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本編
32.エルフリーデの決意
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思いを打ち明けている間もずっと、エルフリーデはジュードの目を真っ直ぐに見てそれを話すことが出来なかった。いつもはその天使のように綺麗な顔を、澄んだ海のように綺麗な青緑色の瞳を見るのが大好きなのに。思いを伝え切るにはジュードの顔を見ながら言うのは辛すぎて。
見ると思い出してしまう。あの時流れ出た血のイメージが頭の中にこびりついて離れない。ゾクッと酷い悪寒に背筋が凍り付いてまた震えが止まらなくなってしまう。だから今回ばかりはその綺麗な瞳を見ることが出来なかった。
「……ジュードを失うかも知れないと思ったから怖かったのよ。だってわたし……もうジュードがいないと生きていけない。ジュードがいなくなる何てそんなの今まで考えたこともなかったからだから……ものすごく怖かったの。……嫌なの。ジュードがいなくなる何てそんなことは絶対に嫌なのに……」
言葉にすればするほど声が喉の奥に突っかかる。どんどん話せなくなって。そんなエルフリーデの顔をジュードが優しく触れながら、穏やかな凪の海の色を思わせる瞳で覗き込んでくるものだからとうとうエルフリーデは最終的にいつものようにうわーんと盛大に泣き出してしまった。
「リー、そんなに泣かないで」
「う~っそうしたいけど、ひっく、やっぱり、ひっく、無理だもの~」
ジュードを心配して小さな子供のように泣くエルフリーデを、ジュードは胸元に抱きながら穏やかな雰囲気をそのままにその心細げに震え続ける背中を優しく撫でた。
「本当にリーは昔から泣き虫だね」
「う~っ、ジュードのばかっ! 仕方ないでしょっ! ジュードがあんなに傷付いてたから、だから……」
いつもならポカポカとジュードの胸元を叩いて怒るところだ。けれど今ジュードはエルフリーデを庇ったせいで傷を負っている。だからエルフリーデはジュードの胸元で声を張り上げ鼻を赤くして泣きながら不満をぶつけるしかなかった。
「リー……ごめんね。僕は本当にリーに怖い思いをさせちゃったんだね。でも僕もリーがいなくなるなんてことは嫌なんだよ」
「……ちゃんと分かってる」
「それに、僕はリーを傷付けるつもりなんてなかったんだ」
「それもちゃんと分かってるわ。分かってるけどでもっ……!」
「リー、ごめんね。怖がらせてごめん」
強気な態度で反発しながら、それでもジュードに抱きついたまま離れないでいるエルフリーデの華奢な両肩をギュッと抱いてジュードは小さく溜息を付いた。こんなに小さくてか弱い生き物があんな大人の男の鈍器に潰される。そういう未来が一瞬頭を過ぎって愕然とした。こんなにも無力感を感じることが今まであっただろうか。失っていたらきっと……
「僕はあのとき嫉妬に任せてリーに酷いことをしようとした。リーが逃げ出したのも当然なんだ。だから僕が傷を負ったのは自業自得なんだよ。リーに心配される権利は僕にはない」
だからそんなに泣かないで欲しいと、ジュードはエルフリーデの頬を伝う涙をそっと拭いながら申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ううん、違うの。ジュードが悪いんじゃないのわたしが、わたしが意地を張ったから……」
エルフリーデを庇って倒れたジュードの身体から流れ出る血の多さに知らず知らずのうちに悲鳴を上げていた。気が動転してジュードの名を呼んで泣き叫ぶエルフリーデに駆け寄ってきた人物が誰だったのか。その顔すら覚えていないほどにエルフリーデは追い詰められていた。大切な人を失うかも知れないという恐怖に。
意識を失ったジュードが治療されている間も、エルフリーデの全身は震えが止まらなかった。ドレスに付いた赤い血の染みがジュードの命そのものに見えて。本当に怖いってこういう事を言うのだと。そう思い知らされたからこそエルフリーデはちゃんとジュードに向き合うことを決意した。
「ジュードわたしね。ちゃんとマリアから聞いたの」
「……何を聞いたの?」
「ジュードがわたしに何をしたいのか。男の人が女の人を愛すること。ちゃんと聞いたの。だからちょっと怖いけど、でもわたしジュードにならいい。されてもいいよ……?」
驚きに目を見張るジュードを前にして、エルフリーデは頬を赤く染めてモジモジと自信なさげに肩を丸めながらそっぽを向いてしまった。いつもはパッチリと元気に太陽のような輝きを放つその角度によっては金にも見える大きな茶色い瞳が、今はジュードと目を合わせられなくて羞恥に半ば伏せられている。
