嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐

文字の大きさ
3 / 33

3.わざわざ僕のために用意してくれなんて、言ってない!

しおりを挟む
 絶対に?

 …………なんだ? その自信は。

 なんなんだよ。こいつ……

 そんなに僕を逃さない自信があるのか?

 ……僕も、舐められたものだな……こんな奴に馬鹿にされるなんて。王族だからと、少し天狗になっているんじゃないか?

 ……だったら受けてたってやる。その挑戦。勝ってお前が悔しがる姿を見て、腹の底から嘲笑ってやるからな!







 馬車に乗り込むと、中は意外に広い。

 馬車自体も、かなり大きなものだったしな……まるで、王族が乗るような馬車じゃないか。

 こんなものに僕を乗せて、どういうつもりだ?

 何か作戦でもあるのか……?

 そうか!

 派手で豪華な乗り物は、人の視線を集めやすい。特に、これから向かう街道は比較的安全で、人通りも多い。こんなものが走っていれば、絶対に目立つ。

 人を集めて僕が逃げる計画を潰し、その上で、民衆に僕が投獄される様を見せつけ、恐怖を与え見せしめとして使う……僕が投獄されたことを国中に知らせる役にも立つ。

 王族がやりそうなことだ。

 だが…………それならこんな立派なものを持ちださなくても、貴族を護送する馬車を使って見張りをたくさんつければいいんじゃないか?

 そうしないのは、我儘な僕が、こんなものを持ち出すように駄々をこねたと言いふらすためか……? 断罪されて当然のクズだと印象付けたいのかもしれない。

 ふん! 安い作戦だな。

 そのように騒がれたところで、僕が気にするとでも思ったか!! 馬鹿めっっ!!

「はい。どうぞ」

 そう言って、王子自ら扉を開ける。まるで、僕を招き入れるかのように。

 ……なんなんだ…………まるで僕が客みたいじゃないか。僕を王都まで連行しに来たんじゃないのか?

 だいたい、僕はまだ拘束の魔法もかけられていないし、魔法を封じられてもいない。

 こいつ、どういうつもりだ……?

 逃がさない、などとほざいていたが、なんの枷もないままでは、僕はあっさり逃げてしまうぞ。

 僕を馬鹿にしているのか? 絶対に逃げられないのだから、拘束などする必要もないということか?

 ……それにしても、拘束くらいしそうだが……

 どう言うつもりか知らないが、罠であることは間違いないはずだ。意味もなく、こんな真似はしないだろう。

 だが……

 何がしたいんだ……

 くそ……相手がどういうつもりなのか、さっぱり分からない。こんなことは初めてだ。

 さすがだなっ……! 王子よ!! だが、貴様の本性はすぐに暴き出してやるぞ!!

 僕は、そいつを睨みつけた。

「僕にそういう真似はいりません。なんのつもりか知らないが、乗るなら貴様が先に乗れっっ!!!!」

 怒鳴りつけてやると、また僕の周りの従者たちと、王子の周りの従者たちが慌て出す。

 当然だ。相手は王族なのに、悪人の僕がこれだけ無礼な口をきいているんだから。

 さあ……腹を立てろっ!! 多少感情を昂らせてやれば、本性も表すだろう!

 そして、自らの本当の目的をここで暴露するがいい!!

 腹を立てたこいつは、きっと僕を見下げて、「お前は俺たちに全てを取り上げられた挙句、断罪されるのだ!」と、嘲笑混じりに叫ぶはずだ!!

「…………え? でも…………」
「………………」

 …………何をぼんやりしているんだ。この男は。

 少しは怒れよ……僕の言ったことを聞いていなかったのか?

 くそっ……!

 これではダメだ。むしろ、僕の方が冷静さを崩されている。

 落ち着け……こんな男のペースに乗せられてはダメだ!

 冷静にと必死に務めるのは僕だけ。

 ヴェイロクッド殿下は、呑気に首を傾げていた。

「…………よく分からないけど……やっぱり、この馬車は気に入らなかった?」
「……そんなこと言っていません……」
「すぐに別のものを用意する」
「は!!??」

 何を言っているんだ?? この男は!! 別のものだと!?? 僕が少し馬車に乗らなかったくらいで!?

 何かの冗談か??

 慌てる僕の前で、王子は従者に、「これはダメだ。すぐに新しい馬車を用意する。この辺りだったら、ここと、ここと……」なんて、馬車を調達する先の候補を上げ出した。

 こいつ、本気だっっ!!

「これでいい!! これでいいです!!」

 そう僕は叫んだ。

 わざわざ僕のために用意したものを、無下に扱えるわけがないだろう!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

身代わり召喚された俺は四人の支配者に溺愛される〜囲い込まれて逃げられません〜

たら昆布
BL
間違って異世界召喚された青年が4人の男に愛される話

魔力ゼロの無能オメガのはずが嫁ぎ先の氷狼騎士団長に執着溺愛されて逃げられません!

