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第一章 ヴォルフ・ガーナイン王国編
第19話 凛人、覚醒の片鱗
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地下道には、彼女の泣き続ける声が響いていた。
パーティの二人は、固まってイーレの復活を喜んでいる。 ……ん? 三人?
そういえば、ナイルの姿が見えない。彼は別任務なのだろうか。
「すごいです凛人さん!アストラル・ヒールでも無理な怪我を治癒するなんて!」
「いやぁ……なんかコツを掴んじゃってさ。ハハハ」
ってそんな場合じゃない!ユリア様だ!
ユリア様も大怪我をしている。早く見て差し上げないと。
二人の元へ俺たちは駆け付けた。セレイナは、彼女の傷を見て神妙な顔をしている。
「どうしたの?セレイナ」
「この傷には、闇属性の魔力が大量に混ぜ込まれています。私のヒールでは……」
じゃあ、俺のはどうだろう。もしかしたら……
そう思って俺流の治癒を試そうとしたが、黒い魔力に阻まれ、マナを同化しようとしても弾かれてしまう。
「クソ!だめだ!」
「ママの目…… 治らないの?」
フローラ様が不安そうに尋ねてきた。
こんな時、どう気の利いた言葉をかけていいのか俺にはわからなかった。ただ一言。
「絶対に治すから!」
と俺は答えた。根拠はない、ただ、そう答えるが精一杯だった。
フローラ様は薄く微笑んでくれた。その返答は、その場に限っては間違いではなかったと思いたい。
落ち着いた銀狼の二人がこちらに歩いてきた。巨漢の男性はイーレを抱きかかえている。まだ目を覚ましてはいないようだ。
「リント君、本当にありがとう。この恩はいつかきっと返すわ、何があっても」
「いえ、これも何かの縁ですから、気にしないでください」
「そんなわけにはいかないわ! あ、そういえばギルドでも自己紹介してなかったわね。私はアイラ」
「モントンだ。本当に感謝している、ありがとう」
二人が言うには、俺はイーレにただ触れていただけに見えたらしい。
周りからはそう見えるのか。確かにセレイナが使うヒールは、光が出たり神々しいもんな。
俺のは……性能の割に見た目はちょっと地味なのかもしれない。
「そういえば、ナイルさんの姿が見えないんですが」
アイラは深刻な顔つきに戻り、経緯を話してくれた。
「ナイルは、自分を身代わりに、私たちを逃がしてくれたの……」
「じゃあナイルさんは!?」
「ええ…… 魔族の女と戦っているはずよ」
「じゃ、じゃあ早く戻らないと!」
「わかってる! わかってるけど…… 私たちじゃ、戻っても共倒れになるだけ…… 戻ったら、ナイルの覚悟が無駄になってしまう……」
アイラさんは悔しそうに涙を流し、震える拳を握り締めている。本当は今すぐにでも戻りたいんだろう。
だとしても、ナイルさんにはエレオナさんという奥さんもいる。助太刀しないわけにはいかない。
「俺が行きます!」
「だ、ダメよリント君!あなた、剣士かパグナリストでしょ!?あの魔族には物理攻撃は無駄なのよ……」
「大丈夫です」
俺は空中に炎の塊を何個か出して見せた。
「俺はウィザードです。ナイルさんは俺が助けます!」
二人は口を開けて驚いている。
「私もご一緒します。凛人さん」
「いや、セレイナはみんなを守ってあげて」
「ですが……」
「これは俺の望みだよ。頼むセレイナ、みんなを守ってあげてくれ」
「……わかりました。本当に……お気をつけてください。凛人さん」
「ありがとう。セレイナ」
俺は松明を受け取り、地下道を奥に向かって走り出した。
「ウィザードなのに、スナッシュを殴り飛ばして勝ったの?……それに空中に炎だなんて」
「うむ。不思議な青年だ」
――ナイルは、セルドの鋼鉄の鞭を剣で受け続けていた。
全身に、痛ましい切り傷が無数に刻まれている。
しかし、セルドが全く本気でないことはわかっていた。
あの女はただ単調に、一定のリズムで帯の鞭を打ち続けてきているだけ。
