普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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41.話題……話題……

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 色々あったけど、なんとか食事が終わり、僕らは、湖のほとりでテントを張り、そこで一夜を明かすことになった。レヴェリルインが湖に魔法をかけてくれて、温泉みたいになったそこで体を洗って、僕らはテントに入った。

 テントはドルニテットが魔法具を使って出してくれた。テントとは言っても、中はかなり広くて、六つのベッドが並んで、奥にはソファとテーブルがある。

 左右に三つずつ並んだベッドの、右側の真ん中のベッドの上に、ラックトラートさんは、ゴロンと横になった。

「うわーーー!! すっごいですねー!! 僕ここーー!!」

 彼は布団の上をゴロゴロ転がりながら、楽しそう。
 レヴェリルインとドルニテットとヴァルアヴィフは、今湖の温泉に入っているから、今ここにいるのは僕と、ラックトラートさんだけ。湖はめちゃくちゃ広いんだからみんなで入ればいいんですって言うラックトラートさんの意見を、レヴェリルインが「絶対にダメだ」と言って却下したからだ。
 
 お風呂の間、僕は体を洗ってすぐに出ちゃったから、ラックトラートさんとはほとんど話していない。

 広いテントの中に、ついさっき会ったばかりの人と二人きり。

 ラックトラートさんはベッドの上にうつ伏せになって、魔法で尻尾と髪の毛を乾かしている。

 彼とどう距離をとっていいのかわからない僕は、隅にいるのもなんだか避けているように思われるかな、とか、近づきすぎるのもキモがられるかな、とか、色々考えた挙句、隣のベッドの端っこで、なぜか正座で座っている。

 僕、何をしているんだ。

 この距離だと、僕にとっては結構大きな声を出さないと、ラックトラートさんに聞こえない。これじゃ、話しかけるのも容易じゃない。

 風呂の間、僕は一言も話してない。
 「いいお湯ですねー」って言われて、「はい」って答えたけど、多分あれは聞こえていない。
 お風呂あがるときは、「先に上がります」って言うはずが、結局勇気がしぼんで何も言えなかった。

 だから、僕はこの人と二人きりになってから、始終、無言。

 ど、どうしよう……

 知らない人と二人きりなんて、どうしていいかわからない。

 だけど僕、ラックトラートさんに聞きたいこととか言いたいことがあるんだ。
 初めて会った時、僕、名前を聞かれてちゃんと答えてない。
 レヴェリルインは虐殺なんてしてないし、王子の暗殺なんて考えてないって、本当に分かってくれたのか聞きたい。
 それにさっき、毒の魔法が完成するかもって言ってた。あれがどういうことなのか聞きたい。あ、これはレヴェリルインに聞けばいいのか……

 僕はずっと屋敷の奥にいたから、何も知らない。それに対して、ラックトラートさんは色々知ってるみたいだし、隣町のこととか、教えてほしいこともある。

 だけど、なかなか口を開くこともできなくて、結局遠くからラックトラートさんをじーーっと見てるだけ。

 服は、魔法でレヴェリルインが洗ってくれた。ラックトラートさんのもだ。だから僕は今、レヴェリルインが買っておいてくれたらしいパジャマを着ている。可愛い狼の柄のパジャマは肌触りが良くて、そのまま眠ってしまいそうなくらい気持ちいい。

 そして、ラックトラートさんもいつの間にか、たぬき柄のパジャマを着ている。

 あれもリュックに入ってたのかな?
 ……あ、それを聞いて話題を作ってみるのはどうだろう! これはいいかもしれない!!

 僕は、ラックトラートさんに振り向いた。彼はもう、尻尾も髪も乾かし終えたみたい。尻尾を丁寧にブラッシングしてる。尻尾の手入れに余念がないみたい。

 レヴェリルインもするのかな……だけど、あの長身のどこか冷たい目をした彼が、一生懸命に尻尾を整えているところって、想像できない。ちょっと見てみたい……じゃなくて今は、ラックトラートさんと話して、聞きたいことを聞くんだ!!
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