのに、今更「ダメ」なんて、僕だっておかしいと思う。

 それに、色々と言い訳しているけれど、とどのつまり、僕は、怖いだけ。また失敗して、失望されるのが。
 怖いからって、自分で言ったことを簡単に反故にして、レヴェリルインに背を向けるなんて……その方がダメだ。

 この杖があれば、レヴェリルインが失ったものが返ってくるかもしれない。

 だけど、この杖はまだ、完成していない。これを完成させることが、僕に与えられた主命ってことになるのかもしれない。

 レヴェリルインを見上げて、僕は決心した。

 彼が僕に渡すって言ってるんだ。彼がこう言っているなら……受け取らなきゃ。

 ガタガタ震えながらも、僕はそれを受け取った。
 見た目よりずっと軽い。これなら、僕にも持てる。
 それなのに、ずっと重く感じる。まだ怖いんだ。

 だけど、好きに扱えって言ったのは僕。精一杯仕えるって決めたんだ。

「わ、わ、わかり……ました……まっ……マスター……ぼ、僕っ……か、必ずっ……これっ……! つ、使えるようにっ……します!」

 決意しながらも、怖くて震えている。そんな僕の両頬に、レヴェリルインは手を置いて、顔を近づけてきた。

「ひゃっ……!」

 た、ただでさえ、人が近づいてくると怖いのにっ……! あと少しでおでこがくっついちゃいそうなくらい近寄られて、びっくりして、震えだけ収まった。

 レヴェリルインは、僕に顔を近づけたまま言う。

「それはお前のために作った。お前に教えたことも、お前のために使えばいい。お前に渡したものも、お前のために渡した。もう、全てお前のものだ」
「は、は、はい……」
「……そんな顔をしなくても、俺がそばにいるだろう。迷ったら俺に聞け。俺はお前のマスターなんだぞ」
「…………は、はい…………」

 うなずいた。

 この人の力になりたい。

 杖を見下ろす。これがあれば、レヴェリルインが失ったものを取り返せるかもしれない。

 すると、そばで成り行きを見守っていたソアドルトが、腕を組んでレヴェリルインを睨みつけた。

「それで? そのチビに魔力を返すために、剣術使いを使って、隣町に入ろうって言うのか?」
「ああ、そうだ」

 頷くレヴェリルインに、ソアドルトはきつい目を向ける。けれど、レヴェリルインは、そんな敵意剥き出しの彼を宥めるように言った。

「海岸の魔物たちには、隣町も手を焼いている。剣術使いのためにもなるはずだ」
「黙れ!! 剣術使いは魔法使いには協力しない!!」

 そう言って、彼はレヴェリルインに背を向ける。そして、背中の羽を広げて飛び上がった。

「せいぜい足掻いてろっ! どうせお前たちは全員っ…………明日にはお尋ねものだ!! 俺がお前なんか捕まえて……処刑してやるからな!! 警備隊舐めんな!!」

 そう言って、彼は飛んでいってしまう。

 その後ろ姿を見上げながら、ラックトラートさんが肩を落として言った。

「すみません……ソアドルトは、ああ見えて優しいところもあるんですけど…………魔法使いが嫌いなんです。その……以前、魔法の実験台にされかけたことがあるらしくて……」
「そうか…………お前もさっさと街へ帰れ。俺たちといると、お前も反逆者の仲間入りだぞ」
「僕も仲間に入れていただけるんですか!? レヴェリルイン様!」
「……そうは言っていない。帰れと言っているんだ」
「大丈夫です! 僕の心配は無用です!! 危なくなったら逃げます!」
「……お前の心配などしていない。帰れ……」
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