濡れた目と火照った顔で所在なさげに虚ろいながらもエルフリーデは逃げない。ジュードを受け入れるとその胸元に身を寄せながらチョコンと可愛らしく座ってエルフリーデはジュードの返事を待っていた。
見ると思い出してしまう。あの時流れ出た血のイメージが頭の中にこびりついて離れない。ゾクッと酷い悪寒に背筋が凍り付いてまた震えが止まらなくなってしまう。だから今回ばかりはその綺麗な瞳を見ることが出来なかった。
「……ジュードを失うかも知れないと思ったから怖かったのよ。だってわたし……もうジュードがいないと生きていけない。ジュードがいなくなる何てそんなの今まで考えたこともなかったからだから……ものすごく怖かったの。……嫌なの。ジュードがいなくなる何てそんなことは絶対に嫌なのに……」
言葉にすればするほど声が喉の奥に突っかかる。どんどん話せなくなって。そんなエルフリーデの顔をジュードが優しく触れながら、穏やかな凪の海の色を思わせる瞳で覗き込んでくるものだからとうとうエルフリーデは最終的にいつものようにうわーんと盛大に泣き出してしまった。
「リー、そんなに泣かないで」
「う~っそうしたいけど、ひっく、やっぱり、ひっく、無理だもの~」
ジュードを心配して小さな子供のように泣くエルフリーデを、ジュードは胸元に抱きながら穏やかな雰囲気をそのままにその心細げに震え続ける背中を優しく撫でた。
「本当にリーは昔から泣き虫だね」
「う~っ、ジュードのばかっ! 仕方ないでしょっ! ジュードがあんなに傷付いてたから、だから……」
いつもならポカポカとジュードの胸元を叩いて怒るところだ。けれど今ジュードはエルフリーデを庇ったせいで傷を負っている。だからエルフリーデはジュードの胸元で声を張り上げ鼻を赤くして泣きながら不満をぶつけるしかなかった。
「リー……ごめんね。僕は本当にリーに怖い思いをさせちゃったんだね。でも僕もリーがいなくなるなんてことは嫌なんだよ」
「……ちゃんと分かってる」
「それに、僕はリーを傷付けるつもりなんてなかったんだ」
「それもちゃんと分かってるわ。分かってるけどでもっ……!」
「リー、ごめんね。怖がらせてごめん」
強気な態度で反発しながら、それでもジュードに抱きついたまま離れないでいるエルフリーデの華奢な両肩をギュッと抱いてジュードは小さく溜息を付いた。こんなに小さくてか弱い生き物があんな大人の男の鈍器に潰される。そういう未来が一瞬頭を過ぎって愕然とした。こんなにも無力感を感じることが今まであっただろうか。失っていたらきっと……
「僕はあのとき嫉妬に任せてリーに酷いことをしようとした。リーが逃げ出したのも当然なんだ。だから僕が傷を負ったのは自業自得なんだよ。リーに心配される権利は僕にはない」
だからそんなに泣かないで欲しいと、ジュードはエルフリーデの頬を伝う涙をそっと拭いながら申し訳なさそうに眉尻を下げた。
「ううん、違うの。ジュードが悪いんじゃないのわたしが、わたしが意地を張ったから……」
エルフリーデを庇って倒れたジュードの身体から流れ出る血の多さに知らず知らずのうちに悲鳴を上げていた。気が動転してジュードの名を呼んで泣き叫ぶエルフリーデに駆け寄ってきた人物が誰だったのか。その顔すら覚えていないほどにエルフリーデは追い詰められていた。大切な人を失うかも知れないという恐怖に。
意識を失ったジュードが治療されている間も、エルフリーデの全身は震えが止まらなかった。ドレスに付いた赤い血の染みがジュードの命そのものに見えて。本当に怖いってこういう事を言うのだと。そう思い知らされたからこそエルフリーデはちゃんとジュードに向き合うことを決意した。
「ジュードわたしね。ちゃんとマリアから聞いたの」
「……何を聞いたの?」
「ジュードがわたしに何をしたいのか。男の人が女の人を愛すること。ちゃんと聞いたの。だからちょっと怖いけど、でもわたしジュードにならいい。されてもいいよ……?」
驚きに目を見張るジュードを前にして、エルフリーデは頬を赤く染めてモジモジと自信なさげに肩を丸めながらそっぽを向いてしまった。いつもはパッチリと元気に太陽のような輝きを放つその角度によっては金にも見える大きな茶色い瞳が、今はジュードと目を合わせられなくて羞恥に半ば伏せられている。
濡れた目と火照った顔で所在なさげに虚ろいながらもエルフリーデは逃げない。ジュードを受け入れるとその胸元に身を寄せながらチョコンと可愛らしく座ってエルフリーデはジュードの返事を待っていた。
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