それなのに近づくことさえできない…… まあ、近づいたとして、どうしようもないんだけどな。ナイルは自分の無力さを笑った。
またセルドの鞭が、鋭い風切り音を鳴らし襲いかかる。なんとか剣で受け止めるが、一発一発が、岩でもぶつけられているように重い。
ナイルの剣は、持ち主の反撃を待たずして、すでにボロボロになってきていた。
自身も同じだ。息も切れ、無数の切り傷からの出血で、立っているのもやっとの状態だった。
「……あの意気込みからして、何か秘策でもあるのかと思って様子を見ていたが。何もないのか?Aランクと言うのはこんなにも弱いのだな」
「くっ…… クソがぁ――!!!!」
挑発されたナイルが、決死の反撃に出る。
しかし、セルドは鞭を振るのをやめ、無防備な状態でそれを見ている。
ナイルの剣がセルドの身体を切り裂いた。しかし、案の定セルドは何事もないように、その場に立っていた。
ナイルはフラフラと数歩下がると、ついに膝をつき、うなだれる様に肩で息をしていた。
「クソったれ……なんなんだよお前の身体は!」
「私の身体は泥の流動体だ。斬撃も打撃も、私には意味をなさない」
そう言いながら、セルドは自分の手を身体の中にズブズブと入れて見せた。
「冥土の土産に一太刀入れさせてやったのだが。満足したか?」
「へっ……好きにしやがれ、化け物め」
セルドの帯の鞭が生き物のように動き出し、ナイルの腹部を貫いた。
「…………誰だ?」
セルドは俺のほうを振り向かずに尋ねてきた。
少し遅かったか。俺が着いたのは、ナイルさんが前のめりに倒れた瞬間だった。だけど……
「お前は誰だと聞いている」
自分の横を無言で通り過ぎる俺に、セルドはもう一度尋ねた。
俺は松明を置くと、伏しているナイルの身体に手を触れ、立ち上がった。
少し遅れてナイルが身体を起こす。そして、その場に胡座をかいて座った。
「お前……いったい何をした?」
「治させてもらった。知り合いには、なるべく死んでほしくないんだよ」
「……治した?」
この世界は過酷で残酷だ。これから先、全員を救うことはできないだろう。でも、せめて手の届く範囲の命は拾い上げたい。
「お、俺は死んだんじゃなかったのか……?」
ナイルさんは少し混乱している様子だ。致命傷を負い意識が途切れ、目覚めたら無傷の自分がいる。
混乱しても仕方がない。
「無事でよかったです。ナイルさん」
「お、お前、リント……なのか?」
ギルドの時と装備している鎧が違うので、声を聞くまで気づいていなかったようだ。
「あいつは俺が何とかします。下がっていてください」
「何とかって。リント!あいつは……!!」
俺は強く地面を蹴り、飛び出していった。スピードは速い方だと自負している。
セルドも帯を鞭のようにしならせて俺を迎え撃つ。
セルドの鞭は予想よりも速かった。紙一重でかわしたつもりが俺にかすり、鎧の肩当てが吹き飛んだ。
俺は拳を握り締め突進する。セルドは、またもや無防備な状態となり、俺を迎え撃つ。
渾身の右ストレートがセルドに直撃する。セルドの腹部は弾け飛び、大きな風穴が空いた。
俺は違和感を覚えた。スナッシュの時と違い、拳に手ごたえがない。
セルドがにやりと笑うと、真横から意志を持ったような動きで、帯状の鞭が俺を襲う。
何とか回避の態勢を取ったが、帯状の鞭は、俺の左腕を貫通する。
「くっ……!!」痛みに顔を歪ませながら、俺はセルドの顔をめがけて拳を放つ。しかし、またも顔が液体のように飛散し、俺の拳は空を切るだけだった。
一旦距離を取り、自分を落ち着かせる。
「リント!あいつには斬撃も打撃も効かねえんだ!」
「……その通りだ」
セルドの顔がどろどろと元に戻っていく。
「鎧を着ているから剣士だと思ったが、パグナリストだったか。どちらにせよ無駄な事だ」
俺は、「ふぅ……」と息を吐いた。
「なるほどね。みんなのお礼に一発殴りたかったんだけど、やっぱり無理か。あとさ……」
俺は空間に無数の炎の玉を出した。
「俺は、パグナリストじゃない。ウィザードだ!」
パーティの二人は、固まってイーレの復活を喜んでいる。 ……ん? 三人?
