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42.なんでこんなに近いんだ!?
しおりを挟む「あ、あのっ……!! ラックトラート……さん……」
最初だけ声が大きくて、だんだん声が小さくなる。
聞こえたか不安だったけど、ベッドの上で転がっていたラックトラートさんは、ムクッと起き上がって、僕に振り向いた。
彼と目があったら……これまで考えてたこと、全部忘れた。な、何言うんだっけ……
「あ、あの…………あの……あの…………あの! あの!! あっっっっ!! か、可愛いっ……狸です……ね?」
違う。こうじゃない。
可愛い狸ってなんだよ。たぬきじゃなくてパジャマだ。
色々違うじゃないか。しかも最後の方、自分でよく分からなくなって、疑問形になってる。
ど、どうしよう……ラックトラートさん、キョトンとしちゃってる……
「たぬき?」
「あ、あのっ……! ち、ちがっ……! えっと……」
「やっぱり、わかりますか?」
「え?」
「僕、こう見えて仲間内では人気あるんですよ! って言っても、ペットみたいって言われちゃってるんですけど」
「……え、えっと……あの、パジャマ……」
「パジャマ? あ、こ、これ!? なんだー……パジャマの方ですか……」
「あ!!! す、すみません…………あ、あああああの!! ラックトラートさんもっ……か、可愛いと思います!!」
「そうですか? ありがとうございます。でも、完全にペット扱いで、外に出てもそう見えるらしくて。無理矢理連れて行かれそうになったこともあって、困ってるんです」
「うえ!?」
それって……ペットとして……というか、奴隷として連れていかれそうになったってことか? この辺りではだいぶなくなったけど、魔力があまりなくて抵抗できない人たちを奴隷として売り飛ばす人はまだ存在している。そうでなかったとしても、無理矢理なんて、彼にとっては恐ろしい記憶だったはずだ。
僕、何を言っているんだ……僕の馬鹿。僕なんか、黙って隅でいないふりしてればいいんだ。むしろ、消えてなくなればいいんだ。
何を言っても僕って失敗する。しかも、ラックトラートさんを傷つけてしまうなんて……そんなことをされる辛さを知っているくせに。僕は、なんてことを……
「あ、あのっ……ご、ごめんなさいっ!! 本当にっ……へ、変なこと言って……僕っ……あ、あなたと、は、は、話したかっただけなんです!!! それで……それで……本当にごめんなさい!!!」
床に手をついて頭をつけて謝る。ひどいことをしてしまったんだ。
そんな僕に、ラックトラートさんは、びっくりしたみたいだったけど、少しして、吹き出す声がした。
「ははっ……なんだか面白い人ですね。あ、気にしなくていいんですよ? 街で僕らの新聞丸めてる魔法ギルドの奴らに会っちゃって、腹が立ってつっかかったら無理矢理裏路地に連れ込まれちゃったんです。せっかくだから逆に連れ去ってギルドの不祥事でも話してもらおうと思って、こっそり後ろから気絶の魔法かけたら失敗して、その人いきなり眠りこけちゃって、悪夢で動けなくなっちゃったんですよー」
「……」
「そんなところを警備隊に見つかっちゃって、追い回されちゃって。あの時は本当に困りました。あっちが悪いのに! そう思いますよね!? コフィレグトグスさん!」
「え…………えっと……」
えーっと……そ、それは突っかかった方も悪いんじゃないかな……
だけど、彼はぎゅうっと僕の手を握ってくる。
「分かってもらえて嬉しいです!」
「は!? いや、僕は……」
「あ! そうだ!! コフィレグトグスさんにも、聞きたいことがあったんだ!!」
「は!? え…………え?」
「僕の推理では……あなたはレヴェリルイン様にとってかなり大事な……いえ、特別な人だ!!」
「へっ…………?」
「あなたには、聞きたいことがたくさんあるんです……」
「あ、あのっ……」
なぜかラックトラートさんは顔を近づけてくる。なんでこんなに近づいてくるんだ!?
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