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第三章 王都リナージュ

第四十一話 英雄は静かに王都を去る

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 冥樹が消えた日、王都は祭りで夜でも明るく輝いていた。お城はボロボロだけどね。

 僕らはその騒ぎに乗じて王都を去ることにしました。すでに馬車の準備を済ませて乗り込んでいる。

「兄さん僕も行ってもいいよね?」
「ええ、でも、英雄がいなくなっちゃ、ダメでしょ?」
「それは兄さんだって同じじゃないか!」

 ユアンが僕の身代わりを拒否してきた。こんなこと初めてなので僕は首を傾げる。ユアンが馬車に乗り込むとゆっくりと進みだした。

「それに僕じゃなくてもバルト様が英雄として目立ってくれているから大丈夫だよ。それにシャラもうまく扱われているしね」

 シャラはバルト様と仲良くなり、バルト様が使役したともっぱらの噂になった。すでにシャラにまたがるバルト様の絵本ができているほどの大盛況です。その隣に英雄兄弟という絵本も売られているみたいだけど、僕は見なかったことにしました。見ない方がいいと思っただけなので他意はありません。

「それならいいんだけど、カテジナ叔母さんはどうするの?」
「母さんは兄さんが帰るっていうと悲しんでいたけど私のことは心配しなくていいって言ってたよ。いつかお邪魔するとも言っていたけど、今は一人で泣きたいんじゃないかな?」

 カテジナ叔母さんもユアンのお父さんが帰ってこなかった日の事を思い出してしまって、抑えられない悲しみに苛まれているみたい。僕らじゃぬぐい切れないその悲しみは一人で克服しなくちゃいけないと思っているんだと思う。

「お父さんとお母さんが生きていて、更に異世界人だったなんてね。お父さんも色んなものを作っていたのかな?」
「きっとそうだよ。ルークのお父さんだもん。お母さんにいつも注意されていたんじゃない?ルークと私みたいに」

 モナーナは嬉しそうに僕の疑問に答えた。安易に想像できてしまう。お父さんがもしも僕みたいに簡単にアイテムを作り出してしまえるのならたぶん、そうなっているんだろうな~。

「ルークさんよりは作れなさそうですけど、この紙に絵を連続して描写させている技術は凄いですね」

 ルナさんがカテジナ叔母さんからもらった。絵を連続して描写している紙をヒラヒラさせて話した。紙といっているけど材質は紙じゃなくてガラスみたいな触り心地でヒラヒラなんだ、よくわからないけど、こんな紙は見たことないよ。

『ルークさん、止まってください』
「レイン?」

 王都の入り口の門に差し掛かりそうになるとレインから声がかかった。地下の時以来の声だったので何だか久しぶりな感じがする。

「話せるようになったんだね」
『そうなんですが通信を助けてくれていた個体が判明して、今ルークと話したいそうなんですが後方を見てくれますか?』

 レインに言われて僕は馬車から顔を少し出して後ろをみた。隠れるように顔を出しているのはみんなにばれると騒ぎになるからです。

「ウッド?」

 後ろにはアズの従魔のトレントのウッドだった。節穴のような目で僕を見ると近づいてきて亀裂のような口を大きく開いた。

「初めまして、私はノーブルローズホワイト。母さんを止めてくれてありがとう」

 亀裂のような口から小さな妖精が顔を覗かせた。緑の体に白いヒラヒラの洋服、それに髪の毛なんかも真っ白。とても可愛らしい手のひらサイズの妖精さんだった。

「君が助けを呼んでいたの?」
「はい、そうなんです。城の地下から木の唸り声が聞こえていて誰かに知ってほしかったんですけど、トレントが急にしゃべりだしたらアズは信じてくれるかもしれないけど普通の人は私を見世物小屋にでも売ってしまうんじゃないかとおもって、言えなかったんです」

 まあ、確かに物珍しいかもしれないけどね。人には言えなかったから世界樹へ話してみたわけか?

「でも、君もノーブルローズなんでしょ?ならなんでアズと一緒にいるの?」
「実はアズはノルディック様の生まれ変わりなんです」
「ええ!」

 驚愕の真相、アズがノルディック様の生まれ変わり。よし、今度はアズを英雄にって違うか。

「といってもまだまだ、若輩なんですけどね。アズはノルディック様よりも戦闘方面に長けているのでそっちに導こうと思っています。本人も神といった感じでもないですしね」
「へ~、何だか大変だね」
「自主性に任せているといった感じですからね」

 このホワイトさんはとてもいい人だ。ノルディック様の生まれ変わりと分れば絶対に神の道を歩ませてしまう物だけど、自主性に任せようとしている。とてもいい先生だね。

「今回は本当にありがとうございました。レイン様にもお礼を言っておいてください」
「うん、って言っても聞こえていると思うけどね。そうだ、アズにこれを渡しておいて、何も言わずに出てごめんということで」

 レインの枝で持ち手を作り、アダマンタイトで刃を形どったダガーをホワイトさんに渡した。手のひらサイズのホワイトさんでも片手で持てるほど軽いダガー。だけど、切れ味抜群で鉄が何の抵抗もなく切れてしまうよ。

「アダマンタイトというと手に入れたの最近でしたよね。あなたは鍛冶の神、ドワーフの始祖と言われているダッフル様の生まれ変わりではないんですよね?」

 ホワイトさんが驚愕して僕を見つめた。またまた、物騒なことを言い出している。なんだかクコに言われたことがデジャブになってしまうな。

「ありがとうございます。なんとなく渡しておきます。これでまた一歩、アズが冒険者として有名になる日が近づきました」
「アズなら一年もすればAになれるよ。路地とか城での戦いも慣れた様子だったし」
「ルークさんにそう言われると教えてきたかいがあります」
「ええっ君がアズに指導しているの?」
「えへへ、そうなんです。見様見真似でしたけどいけてたみたいですね」

 いけてるもなにも熟練の盗賊みたいな戦い方でとってもかっこよかったよ。ウッドへの指示も様になっていたしね。

「じゃあ、今度ワインプールで教えてもらおうかな」
「いえいえ、私なんかがルークさんに教えることなんて何もないですよ。でも、ワインプールには遊びに行きます。ルークさんの作った孤児院もみたいですしね」
「アズと一緒に来てね。子供たちと待ってるよ」

 ホワイトは切れ目のような口に入っていき、トレントの姿で僕らを見送った。トレントが手を振る姿はとてもシュール、寂し気な印象だった。

「アズも大変な運命のもとに生まれたんだね。よかった、僕は普通に楽できそうで」
「兄さんがまたなんか言ってるよみんな」
「ルークは普通じゃないよ。孤児院を一日、二日で建てちゃうし」
「お屋敷を一日で建てちゃうし」
「お城をぶっ壊して山を二つにしちゃうしね」
「最後のはユアンも関係しているでしょ!」

 僕を揶揄うように順番に意地悪してきました。最後のはユアンも一緒にした事です。屋敷と孤児院はダリルさんのためとか子供の為とか時間がなかったからしょうがないじゃないか。
 でもでも、これでゆっくりとワインプールで過ごせます。よかったよかった。
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