そういえば、ナイルの姿が見えない。彼は別任務なのだろうか。
「すごいです凛人さん!アストラル・ヒールでも無理な怪我を治癒するなんて!」
「いやぁ……なんかコツを掴んじゃってさ。ハハハ」
ってそんな場合じゃない!ユリア様だ!
ユリア様も大怪我をしている。早く見て差し上げないと。
二人の元へ俺たちは駆け付けた。セレイナは、彼女の傷を見て神妙な顔をしている。
「どうしたの?セレイナ」
「この傷には、闇属性の魔力が大量に混ぜ込まれています。私のヒールでは……」
じゃあ、俺のはどうだろう。もしかしたら……
そう思って俺流の治癒を試そうとしたが、黒い魔力に阻まれ、マナを同化しようとしても弾かれてしまう。
「クソ!だめだ!」
「ママの目…… 治らないの?」
フローラ様が不安そうに尋ねてきた。
こんな時、どう気の利いた言葉をかけていいのか俺にはわからなかった。ただ一言。
「絶対に治すから!」
と俺は答えた。根拠はない、ただ、そう答えるが精一杯だった。
フローラ様は薄く微笑んでくれた。その返答は、その場に限っては間違いではなかったと思いたい。
落ち着いた銀狼の二人がこちらに歩いてきた。巨漢の男性はイーレを抱きかかえている。まだ目を覚ましてはいないようだ。
「リント君、本当にありがとう。この恩はいつかきっと返すわ、何があっても」
「いえ、これも何かの縁ですから、気にしないでください」
「そんなわけにはいかないわ! あ、そういえばギルドでも自己紹介してなかったわね。私はアイラ」
「モントンだ。本当に感謝している、ありがとう」
二人が言うには、俺はイーレにただ触れていただけに見えたらしい。
周りからはそう見えるのか。確かにセレイナが使うヒールは、光が出たり神々しいもんな。
俺のは……性能の割に見た目はちょっと地味なのかもしれない。
「そういえば、ナイルさんの姿が見えないんですが」
アイラは深刻な顔つきに戻り、経緯を話してくれた。
「ナイルは、自分を身代わりに、私たちを逃がしてくれたの……」
「じゃあナイルさんは!?」
「ええ…… 魔族の女と戦っているはずよ」
「じゃ、じゃあ早く戻らないと!」
「わかってる! わかってるけど…… 私たちじゃ、戻っても共倒れになるだけ…… 戻ったら、ナイルの覚悟が無駄になってしまう……」
アイラさんは悔しそうに涙を流し、震える拳を握り締めている。本当は今すぐにでも戻りたいんだろう。
だとしても、ナイルさんにはエレオナさんという奥さんもいる。助太刀しないわけにはいかない。
「俺が行きます!」
「だ、ダメよリント君!あなた、剣士かパグナリストでしょ!?あの魔族には物理攻撃は無駄なのよ……」
「大丈夫です」
俺は空中に炎の塊を何個か出して見せた。
「俺はウィザードです。ナイルさんは俺が助けます!」
二人は口を開けて驚いている。
「私もご一緒します。凛人さん」
「いや、セレイナはみんなを守ってあげて」
「ですが……」
「これは俺の望みだよ。頼むセレイナ、みんなを守ってあげてくれ」
「……わかりました。本当に……お気をつけてください。凛人さん」
「ありがとう。セレイナ」
俺は松明を受け取り、地下道を奥に向かって走り出した。
「ウィザードなのに、スナッシュを殴り飛ばして勝ったの?……それに空中に炎だなんて」
「うむ。不思議な青年だ」
――ナイルは、セルドの鋼鉄の鞭を剣で受け続けていた。
全身に、痛ましい切り傷が無数に刻まれている。
しかし、セルドが全く本気でないことはわかっていた。
あの女はただ単調に、一定のリズムで帯の鞭を打ち続けてきているだけ。
それなのに近づくことさえできない…… まあ、近づいたとして、どうしようもないんだけどな。ナイルは自分の無力さを笑った。
またセルドの鞭が、鋭い風切り音を鳴らし襲いかかる。なんとか剣で受け止めるが、一発一発が、岩でもぶつけられているように重い。
