普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
41 / 105

41.話題……話題……

しおりを挟む

 色々あったけど、なんとか食事が終わり、僕らは、湖のほとりでテントを張り、そこで一夜を明かすことになった。レヴェリルインが湖に魔法をかけてくれて、温泉みたいになったそこで体を洗って、僕らはテントに入った。

 テントはドルニテットが魔法具を使って出してくれた。テントとは言っても、中はかなり広くて、六つのベッドが並んで、奥にはソファとテーブルがある。

 左右に三つずつ並んだベッドの、右側の真ん中のベッドの上に、ラックトラートさんは、ゴロンと横になった。

「うわーーー!! すっごいですねー!! 僕ここーー!!」

 彼は布団の上をゴロゴロ転がりながら、楽しそう。
 レヴェリルインとドルニテットとヴァルアヴィフは、今湖の温泉に入っているから、今ここにいるのは僕と、ラックトラートさんだけ。湖はめちゃくちゃ広いんだからみんなで入ればいいんですって言うラックトラートさんの意見を、レヴェリルインが「絶対にダメだ」と言って却下したからだ。
 
 お風呂の間、僕は体を洗ってすぐに出ちゃったから、ラックトラートさんとはほとんど話していない。

 広いテントの中に、ついさっき会ったばかりの人と二人きり。

 ラックトラートさんはベッドの上にうつ伏せになって、魔法で尻尾と髪の毛を乾かしている。

 彼とどう距離をとっていいのかわからない僕は、隅にいるのもなんだか避けているように思われるかな、とか、近づきすぎるのもキモがられるかな、とか、色々考えた挙句、隣のベッドの端っこで、なぜか正座で座っている。

 僕、何をしているんだ。

 この距離だと、僕にとっては結構大きな声を出さないと、ラックトラートさんに聞こえない。これじゃ、話しかけるのも容易じゃない。

 風呂の間、僕は一言も話してない。
 「いいお湯ですねー」って言われて、「はい」って答えたけど、多分あれは聞こえていない。
 お風呂あがるときは、「先に上がります」って言うはずが、結局勇気がしぼんで何も言えなかった。

 だから、僕はこの人と二人きりになってから、始終、無言。

 ど、どうしよう……

 知らない人と二人きりなんて、どうしていいかわからない。

 だけど僕、ラックトラートさんに聞きたいこととか言いたいことがあるんだ。
 初めて会った時、僕、名前を聞かれてちゃんと答えてない。
 レヴェリルインは虐殺なんてしてないし、王子の暗殺なんて考えてないって、本当に分かってくれたのか聞きたい。
 それにさっき、毒の魔法が完成するかもって言ってた。あれがどういうことなのか聞きたい。あ、これはレヴェリルインに聞けばいいのか……

 僕はずっと屋敷の奥にいたから、何も知らない。それに対して、ラックトラートさんは色々知ってるみたいだし、隣町のこととか、教えてほしいこともある。

 だけど、なかなか口を開くこともできなくて、結局遠くからラックトラートさんをじーーっと見てるだけ。

 服は、魔法でレヴェリルインが洗ってくれた。ラックトラートさんのもだ。だから僕は今、レヴェリルインが買っておいてくれたらしいパジャマを着ている。可愛い狼の柄のパジャマは肌触りが良くて、そのまま眠ってしまいそうなくらい気持ちいい。

 そして、ラックトラートさんもいつの間にか、たぬき柄のパジャマを着ている。

 あれもリュックに入ってたのかな?
 ……あ、それを聞いて話題を作ってみるのはどうだろう! これはいいかもしれない!!

