手出しさせてやろうじゃないの! ~公爵令嬢の幼なじみは王子様~

薄影メガネ

文字の大きさ
33 / 58
本編

31.負傷の婚約者

しおりを挟む
「ジュード? ジュード? 大丈夫? 痛いよね? ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさぃ……」

 ジュードは泣いて謝る婚約者の声で目が覚めた。頬にポタポタと落ちてきた温かいしずくがエルフリーデのものだと分かってどう泣き止ませればいいのかと、起きて最初にそればかりを考えていた。自分の状態を確認することをおこたって平気で後回しにしてしまうほどジュードはエルフリーデを愛していた。

「リー……?」
「ジュード? 目が覚めたの!? よかった今お医者様を呼んで……」
「いい、呼ばなくても大丈夫だから。それよりも、どうしてそんなに泣いてるの? 何か怖いことでもあったの?」

 泣いているエルフリーデの頬に手を伸ばして涙を指先でぬぐうと、また新たにボロボロと涙を流し始めて困った。ジュードは止めどなく涙を流し続けているエルフリーデを最終的には引き寄せて胸元に抱き締めた。

「あっ……ダメっ! 怪我してるのに!」
「この位平気だよ。リーに触れない方が辛い」
「……うん」

 確かに身体の至る所に包帯が巻かれているし全身の彼方此方あちこちがギシギシと痛みに悲鳴を上げていたけれど、そんなこと今はどうでもよかった。
 腕の中で小さくしゃくりを上げている柔らかい存在。その震える華奢な作りの肩が軽すぎる重みが、そして暖かな日溜ひだまりの匂いが。その存在自体、その全てが愛しくて守らなければならない大切で大事な人だった。
 いつもは元気にまぶしすぎるくらいに輝いている、その角度によって金にも見える大きな茶色の瞳が、今は心細げに悲しそうに涙を溜め込んで苦しそうな表情を浮かべている。うつむきがちなその顔に手をやって優しくジュードの方を向かせると、どうしたらいいのか分からないというように力無くれた虚ろな眼差しでエルフリーデはずっと涙を流し続けている。

「リー? 大丈夫だよ。怖いことがあっても僕が守るから。だから泣かなくていいんだよ?」
「だっ、だって! だってジュードが沢山血を出してて、ひっく、顔真っ青にしてひっく、起き、なくて。死んじゃうかと思っ……ひっく……すごく、ひっく、こわかっ……う~っひっく、ごっ、ごめんなさい~~~~っ!」
「ああ、そっか。そうだったよね」

 やっと思い出した。何があったのかを。
 数週間後に行われる予定の祭事に使われる防具を大量に乗せた滑車かっしゃ。それに体当たりしてその下敷きになりかけていたエルフリーデをギリギリの所で何とか引き寄せて抱き留めた所までは覚えている。

「リーが泣いているのは僕のせいか」

 コツンと額に額を当てて。くすりと笑うとエルフリーデが益々ますます泣き出して、最終的にはギュウッと自らジュードに抱きついてきた。
 
「なっ、なんで怪我したのに笑ってるのよ~!」
「そんなに心配した?」
「…………」
「リー?」
「好きなの……」
「僕もリーが好きだよ」
「愛してるの……」
「僕の方がリーのこと愛してる」
「だからどこにも行かないで……そばにいて……」
「うん、どこにも行かない。リーの傍にずっといる。だからもう泣かなくていいんだよ?」
「…………」
「リー? そんなに僕が目を覚まさなかったことが怖かったの?」
 
 違うとふるふると首を振って。エルフリーデはそっぽを向いてしまった。けれどもその否定とかたくなな態度に反して、らされた大きな茶色の瞳は切なく涙を溜め込み続けている。ジュードの胸元をギュッとその華奢な両手で握り占めて。
 そうして不安をあらわにしたエルフリーデの顎を掴んでジュードは潤んだ瞳を自分の方へと向けさせた。
 
「リー、隠さないで話して」
「いやっ! だってジュードあのときすごく怖かった。意地悪だった。だから絶対に話さないものっ」

 ふて腐れた様子でプイッと顎を掴まれたままエルフリーデが横を向くと、ジュードがエルフリーデの頬に優しく口づけた。

「ジュード?」

 思わず何? とエルフリーデはジュードに視線を戻してしまう。

「リーごめん。僕が悪かったよ。嫉妬したんだ。リーはあんなに男が苦手なのに彼奴あいつとは普通に会話をしてて、それも目配せするくらい仲良くなっていたから焦って嫉妬したんだよ。情けないことにね。リーは男なら僕としか話さないと思っていたから正直驚いたよ……」
「……嫉妬、したの? ジュードが?」
「うん嫉妬した」
「そんな必要ないのに……」
「どうして?」
「わたしがジュード以外の人を好きになるなんて、そんなことあるわけないのに」
「そう言ってくれるのは嬉しいけど。僕にはリーの気持ちが分からないんだ。というよりも分からない事だらけで正直いまも困ってる」

 だから教えてくれる? とジュードに優しく瞳をのぞき込まれてエルフリーデはついに観念して思いを打ち明けた。
しおりを挟む
感想 11

あなたにおすすめの小説

『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』

鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、 仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。 厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議―― 最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。 だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、 結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。 そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、 次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。 同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。 数々の試練が二人を襲うが―― 蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、 結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。 そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、 秘書と社長の関係を静かに越えていく。 「これからの人生も、そばで支えてほしい。」 それは、彼が初めて見せた弱さであり、 結衣だけに向けた真剣な想いだった。 秘書として。 一人の女性として。 結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。 仕事も恋も全力で駆け抜ける、 “冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。

大嫌いな幼馴染の皇太子殿下と婚姻させられたので、白い結婚をお願いいたしました

柴野
恋愛
「これは白い結婚ということにいたしましょう」  結婚初夜、そうお願いしたジェシカに、夫となる人は眉を顰めて答えた。 「……ああ、お前の好きにしろ」  婚約者だった隣国の王弟に別れを切り出され嫁ぎ先を失った公爵令嬢ジェシカ・スタンナードは、幼馴染でありながら、たいへん仲の悪かった皇太子ヒューパートと王命で婚姻させられた。  ヒューパート皇太子には陰ながら想っていた令嬢がいたのに、彼女は第二王子の婚約者になってしまったので長年婚約者を作っていなかったという噂がある。それだというのに王命で大嫌いなジェシカを娶ることになったのだ。  いくら政略結婚とはいえ、ヒューパートに抱かれるのは嫌だ。子供ができないという理由があれば離縁できると考えたジェシカは白い結婚を望み、ヒューパートもそれを受け入れた。  そのはず、だったのだが……?  離縁を望みながらも徐々に絆されていく公爵令嬢と、実は彼女のことが大好きで仕方ないツンデレ皇太子によるじれじれラブストーリー。 ※こちらの作品は小説家になろうにも重複投稿しています。

王妃そっちのけの王様は二人目の側室を娶る

家紋武範
恋愛
王妃は自分の人生を憂いていた。国王が王子の時代、彼が六歳、自分は五歳で婚約したものの、顔合わせする度に喧嘩。 しかし王妃はひそかに彼を愛していたのだ。 仲が最悪のまま二人は結婚し、結婚生活が始まるが当然国王は王妃の部屋に来ることはない。 そればかりか国王は側室を持ち、さらに二人目の側室を王宮に迎え入れたのだった。

完結 辺境伯様に嫁いで半年、完全に忘れられているようです   

ヴァンドール
恋愛
実家でも忘れられた存在で 嫁いだ辺境伯様にも離れに追いやられ、それすら 忘れ去られて早、半年が過ぎました。

王子を身籠りました

青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。 王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。 再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。

【完結】皇太子の愛人が懐妊した事を、お妃様は結婚式の一週間後に知りました。皇太子様はお妃様を愛するつもりは無いようです。

五月ふう
恋愛
 リックストン国皇太子ポール・リックストンの部屋。 「マティア。僕は一生、君を愛するつもりはない。」  今日は結婚式前夜。婚約者のポールの声が部屋に響き渡る。 「そう……。」  マティアは小さく笑みを浮かべ、ゆっくりとソファーに身を預けた。    明日、ポールの花嫁になるはずの彼女の名前はマティア・ドントール。ドントール国第一王女。21歳。  リッカルド国とドントール国の和平のために、マティアはこの国に嫁いできた。ポールとの結婚は政略的なもの。彼らの意志は一切介入していない。 「どんなことがあっても、僕は君を王妃とは認めない。」  ポールはマティアを憎しみを込めた目でマティアを見つめる。美しい黒髪に青い瞳。ドントール国の宝石と評されるマティア。 「私が……ずっと貴方を好きだったと知っても、妻として認めてくれないの……?」 「ちっ……」  ポールは顔をしかめて舌打ちをした。   「……だからどうした。幼いころのくだらない感情に……今更意味はない。」  ポールは険しい顔でマティアを睨みつける。銀色の髪に赤い瞳のポール。マティアにとってポールは大切な初恋の相手。 だが、ポールにはマティアを愛することはできない理由があった。 二人の結婚式が行われた一週間後、マティアは衝撃の事実を知ることになる。 「サラが懐妊したですって‥‥‥!?」

仕事で疲れて会えないと、恋人に距離を置かれましたが、彼の上司に溺愛されているので幸せです!

ぽんちゃん
恋愛
 ――仕事で疲れて会えない。  十年付き合ってきた恋人を支えてきたけど、いつも後回しにされる日々。  記念日すら仕事を優先する彼に、十分だけでいいから会いたいとお願いすると、『距離を置こう』と言われてしまう。  そして、思い出の高級レストランで、予約した席に座る恋人が、他の女性と食事をしているところを目撃してしまい――!?

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

処理中です...