38 / 105
38.僕、逆らってるのに!?
しおりを挟む僕に、魔力を返す……?? え、えっと……それって……レヴェリルインは、僕のためにそんなことしようとしてるってことか!? そんなの、絶対にダメだ!!
「ま、マスター! ぼ、僕っ……! もうっ……! ま、魔力……なんか、いりません!! だ、だからっ……!! だから、そ、そんな、あ、危ないことっ……しないでっ……ください!! 僕なんかのためにっ……!!」
喚いていたら、マスターに、こん、と軽く拳で頭を小突かれた。
「ま、マスター??」
「俺が渡すものは、全て受け取れと言っただろう?」
「あ……え、えと……は、はい! う、受け取りますっ…………で、でも……そのせいで、マスターが……き、き、危険な目に……」
「そんなことは気にしなくていい。それに、向こうへ行くことは、俺のためでもある」
そう言って、レヴェリルインは手をぎゅっと握った。すると、その手に炎のようなものが現れる。炎は見る間に姿を変え、大きな杖が現れた。炎を宝石にした様な物でできたそれは、長さは僕より少し大きいくらいあって、怪しい色を放っている。見ていると光だけで目が眩みそうだったけど、その杖をレヴェリルインが握ると、光はだんだん消えていく。
杖が出てきたのに気づいたのか、ドルニテットが怖い目をして近づいてきた。
「兄上っ……!! そんなものを安易にこんなところで見せられては困ります!」
「……もう隠すこともないだろう」
レヴェリルインは、僕にその杖を差し出した。
「え、え、えっと…………こ、こ、これ……は……??」
その杖の正体すら分からなくて、おろおろしていると、ドルニテットが僕を睨みつけてくる。
「……そんなことも分からないのかっ……!! それは貴様のために馬鹿な兄上が生成した、魔力を奪う杖だ!!」
「え……」
こ、これって……れ、レヴェリルインが、わざわざ、僕のためにっ……!???
驚いて、僕は何も言えなかった。レヴェリルインが僕のために、わざわざそんなものを作っているなんて、思わなかった。
だけど僕以外に、ラックトラートさんとソアドルトもびっくりしたみたい。ソアドルトは、杖を睨んでいたし、ラックトラートさんは、びっくりしすぎたのか、悲鳴みたいな声をあげていた。
「え、ええ、ええええーーーーーーっっ!! ま、魔力を奪う!?? し、正気ですか!? そ、それっ……そんなのがあれば、毒の魔法だって、完成するんじゃないんですか!?」
けれどそれを、レヴェリルインはあっさり否定する。
「黙れ。これは、コフィレグトグスのためだけに作ったんだ」
「た、ためっ……だけ!?? だけって言いましたか!? し、失礼ながら、馬鹿ですか!?」
「ばか?」
「だって……それは魔物への切り札になります! それを……っ! い、今すぐクリウールト殿下にお話しするべきです!! 王家にも報告すれば、爵位なんかすぐ返ってきて、ほ、報酬だって、莫大な額がっ……! 勲章だってもらえます!!」
「いらん」
「え、ええええーー……馬鹿ですか?」
あっさり最高名誉を断ったレヴェリルインは、杖を僕に差し出した。
「これは、お前に魔力を返すためだけに作ったんだ」
「で、でもっ……!」
レヴェリルインがそう言ってくれたのは……嬉しい。だって、僕に魔力を返すこと、そんなに考えていてくれたんだ。だけど、そんなの、受け取れるはずがない。
ラックトラートさんの反応を見たら、貴重なものなんだって、僕にもわかる。だったら、それはレヴェリルインのために使うべきだ。彼が失ったものが、返ってくるかもしれないのに!
