普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている

迷路を跳ぶ狐

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43.それって

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 僕が怯えてベッドの上で後退りしていたら、突然、ラックトラートさんは微笑んだ。

「はは。冗談ですよー。僕、レヴェリルイン様の従者様に魔法をかけるほど、怖いもの知らずではありません」
「……」
「そーんな顔しないでください!! 魔法なんかかけないから、色々教えてくれませんか!? あなたに聞きたいことが山ほどあるんです!」
「え、は、はい……え? ぼくに?」
「はい! あ、そうだ! そうだ! お菓子を食べながら話しましょう!」
「ええ!?」

 ラックトラートさんは、テントの隅にあった大きなリュックから大きな箱を取り出した。

「これ!! 隣街で手に入れたんです!! 向こうの商人は、魔法使いとか剣術使いとか、分け隔てなく売ってくれるから、珍しいものが手に入りやすいんです! あ、そうだ!! お茶も入れましょう!! 紅茶はお好きですか!?」
「へ!? あ、はい……多分……」
「では、いれてきます!」
「え!? ま、まって!!」

 ラックトラートさんは、リュックから二つ、マグカップを取り出して、テントの外に飛び出していく。だけど、彼にだけお茶を淹れさせるわけにはいかない!

「ま、待ってくださっ……僕もっ……!!」

 慌てて追って、僕も外に出た。すると、彼は、焚き火にかけた鍋から、二つのティーカップにミルクティーを注いでくれた。

 そしてすぐにテントに戻る彼について、僕もテントに戻る。

 これ、ついていってるだけだ……手伝うつもりだったのに、何してるんだ。僕は。

 ラックトラートさんはソファに座って、その前にあるテーブルにマグカップを二つとお菓子の箱も並べて、僕にもソファの隣に座るように勧めてくれる。

「こっちです!! コフィレグトグスさん!」
「あ……はい……」

 恐る恐る、彼の隣に座る。

 また距離の取り方がわからず、座るだけで震える。あんまり近くによっても馴れ馴れしいだろうし、遠くに座っても、拒絶にとられる。

 ラックトラートさんとソファの端までの距離のできるだけ真ん中、そんなことを考えていたら、座るだけでひどくぎこちない動きになってしまった。

 だけど座れた。なんとか座れた。よくやった、僕。

 あ、そうだ。今なら言いたかったことも言えるし、聞きたかったことも聞けるんだ!!

 ちらっと、隣のラックトラートさんを盗み見る。彼はお菓子を食べながらお茶を飲んで、尻尾を振ってる。なんだかやっぱり楽しそう。

 今なら、聞いてもいい……はず!!

 えっと……

 初めて会った時、名前を聞かれてちゃんと答えてないから、それを話して、あ、あと、レヴェリルインは虐殺も王子の暗殺も企んでないって言って、毒の魔法のことを聞くんだ!

「あ、あのっ……!」
「どうしました?」
「あ、えっと……あ、あの!! マスターは……あ、あの……何も……た、企んで……なくて……」
「え?」
「あ、あの! 殿下を……あ、暗殺しようなんて……き、ぞくの虐殺も! してませんっっ!!」
「え? あ、それはもう、バルアヴィフ様に聞きました。城が爆破された時には、貴族たちも殿下もいなかったって」
「そっ……そうですか……よかった……」
「はい。すみません……街ではあんなこと言って」
「い、いえっ……分かって……いただけて、よかった……あっ……! ぼ、僕、コフィレグトグスって……言います……」
「へ? えーーっと……? あの、知ってます」
「え!?? え」
「だって、レヴェリルイン様やドルニテット様がそう呼んでいましたから。僕もずっと、コフィレグトグスさんって呼んでます!」
「あ、あ……そ、そうですね…………」