ナイルの剣は、持ち主の反撃を待たずして、すでにボロボロになってきていた。
自身も同じだ。息も切れ、無数の切り傷からの出血で、立っているのもやっとの状態だった。
「……あの意気込みからして、何か秘策でもあるのかと思って様子を見ていたが。何もないのか?Aランクと言うのはこんなにも弱いのだな」
「くっ…… クソがぁ――!!!!」
挑発されたナイルが、決死の反撃に出る。
しかし、セルドは鞭を振るのをやめ、無防備な状態でそれを見ている。
ナイルの剣がセルドの身体を切り裂いた。しかし、案の定セルドは何事もないように、その場に立っていた。
ナイルはフラフラと数歩下がると、ついに膝をつき、うなだれる様に肩で息をしていた。
「クソったれ……なんなんだよお前の身体は!」
「私の身体は泥の流動体だ。斬撃も打撃も、私には意味をなさない」
そう言いながら、セルドは自分の手を身体の中にズブズブと入れて見せた。
「冥土の土産に一太刀入れさせてやったのだが。満足したか?」
「へっ……好きにしやがれ、化け物め」
セルドの帯の鞭が生き物のように動き出し、ナイルの腹部を貫いた。
「…………誰だ?」
セルドは俺のほうを振り向かずに尋ねてきた。
少し遅かったか。俺が着いたのは、ナイルさんが前のめりに倒れた瞬間だった。だけど……
「お前は誰だと聞いている」
自分の横を無言で通り過ぎる俺に、セルドはもう一度尋ねた。
俺は松明を置くと、伏しているナイルの身体に手を触れ、立ち上がった。
少し遅れてナイルが身体を起こす。そして、その場に胡座をかいて座った。
「お前……いったい何をした?」
「治させてもらった。知り合いには、なるべく死んでほしくないんだよ」
「……治した?」
この世界は過酷で残酷だ。これから先、全員を救うことはできないだろう。でも、せめて手の届く範囲の命は拾い上げたい。
「お、俺は死んだんじゃなかったのか……?」
ナイルさんは少し混乱している様子だ。致命傷を負い意識が途切れ、目覚めたら無傷の自分がいる。
混乱しても仕方がない。
「無事でよかったです。ナイルさん」
「お、お前、リント……なのか?」
ギルドの時と装備している鎧が違うので、声を聞くまで気づいていなかったようだ。
「あいつは俺が何とかします。下がっていてください」
「何とかって。リント!あいつは……!!」
俺は強く地面を蹴り、飛び出していった。スピードは速い方だと自負している。
セルドも帯を鞭のようにしならせて俺を迎え撃つ。
セルドの鞭は予想よりも速かった。紙一重でかわしたつもりが俺にかすり、鎧の肩当てが吹き飛んだ。
俺は拳を握り締め突進する。セルドは、またもや無防備な状態となり、俺を迎え撃つ。
渾身の右ストレートがセルドに直撃する。セルドの腹部は弾け飛び、大きな風穴が空いた。
俺は違和感を覚えた。スナッシュの時と違い、拳に手ごたえがない。
セルドがにやりと笑うと、真横から意志を持ったような動きで、帯状の鞭が俺を襲う。
何とか回避の態勢を取ったが、帯状の鞭は、俺の左腕を貫通する。
「くっ……!!」痛みに顔を歪ませながら、俺はセルドの顔をめがけて拳を放つ。しかし、またも顔が液体のように飛散し、俺の拳は空を切るだけだった。
一旦距離を取り、自分を落ち着かせる。
「リント!あいつには斬撃も打撃も効かねえんだ!」
「……その通りだ」
セルドの顔がどろどろと元に戻っていく。
「鎧を着ているから剣士だと思ったが、パグナリストだったか。どちらにせよ無駄な事だ」
俺は、「ふぅ……」と息を吐いた。
「なるほどね。みんなのお礼に一発殴りたかったんだけど、やっぱり無理か。あとさ……」
俺は空間に無数の炎の玉を出した。
「俺は、パグナリストじゃない。ウィザードだ!」
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