嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐

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2.心配しなくても、もう二度と手放さないから

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 屋敷を出た僕は、庭に立って、僕が住んでいた屋敷に振り向いた。

 広いがあまり庭木などはない庭にも、屋敷の玄関にも、見物人のように貴族たちが集まっている。この辺りに住んでいる貴族もいるが、そうでない奴もいる。僕が連れて行かれる様を見物するために、わざわざ集まったんだろう。

 どいつもこいつも……クズばかりだな。

 僕に自らの領地の結界を強化するように偉そうに命じていた分際で、よくそんなことができたものだ。

 言いたくはないが、誰のおかげで領地が守れていたと思っているんだ? 僕のおかげだ。自らの領地の結界を、ほとんど僕に丸投げしていた奴までいるじゃないか。

 恥知らずどもめ!!

 だが、僕はそんなこと、今さら気にならない。
 あの連中が、端から僕を見下していることは、とっくに分かっていた。

 公爵家の役立たず。

 僕はずっと、そんな風に言われていた。

 末弟として生まれた僕だったが、両親は僕に全く興味がなかった。家督を継ぐのは兄で、魔力や魔法、武芸にも秀でたところはない僕など、公爵家にとってはいてもいなくても同じだったんだ。

 けれど僕には、魔法に対する興味はあった。

 自分が攻撃の魔法に秀でていないことは分かっていたし、貴族社会の中でうまく渡り歩きいずれ人を率いるような才もなければ、部隊の先頭に立ち剣を振るって魔物を倒す力もない。魔法に関しても平均、魔力は平均以下……それでも、魔法は好きだった。

 中でも結界の魔法は、戦うのが苦手で臆病だった僕でも身を守ることができた。それがあれば、自分を守る力強い武器にもなるし、魔物から国を守る手段にもなる。そう気づいてからは、他の魔法に加えて、特に力を入れてきたつもりだ。

 だから、王城で、結界を使い王都を守るための魔法使いを募集していたときには、すぐに手を挙げた。
 けれど、向かった先の王都には、すでに有力貴族の一族から集められた多くの魔法使いがいた。彼らと揉めて、貴族たちの反感を買った僕は、あっさり追い出された。

 王都にいることもできなくなり、家からは「恥晒しは帰るな!」と言われ、それからは、王国の端にある荒地の屋敷で、結界の管理に従事してきた。

 ここは退屈で地味だが、それでも結界の維持は、魔物から領地を守る守護の力に直結している。つまり、これがないと魔物から領地を守ることができない。それくらい大事なものなんだ。

 王家の結界だって、僕が維持してやっていたようなものだ!

 そんな僕が、大罪を犯した悪者だと?

 ふざけるな!

 初めて僕の噂を聞いた時は笑った。

 結界のためと称して集めた金で屋敷に豪華な物を買い集め、豪遊を繰り返し、平民たちから搾取し彼らを奴隷のように扱った挙句、罪を被せては痛めつけ、その上、貴重な結界の魔法の道具を破壊して、民たちを危険に晒した……だなんて。

 全く身に覚えがない!!

 どれだけ僕のことを悪者にしたいんだ!!

 どうせ僕が国にとって重要な結界を管理していることが気に入らない連中の仕業だろう。王都に行った時に、有力貴族たちの怒りを買って、相当嫌がらせをされていたからな……

 くだらないクズ貴族どもめっ……!

 そんなものの言いなりになってたまるか!

 もちろん、王城には行ってやる。だが、それは王族と貴族どもの言いなりになって断罪されてやるためじゃない。ふざけた奴らの罪を白日の元に晒し、逆に僕の手で断罪してやるためだ。

 待っていろ。王都のクソ貴族ども。目に物見せてくれる!

 だが、相手は多くの有力貴族だ……対する僕は、公爵家とは言え、家を追い出されたたった一人の情けない魔法使い。

 そんな僕が、一人で王都になんて向かえばどうなるかなんて、想像に難くない。きっと好き放題搾取された挙句、惨めに殺される。

 隙なんか見せたらダメだ。

 僕は、今一度、気を引き締めた。

 これから向かう王都は、魔物の跋扈する洞窟より、よほど危険だ。警戒を怠らないようにしなくては!

 庭に出ると、屋敷の門の前に、やけに豪勢な馬車が停めてあることに気づいた。

 ふん……王族が。そんな豪華な馬車を用意する暇があったら、僕の冤罪の一つも晴らしてくれたらどうだ?

 だいたい、豪華には見えるが、護送のための監禁の魔法がかけられているはずだ。動く監獄と、何も変わらない。

 ……なるほどな……

 それで僕に恐怖を味わわせようと言う魂胆か!!

 舐めるな! そんなことで、僕が怯えると思うのか!

 確かに僕は、魔力は大したことない。魔法だって、あまりうまくはない。だが、だからと言って、あっさり負けてやるつもりはない!

 僕は、少し先に立つヴェイロクッド殿下を睨みつけた。

 宣戦布告だ!

「殿下……いいんですか? こんなもので僕を運んで」
「え……?」

 振り向いたそいつの態度が、腹立たしい。

 舐められているのは分かっているんだ。馴れ馴れしい態度で話して、どういうつもりだ? すでにクズ貴族と同じ欲望に落ちたゲスのくせに。

 さては、こんな罪人程度、簡単に連れて行けると思ってるな?

「この程度の警備だと、僕は逃げてしまうかもしれませんよ?」
「…………この馬車は、気に入ってもらえなかったか?」

 ……気にいるとか気に入らないとか、そういう問題じゃない。だいたい、そんなこと言ってないだろうが!

「…………殿下…………僕を舐めないほうがいいですよ? 僕を逃がしたら、困るのはあなたでしょう?」
「大丈夫だよ……」

 そう言って、彼は僕に振り向いた。

 じっと僕のことを見つめる彼の姿は、以前、僕の前に現れた時の彼、そのままだ。

 それなのに、その目を見ていると、なんだか言いようのない不安に襲われる。

 なんていうか……普段、僕を見る奴らの目と違うって言うか…………

 いつも大体僕を見る貴族どもは、敵意があるような目で睨むか、鬱陶しそうな顔をするか、そんな感じだ。

 誰もが、有力貴族たちと揉め事を起こし、こんなところに追いやられた僕を蔑み、関わりたくない奴だと言って逃げて行く。

 そんなものには慣れた。
 警戒することも、相手の攻撃を受けることも、それを受け流すことにも慣れている。

 それなのに……

 なんなんだ。こいつは……

 さっきからじーっと見つめられているような気がする。

 こいつも僕を警戒しているのか?

 なんだかそんな感じじゃないけど……

 それとも、悪名高い公爵家のご令息の僕を前に、緊張しているのか?

 家の奴ら、だーれも僕を一族だなんて認めてないけどな!!

「……僕を甘く見ていると、恐ろしい目に遭いますよ」
「見てないよ」

 ……即答?

 しかも、なんでこんなに楽しそうなんだよ、

 こいつ…………

「絶対に、逃げられないから」

 一体、どういうつもりなんだ……
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