 僕は、ラックトラートさんに振り向いた。彼はもう、尻尾も髪も乾かし終えたみたい。尻尾を丁寧にブラッシングしてる。尻尾の手入れに余念がないみたい。

 レヴェリルインもするのかな……だけど、あの長身のどこか冷たい目をした彼が、一生懸命に尻尾を整えているところって、想像できない。ちょっと見てみたい……じゃなくて今は、ラックトラートさんと話して、聞きたいことを聞くんだ!!
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

前世が飼い猫だったので、今世もちゃんと飼って下さい

夜鳥すぱり
BL
黒猫のニャリスは、騎士のラクロア(20)の家の飼い猫。とってもとっても、飼い主のラクロアのことが大好きで、いつも一緒に過ごしていました。ある寒い日、メイドが何か怪しげな液体をラクロアが飲むワインへ入れています。ニャリスは、ラクロアに飲まないように訴えるが…… ◆いつもハート、エール、しおりをありがとうございます。冒頭暗いのに耐えて読んでくれてありがとうございました。いつもながら感謝です。 ◆お友達の花々緒(https://x.com/cacaotic)さんが、表紙絵描いて下さりました。可愛いニャリスと、悩ましげなラクロア様。 ◆これもいつか続きを書きたいです、猫の日にちょっとだけ続きを書いたのだけど、また直して投稿します。

家を追い出されたのでツバメをやろうとしたら強面の乳兄弟に反対されて困っている

香歌奈
BL
ある日、突然、セレンは生まれ育った伯爵家を追い出された。 異母兄の婚約者に乱暴を働こうとした罪らしいが、全く身に覚えがない。なのに伯爵家当主となっている異母兄は家から締め出したばかりか、ヴァーレン伯爵家の籍まで抹消したと言う。 途方に暮れたセレンは、年の離れた乳兄弟ギーズを頼ることにした。ギーズは顔に大きな傷跡が残る強面の騎士。悪人からは恐れられ、女子供からは怯えられているという。でもセレンにとっては子守をしてくれた優しいお兄さん。ギーズの家に置いてもらう日々は昔のようで居心地がいい。とはいえ、いつまでも養ってもらうわけにはいかない。しかしお坊ちゃん育ちで手に職があるわけでもなく……。 「僕は女性ウケがいい。この顔を生かしてツバメをしようかな」「おい、待て。ツバメの意味がわかっているのか!」美貌の天然青年に振り回される強面騎士は、ついに実力行使に出る?!

【本編完結】断罪される度に強くなる男は、いい加減転生を仕舞いたい

雷尾
BL
目の前には金髪碧眼の美形王太子と、隣には桃色の髪に水色の目を持つ美少年が生まれたてのバンビのように震えている。 延々と繰り返される婚約破棄。主人公は何回ループさせられたら気が済むのだろうか。一応完結ですが気が向いたら番外編追加予定です。

人質5歳の生存戦略! ―悪役王子はなんとか死ぬ気で生き延びたい!冤罪処刑はほんとムリぃ!―

ほしみ
ファンタジー
「え! ぼく、死ぬの!?」 前世、15歳で人生を終えたぼく。 目が覚めたら異世界の、5歳の王子様! けど、人質として大国に送られた危ない身分。 そして、夢で思い出してしまった最悪な事実。 「ぼく、このお話知ってる!!」 生まれ変わった先は、小説の中の悪役王子様!? このままだと、10年後に無実の罪であっさり処刑されちゃう!! 「むりむりむりむり、ぜったいにムリ!!」 生き延びるには、なんとか好感度を稼ぐしかない。 とにかく周りに気を使いまくって! 王子様たちは全力尊重! 侍女さんたちには迷惑かけない! ひたすら頑張れ、ぼく! ――猶予は後10年。 原作のお話は知ってる――でも、5歳の頭と体じゃうまくいかない! お菓子に惑わされて、勘違いで空回りして、毎回ドタバタのアタフタのアワアワ。 それでも、ぼくは諦めない。 だって、絶対の絶対に死にたくないからっ! 原作とはちょっと違う王子様たち、なんかびっくりな王様。 健気に奮闘する(ポンコツ)王子と、見守る人たち。 どうにか生き延びたい5才の、ほのぼのコミカル可愛いふわふわ物語。 (全年齢/ほのぼの/男性キャラ中心/嫌なキャラなし/1エピソード完結型/ほぼ毎日更新中)