松原硝子
BL
これは魔法とバース性のある異世界でのおはなし――。 15歳の魔力&バース判定で、神官から「魔力のほとんどないオメガ」と言い渡されたエリス・ラムズデール。 その途端、それまで可愛がってくれた両親や兄弟から「無能」「家の恥」と罵られて使用人のように扱われ、虐げられる生活を送ることに。 そんな中、エリスが21歳を迎える年に隣国の軍事大国ベリンガム帝国のヴァンダービルト公爵家の令息とアイルズベリー王国のラムズデール家の婚姻の話が持ち上がる。 だがヴァンダービルト公爵家の令息レヴィはベリンガム帝国の軍事のトップにしてその冷酷さと恐ろしいほどの頭脳から常勝の氷の狼と恐れられる騎士団長。しかもレヴィは戦場や公的な場でも常に顔をマスクで覆っているため、「傷で顔が崩れている」「二目と見ることができないほど醜い」という恐ろしい噂の持ち主だった。 そんな恐ろしい相手に子どもを嫁がせるわけにはいかない。ラムズデール公爵夫妻は無能のオメガであるエリスを差し出すことに決める。 「自分の使い道があるなら嬉しい」と考え、婚姻を大人しく受け入れたエリスだが、ベリンガム帝国へ嫁ぐ1週間前に階段から転げ落ち、前世――23年前に大陸の大戦で命を落とした帝国の第五王子、アラン・ベリンガムとしての記憶――を取り戻す。 前世では戦いに明け暮れ、今世では虐げられて生きてきたエリスは前世の祖国で平和でのんびりした幸せな人生を手に入れることを目標にする。 だが結婚相手のレヴィには驚きの秘密があった――!? 「きみとの結婚は数年で解消する。俺には心に決めた人がいるから」 初めて顔を合わせた日にレヴィにそう言い渡されたエリスは彼の「心に決めた人」を知り、自分の正体を知られてはいけないと誓うのだが……!? 銀髪×碧眼(33歳)の超絶美形の執着騎士団長に気が強いけど鈍感なピンク髪×蜂蜜色の目(20歳)が執着されて溺愛されるお話です。

ガラスの靴を作ったのは俺ですが、執着されるなんて聞いてません!

或波夏
BL
「探せ!この靴を作った者を!」 *** 日々、大量注文に追われるガラス職人、リヨ。 疲労の末倒れた彼が目を開くと、そこには見知らぬ世界が広がっていた。 彼が転移した世界は《ガラス》がキーアイテムになる『シンデレラ』の世界! リヨは魔女から童話通りの結末に導くため、ガラスの靴を作ってくれと依頼される。 しかし、王子様はなぜかシンデレラではなく、リヨの作ったガラスの靴に夢中になってしまった?! さらにシンデレラも魔女も何やらリヨに特別な感情を抱いていているようで……? 執着系王子様+訳ありシンデレラ+謎だらけの魔女?×夢に真っ直ぐな職人 ガラス職人リヨによって、童話の歯車が狂い出すーー ※素人調べ、知識のためガラス細工描写は現実とは異なる場合があります。あたたかく見守って頂けると嬉しいです🙇‍♀️ ※受けと女性キャラのカップリングはありません。シンデレラも魔女もワケありです ※執着王子様攻めがメインですが、総受け、愛され要素多分に含みます 隔日更新予定に変更させていただきます。 ♡、お気に入り、しおり、エールありがとうございます!とても励みになっております! 感想も頂けると泣いて喜びます! 第13回BL大賞55位!応援ありがとうございました!

のほほんオメガは、同期アルファの執着に気付いていませんでした

こたま
BL
オメガの品川拓海(しながわ たくみ)は、現在祖母宅で祖母と飼い猫とのほほんと暮らしている社会人のオメガだ。雇用機会均等法以来門戸の開かれたオメガ枠で某企業に就職している。同期のアルファで営業の高輪響矢(たかなわ きょうや)とは彼の営業サポートとして共に働いている。同期社会人同士のオメガバース、ハッピーエンドです。両片想い、後両想い。攻の愛が重めです。

俺がこんなにモテるのはおかしいだろ!? 〜魔法と弟を愛でたいだけなのに、なぜそんなに執着してくるんだ!!!〜

小屋瀬
BL
「兄さんは僕に守られてればいい。ずっと、僕の側にいたらいい。」 魔法高等学校入学式。自覚ありのブラコン、レイ−クレシスは、今日入学してくる大好きな弟との再会に心を踊らせていた。“これからは毎日弟を愛でながら、大好きな魔法制作に明け暮れる日々を過ごせる”そう思っていたレイに待ち受けていたのは、波乱万丈な毎日で――― 義弟からの激しい束縛、王子からの謎の執着、親友からの重い愛⋯俺はただ、普通に過ごしたいだけなのにーーー!!!

【完結】「奥さまは旦那さまに恋をしました」〜紫瞠柳(♂)。学生と奥さまやってます

天白
BL
誰もが想像できるような典型的な日本庭園。 広大なそれを見渡せるどこか古めかしいお座敷内で、僕は誰もが想像できないような命令を、ある日突然下された。 「は?」 「嫁に行って来い」 そうして嫁いだ先は高級マンションの最上階だった。 現役高校生の僕と旦那さまとの、ちょっぴり不思議で、ちょっぴり甘く、時々はちゃめちゃな新婚生活が今始まる! ……って、言ったら大袈裟かな? ※他サイト(フジョッシーさん、ムーンライトノベルズさん他)にて公開中。

処理中です...