嫌われた暴虐な僕と喧嘩をしに来たはずの王子は、僕を甘くみているようだ。手を握って迫ってくるし、聞いてることもやってることもおかしいだろ!

迷路を跳ぶ狐

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3.わざわざ僕のために用意してくれなんて、言ってない!

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 絶対に?

 …………なんだ? その自信は。

 なんなんだよ。こいつ……

 そんなに僕を逃さない自信があるのか?

 ……僕も、舐められたものだな……こんな奴に馬鹿にされるなんて。王族だからと、少し天狗になっているんじゃないか?

 ……だったら受けてたってやる。その挑戦。勝ってお前が悔しがる姿を見て、腹の底から嘲笑ってやるからな!







 馬車に乗り込むと、中は意外に広い。

 馬車自体も、かなり大きなものだったしな……まるで、王族が乗るような馬車じゃないか。

 こんなものに僕を乗せて、どういうつもりだ?

 何か作戦でもあるのか……?

 そうか!

 派手で豪華な乗り物は、人の視線を集めやすい。特に、これから向かう街道は比較的安全で、人通りも多い。こんなものが走っていれば、絶対に目立つ。

 人を集めて僕が逃げる計画を潰し、その上で、民衆に僕が投獄される様を見せつけ、恐怖を与え見せしめとして使う……僕が投獄されたことを国中に知らせる役にも立つ。

 王族がやりそうなことだ。

 だが…………それならこんな立派なものを持ちださなくても、貴族を護送する馬車を使って見張りをたくさんつければいいんじゃないか?

 そうしないのは、我儘な僕が、こんなものを持ち出すように駄々をこねたと言いふらすためか……? 断罪されて当然のクズだと印象付けたいのかもしれない。

 ふん! 安い作戦だな。

 そのように騒がれたところで、僕が気にするとでも思ったか!! 馬鹿めっっ!!

「はい。どうぞ」

 そう言って、王子自ら扉を開ける。まるで、僕を招き入れるかのように。

 ……なんなんだ…………まるで僕が客みたいじゃないか。僕を王都まで連行しに来たんじゃないのか?

 だいたい、僕はまだ拘束の魔法もかけられていないし、魔法を封じられてもいない。

 こいつ、どういうつもりだ……?

 逃がさない、などとほざいていたが、なんの枷もないままでは、僕はあっさり逃げてしまうぞ。

 僕を馬鹿にしているのか? 絶対に逃げられないのだから、拘束などする必要もないということか?

 ……それにしても、拘束くらいしそうだが……

 どう言うつもりか知らないが、罠であることは間違いないはずだ。意味もなく、こんな真似はしないだろう。

 だが……

 何がしたいんだ……

 くそ……相手がどういうつもりなのか、さっぱり分からない。こんなことは初めてだ。

 さすがだなっ……! 王子よ!! だが、貴様の本性はすぐに暴き出してやるぞ!!

 僕は、そいつを睨みつけた。

「僕にそういう真似はいりません。なんのつもりか知らないが、乗るなら貴様が先に乗れっっ!!!!」

 怒鳴りつけてやると、また僕の周りの従者たちと、王子の周りの従者たちが慌て出す。

 当然だ。相手は王族なのに、悪人の僕がこれだけ無礼な口をきいているんだから。

 さあ……腹を立てろっ!! 多少感情を昂らせてやれば、本性も表すだろう!

 そして、自らの本当の目的をここで暴露するがいい!!

 腹を立てたこいつは、きっと僕を見下げて、「お前は俺たちに全てを取り上げられた挙句、断罪されるのだ!」と、嘲笑混じりに叫ぶはずだ!!

「…………え? でも…………」
「………………」

 …………何をぼんやりしているんだ。この男は。

 少しは怒れよ……僕の言ったことを聞いていなかったのか?

 くそっ……!

 これではダメだ。むしろ、僕の方が冷静さを崩されている。

 落ち着け……こんな男のペースに乗せられてはダメだ!

 冷静にと必死に務めるのは僕だけ。

 ヴェイロクッド殿下は、呑気に首を傾げていた。

「…………よく分からないけど……やっぱり、この馬車は気に入らなかった?」
「……そんなこと言っていません……」
「すぐに別のものを用意する」
「は!!??」

 何を言っているんだ?? この男は!! 別のものだと!?? 僕が少し馬車に乗らなかったくらいで!?

 何かの冗談か??

 慌てる僕の前で、王子は従者に、「これはダメだ。すぐに新しい馬車を用意する。この辺りだったら、ここと、ここと……」なんて、馬車を調達する先の候補を上げ出した。

 こいつ、本気だっっ!!

「これでいい!! これでいいです!!」

 そう僕は叫んだ。

 わざわざ僕のために用意したものを、無下に扱えるわけがないだろう!
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