 そうか……そうだった。もう呼ばれてた。

 僕は何を言っているんだ……僕って本当にダメなやつ。人を前にすると緊張しすぎて半分パニックになる。

 ……って、だ、だめだ。今めげてどうするんだ。しっかりしろ、僕。

「あ、あのっ……」
「ああ、そうだ」

 僕と彼の声が重なってしまい、僕はすぐに黙った。

 僕って、間が悪すぎる……なんでこうなるんだ。

 もう泣きそうな僕に、ラックトラートさんは微笑んで言った。

「僕、先にいいですか?」
「は、はい……すみません……」
「コフィレグトグスさんって長いので、コフィレって呼んでいいですか?」
「あ、はい…………」
「では、僕のこともラックトとお呼びください!」
「は、はい……」
「それで……聞きたいことがあったんですけど……コフィレは、何者なんですか?」
「へっ!?」
「従者って言ってますけど、それだけにしては、レヴェリルイン様、あなたにだけ甘すぎませんか?」
「へっ……!? え、えっと…………」
「だって、ずっとあなたのこと見てます! 従者一人、あんなにずーっと見守ってるなんて、変です! それに、毒の魔法が完成するかもしれない杖を、あっさりあなたにあげちゃって!!」
「え、えと…………そ、それは……僕にも、よく…………」
「バルアヴィフ様に聞きました。毒の魔法を教えられて失敗した人って、あなたなんですよね!?」
「……は、はい……」
「レヴェリルイン様、あんなこと言ってますけど、本当はどうなんですか? 毒の魔法は……もしかして……成功しそうなんじゃないんですか!?」
「い、いえ……あ、あれは……確かにし、失敗で……」
「けれど、魔力を奪う杖は出来上がっています。それなら、毒の魔法も完成しそうですが……」

 やっぱりこの人、僕より毒の魔法に詳しいんだ!

 僕はずっと、それについて知りたかったんだ。そのチャンスだっ……!!

「あ、あのっ……!!」
「どうしました?」
「あの……あの! な、な、な、なんで……そう思うんですか……? ど、毒の魔法……完成してるって……」
「えっと……だ、だって、魔力を奪う杖ができてるんだから……あの、毒の魔法って、なんだか分かってますか?」
「いえ……」
「え、ええ!?? ほ、本気ですか……完成すれば、かなり凄いことなんですよ??」
「そうなんですか?」
「はい……レヴェリルイン様たちが完成させようとしていた魔法は、体を蝕み魔力を吸い上げる魔法なんです。これは魔物に対して、非常に有用です。なぜなら、魔物は魔力が暴れている物ですから、魔力さえ抜いてしまえば、簡単に無力化できるんです。しかし、これが人にも効くとしたら。それは魔法使いにとって脅威です。もちろん、人は物と違い、敵意を感じれば防御します。人に宿る魔力は消えたところで、生命力と共に湧いてきますから、簡単に魔力を奪うことなんてできません。完成するものが、どれだけの威力で、守護の魔法はどれだけ効くのか、それにひどく注目が集まっていたんです。しかし、毒の魔法を完成させた人はどこにもいません。なにより使うと体に負担がかかりすぎますし、多くの魔力を必要とするんです。普通にやれば使った人は死ぬんじゃないかって言われてたくらいです」
「ええ!? そ、そんな……」
「知らなかったんですか……? 今回の研究には、みんなが注目していました。その分、失敗したあなたをいつまでも殺さないことに、誰もが首を傾げていました。だって、あなたはもう魔力を失い、二度と魔法を使えないのに、毒の魔法の秘密を知っているでしょう?」
「え、えと……僕、教えられたことをしていただけで……」
「あなたは自分でも良く分かってなさそうですが……だけど、レヴェリルイン様が頑なに処分を拒むから、みんな怪しがってます。本当は成功してるんじゃないかって。王家が内緒で、貴族たちに一切報告せず、秘密裏に研究をすすめて、毒の魔法を独り占めしようとしてる、なんて噂が貴族たちの間に広がって、王家はだいぶ滅入ってたみたいですよ? だから、クリウールト殿下がここにきたんでしょうけど……結果は失敗ですね。レヴェリルイン様にまた固辞されて、逃げ帰ってるんだから。レヴェリルイン様たちの手配も、王家に不信感を持っている貴族達の反発が強くてうまくいってないみたいだし……そのうち、レヴェリルイン様やあなたに刺客でも差し向けてくるんじゃないですか?」
「……」

 それ、僕が処分されれば済む話なんじゃないかな……

 俯いていたら、ラックトラートさんは、慌てたように言った。

「あっ……あ、あのっ……! す、すみません!! 僕……変なこと言って…………」
「え!? あ……い、いいんです……」
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