「ま、マスター……僕…………」
「俺が渡すものは、全て受け取れと命じたはずだ」
それを聞いて、体がビクッと震える。
確かに言われた。そして僕だって、はいって答えた。僕はレヴェリルインの従者だし、精一杯仕えるって決めたから、どんなことでも聞くつもりだ。
だけど、そんなものは受け取れない。それは、僕が持つべきじゃない。
「う、う……うけとれませんっ…………そ、そ、そんな……き、貴重なもの!! ぼ、僕の魔力っ……なら…………ほ、本当にっ!! ま、マスターがっ……気にされることではっ……! マスターの責任じゃないっっ……! ぜ、絶対っ……!! だからっ……だめっ!」
「落ち着け」
「でもっ……!」
「この杖は、このままでは使えない」
「え……?」
「今はこれはまだ、ただの棒切れほどの価値しかない」
レヴェリルインは、僕に近づいてきて、手を出すように言った。僕が恐る恐る手を出すと、レヴェリルインは、杖と僕の手を握る。すると、杖は小さく縮んでしまった。
「本当は完璧に消してしまいたいが、それだと、呼び出す際に、体に負担がかかる」
「は、はい……」
「いいか。この杖は、お前のそばにいれば、お前の魔力に合わせて変化する。ゆっくり、お前が魔力を使うためだけの杖に変わっていく。最初は使えないかもしれないが、いずれ使えるようになる」
「え……あ、はい……」
「はい、と返事をしたな?」
「え……?」
「だったら問題はないな。それを持って、それをお前用に育ててやれ」
「……へ? えっと…………」
……あ! いつのまにか、縮んだ杖、受け取ってる!! 小さくなったそれを握らされている。そして、また「はい」って言っちゃってる!! はいって言ったらダメなのに!
「え、え!? あ、や、やっぱりダメです!! こ、これはっ……!」
こんなの、受け取っちゃダメだ。何を「はい」なんて答えてるんだ!!
よく考えたら、僕用ってことは、僕しか使えなくなるってことだ。僕の魔力に合わせて変化しちゃったら、僕以外には使えなくなる。そんなの、失敗したら、大変じゃないか!!
そもそも、毒の魔法だって、僕は失敗した。こんな貴重な物を受け取って台無しにしたら、僕はもう二度と、レヴェリルインの前に立てない。
「む、無理…………むり、です……!! お、お返ししますっっっ!!」
「……お前がそれだけ頑なに無理だと言ったのは……久しぶりだな……」
レヴェリルイン……な、なんだかちょっと嬉しそう……?? 僕、命令に逆らってるのに!??
101
あなたにおすすめの小説
前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい
夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが……
◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。
◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。
◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ハイスペックストーカーに追われています
たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!!
と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。
完結しました。
家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている
香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。
異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。
途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。
「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!
陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。
陽七 葵
BL
主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。
しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。
蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。
だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。
そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。
そこから物語は始まるのだが——。
実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。
素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪
Sランク冒険者クロードは吸血鬼に愛される
あさざきゆずき
BL
ダンジョンで僕は死にかけていた。傷口から大量に出血していて、もう助かりそうにない。そんなとき、人間とは思えないほど美しくて強い男性が現れた。
ざまぁされたチョロ可愛い王子様は、俺が貰ってあげますね
ヒラヲ
BL
「オーレリア・キャクストン侯爵令嬢! この時をもって、そなたとの婚約を破棄する!」
オーレリアに嫌がらせを受けたというエイミーの言葉を真に受けた僕は、王立学園の卒業パーティーで婚約破棄を突き付ける。
しかし、突如現れた隣国の第一王子がオーレリアに婚約を申し込み、嫌がらせはエイミーの自作自演であることが発覚する。
その結果、僕は冤罪による断罪劇の責任を取らされることになってしまった。
「どうして僕がこんな目に遭わなければならないんだ!?」
卒業パーティーから一ヶ月後、王位継承権を剥奪された僕は王都を追放され、オールディス辺境伯領へと送られる。
見習い騎士として一からやり直すことになった僕に、指導係の辺境伯子息アイザックがやたら絡んでくるようになって……?
追放先の辺境伯子息×ざまぁされたナルシスト王子様
悪役令嬢を断罪しようとしてざまぁされた王子の、その後を書いたBL作品です。
虐げられΩは冷酷公爵に買われるが、実は最強の浄化能力者で運命の番でした
水凪しおん
BL
貧しい村で育った隠れオメガのリアム。彼の運命は、冷酷無比と噂される『銀薔薇の公爵』アシュレイと出会ったことで、激しく動き出す。
強大な魔力の呪いに苦しむ公爵にとって、リアムの持つ不思議な『浄化』の力は唯一の希望だった。道具として屋敷に囚われたリアムだったが、氷の仮面に隠された公爵の孤独と優しさに触れるうち、抗いがたい絆が芽生え始める。
「お前は、俺だけのものだ」
これは、身分も性も、運命さえも乗り越えていく、不器用で一途な二人の成り上がりロマンス。惹かれ合う魂が、やがて世界の理をも変える奇跡を紡ぎ出す――。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる