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第二章 黒煙

第二十八話 ユアンとクコ

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 僕とモナーナはギルドでアレイストさんと話した後、宿屋に帰ってきた。
 アラト君とイラト君はアレイストさんと一緒にゴブリン退治の依頼に行くみたい。兄弟では依頼を受けられないのでアレイストさんが受けたものをやるといった感じ、このやり方は盲点だったけど彼らにはいい誤算だった。
 冒険者としての経験も積めて実力もちゃんとつくから一石二鳥だね。

 僕はと言うとダリルさんの所で働き始めたエリシーナちゃん達を見に来ました。ダリルさんの所では女の子たちが集まってる。男の子はワティスさんの所にいって頑張ってるみたい、今度見に行ってみよう。

「おお、ルーク君」
「ダリルさんどうですか?」

 ダリルさんが僕に気付いて声をかけてきた。僕は女の子たちの様子を聞くと親指を立てるダリルさん、

「ああ、やっぱり村の子だよ。畑仕事が板についてる。カルロも負けじと頑張っているけど年季が違うな」

 カルロ君よりも少しだけ子供達の方が腕がいいみたい。年齢的には半分ほどのカルロ君だから仕方ないね。

「ルーク君の作物も収穫するかい?」
「大変だろうから自分でやります」

 僕はみんなとまざって収穫作業にまざった。僕の畑はそれほど広くないので一瞬です。アイテムバッグに入れるだけだから簡単なんだ。モナーナはみんなと一緒にダリルさんの畑を手伝ってる。子供達と一緒に汗をかきたいんだってさ、なんだかモナーナも一皮むけた感じ。

「次は何植えようかな~」

 収穫したのはいいんだけど、次に何を植えようか悩み中。ジャガイモは見たことあるからまた今度だし、ブルーベリーって言うのがいいかな、あと二種類はっと。

「じゃあ、ブルーベリーとイチゴ、それにミカンなんてどうだろう。どんなものが出来るのか、楽しみだな~」

 見たことないものが出来るって凄い楽しみだよね。サプライズで誕生日プレゼントをもらうような感動がある。

 木の方は、とても元気に育っててクルミの木に実のような物が成ってる。僕はその実を取る、とても固くて食べられる物じゃないと思ったんだけどその時クルミの木が揺れて実が一つ落ちてきた、その実が割れて中の実が姿を現した。

「中の実を食べるの?」

 僕がクルミの木に疑問を呟くとクルミの木は体を揺らして答えた。僕は感じたままその実を口に入れるとカリッと実が砕けて塩味と甘味が口に広がった。何だか木の命を分けてもらっているようなそんな暖かさを感じて涙が頬を伝った。美味しすぎます。

「どうしたんだい?」

 涙を流していたので不思議がったダリルさんが心配そうに近づいてきた。僕は無言のままダリルさんにクルミの実を渡すとダリルさんはクルミを口に運ぶ、ダリルさんも無言で天を仰ぎ涙を流した。

「これはとてもいい食べ物だね。ワインに合いそうだ」
「そうですね」

 僕とダリルさんは感慨深く頷いた。これもワティスさんに卸せば売れるはずだよね。

 全部のクルミを拾い集める。残りの木はどうしようか悩んでいるとボトボトと枝が落ちてきてすべての枝が無くなっていった。木達は自分を使ってくれと言わんばかりにその身をなげだしたみたい。僕はその一本一本を拾い集める。いっぱいの木材が手に入ってホクホクです。
 この木材もワティスさんに卸せればいいんだけど、今の所、食材しか卸せないみたいなんだよね。他の商人とのすみわけがされているみたいだからできないみたいなんだ。この街で卸せないなら次の街の為にもっておくのもいいかな。

「ルークお兄ちゃんあそぼ~」
「ああ、今終わったから遊ぼうか」

 畑仕事がひと段落した。子供達と僕は暗くなるまで遊んだ。一緒に飛び上がったり抱っこして屋根を歩いたり普通じゃ出来ない事をして遊んであげるとみんな大喜び。モナーナもおままごとをして一緒に遊んであげていた。子供達は気丈にふるまっているけど僕とモナーナは知ってる、夜中に悲しくて涙している事を。僕らはできる限りそれを忘れられるように楽しませるしかない。まあ、僕たちも楽しんじゃってるわけだけど。





「ここに兄さんが!」

 とうとうワインプールに到着したユアンとニャム、嬉しさのあまりユアンは顔が緩んでしまっている。

「嗜む子牛亭に泊っているはずにゃ」

 ニャムの案内でユアンとニャムはブドウ畑へと歩いて行く。その時、

「あの黒煙は!」

 街の上空に黒い雲がかかり一筋の龍の形をした白い影がみえる。ユアンは剣を鞘からだして身構える。雲は嗜む子牛亭の方へと流れていってブドウ畑に隠れていった。

「兄さん!」
「なんなのにゃ」

 ユアンは血相を変えて走り出した。ニャムはわけがわからずに同じ方向へ走るがユアンの速度には追いつけないので遅れていく。

 少し走った所に黒いドレスを着た少女がブドウ畑を歩いていた。ユアンは剣を少女へと振り下ろした。

「匂うと思ったら来ておったのか」
「姿を変えても無駄です。僕には心眼があるのですから」

 ユアンが振り下ろした剣を躱した少女はその剣に片足を乗せた。少女はクコ、姿を変えてもユアンにはばれてしまった。ユアンのエキストラスキル[心眼]によって人ではないものだと分かってしまったのだ。

「あの雲はどこへやった!」
「雲?おかしなことを言うものじゃな。全く、ルークの兄妹は礼儀作法も知らんのかの」
「兄さんを知っているのか」

 ユアンの疑問にクコは頷いた。二人の覇気は更に強まりブドウ畑を揺らす。このまま二つの覇気がぶつかると街がただでは済まない。クコは剣から足を下ろして嗜む子牛亭へと歩いて行く。

「逃げるのか!」
「何を言っておる。このまま戦ったら街がただではすまんだろう。おぬしは周りを省みずに戦い過ぎじゃ。あの山でもそうじゃ、人は避難させたとはいえ家を壊しおって、全く」

 クコはクドクドと文句を言いながら歩いて行く。ユアンは戦いの時、周りに気を使わずに戦ってしまうようで山での戦闘で村を壊してしまったそうだ。少しでも壊さないように立ち回ったクコは目を抉られて撤退を余儀なくされた。クコはいい龍なのだった。

「それにルークにも復讐はするなと言われておるからな。ほれ、目が治っておるだろ?その代償にじゃ」
「兄さんが・・」

 ユアンは剣を鞘にしまう。クコに少し遅れて歩いているとニャムが追いついて首を傾げていた。街の中とはいえ結構暗くなってきているのにクコのような少女が一人で歩いているのだ、ニャムが首を傾げるのも当然の事だろう。

 三人は同時に嗜む子牛亭へと向かうのだった。

 しかし、一つ疑問が残ったとユアンは首を傾げる。黒い雲に一筋の白い影、あれは確かに最初ユアンが目撃した黒煙龍の姿と思ったのだが・・と。
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