ハイスペックストーカーに追われています

たかつきよしき
BL
祐樹は美少女顔負けの美貌で、朝の通勤ラッシュアワーを、女性専用車両に乗ることで回避していた。しかし、そんなことをしたバチなのか、ハイスペック男子の昌磨に一目惚れされて求愛をうける。男に告白されるなんて、冗談じゃねぇ!!と思ったが、この昌磨という男なかなかのハイスペック。利用できる!と、判断して、近づいたのが失敗の始まり。とある切っ掛けで、男だとバラしても昌磨の愛は諦めることを知らず、ハイスペックぶりをフルに活用して迫ってくる!! と言うタイトル通りの内容。前半は笑ってもらえたらなぁと言う気持ちで、後半はシリアスにBLらしく萌えると感じて頂けるように書きました。 完結しました。

転生したら、主人公の宿敵(でも俺の推し)の側近でした

リリーブルー
BL
「しごとより、いのち」厚労省の過労死等防止対策のスローガンです。過労死をゼロにし、健康で充実して働き続けることのできる社会へ。この小説の主人公は、仕事依存で過労死し異世界転生します。  仕事依存だった主人公(20代社畜)は、過労で倒れた拍子に異世界へ転生。目を覚ますと、そこは剣と魔法の世界——。愛読していた小説のラスボス貴族、すなわち原作主人公の宿敵(ライバル)レオナルト公爵に仕える側近の美青年貴族・シリル(20代)になっていた!  原作小説では悪役のレオナルト公爵。でも主人公はレオナルトに感情移入して読んでおり彼が推しだった! なので嬉しい!  だが問題は、そのラスボス貴族・レオナルト公爵(30代)が、物語の中では原作主人公にとっての宿敵ゆえに、原作小説では彼の冷酷な策略によって国家間の戦争へと突き進み、最終的にレオナルトと側近のシリルは処刑される運命だったことだ。 「俺、このままだと死ぬやつじゃん……」  死を回避するために、主人公、すなわち転生先の新しいシリルは、レオナルト公爵の信頼を得て歴史を変えようと決意。しかし、レオナルトは原作とは違い、どこか寂しげで孤独を抱えている様子。さらに、主人公が意外な才覚を発揮するたびに、公爵の態度が甘くなり、なぜか距離が近くなっていく。主人公は気づく。レオナルト公爵が悪に染まる原因は、彼の孤独と裏切られ続けた過去にあるのではないかと。そして彼を救おうと奔走するが、それは同時に、公爵からの執着を招くことになり——!?  原作主人公ラセル王太子も出てきて話は複雑に! 見どころ ・転生 ・主従  ・推しである原作悪役に溺愛される ・前世の経験と知識を活かす ・政治的な駆け引きとバトル要素(少し) ・ダークヒーロー(攻め)の変化(冷酷な公爵が愛を知り、主人公に執着・溺愛する過程) ・黒猫もふもふ 番外編では。 ・もふもふ獣人化 ・切ない裏側 ・少年時代 などなど 最初は、推しの信頼を得るために、ほのぼの日常スローライフ、かわいい黒猫が出てきます。中盤にバトルがあって、解決、という流れ。後日譚は、ほのぼのに戻るかも。本編は完結しましたが、後日譚や番外編、ifルートなど、続々更新中。

【完結】双子の兄が主人公で、困る

  *  ゆるゆ
BL
『きらきら男は僕のモノ』公言する、ぴんくの髪の主人公な兄のせいで、見た目はそっくりだが質実剛健、ちいさなことからコツコツとな双子の弟が、兄のとばっちりで断罪されかけたり、 悪役令息からいじわるされたり 、逆ハーレムになりかけたりとか、ほんとに困る──! 伴侶(予定)いるので。……って思ってたのに……! 本編、両親にごあいさつ編、完結しました! おまけのお話を、時々更新しています。 本編以外はぜんぶ、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中

risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。 任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。 快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。 アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——? 24000字程度の短編です。 ※BL(ボーイズラブ)作品です。 この作品は小説家になろうさんでも公開します。

処理中です...