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第一章
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しおりを挟む「───ちょっと、待て。 お、お父さん? 俺が、……か?」
「ああそうだ、宗次。 お前の子だよ」
「まさか、 …だっ、て」
「葵くん、ベータじゃなくて、オメガだったんだ」
「か、仮にオメガだったとしても、俺と、葵が? そんな訳…、」
「どうしてそうなったのかは、オレにだって分からない。けど、この子の瞳の色を見れば分かるだろう? お前と、宝条と同じ、アメジストの瞳だ」
───そう。確かにそうだ。
宝条家のアルファには特徴がある。その瞳の色だ。
アメジストパープル。宝条家のアルファは皆、この紫色の瞳を持って生まれる。父も兄も、俺も妹も宝条家のアルファは皆、紫色のアメジストだ。
そして今、目の前にいる葵の子、千津もまた、その紫色の瞳を持っている。
俺の遺伝子だとその瞳が物語る。けれど、どういう事だ。葵が、オメガだった? だとしてどうしてその子供が、宝条の瞳を持っているんだ。
「オジちゃん、ままのおくびとおなじにおいね。ぶどうじゅーすのにおいする」
葡萄のジュース、……て。
ああ、そうか。俺のアルファフェロモンは、葡萄酒のようだと言われたな。
「ママの首からも、この匂いがしたの?」
「うん!ままね、いつもいってた。ちずのぱぱは、おーじさまみたいなんだよって。それからね、ちずはぱぱにそっくりだって。だから、おおきくなったらおひめさまになるよって!」
おいおい…。何だよ、王子様って。あいつン中で俺はどう映ってたんだ。
「あとね、ちずはままのたからものだよ……って、ぃ…、て、たのぉ… おぁぁああああん」
また母親を思い出したのだろう。大粒の涙を溢しながら大きな口を開けて号泣する千津を、思わず抱き締めていた。
「大丈夫、大丈夫だよ。ママはきっと元気になるから。俺が、───パパが約束する」
「ほ、ほんとぉ? まま、また、ちずと、にこにこ、してくれるぅ?」
「ああ。約束するって言っただろう? だからもう、泣かないの。ね、」
涙と鼻水だらけの幼い千津と、同じ色の瞳を合せて笑ってやる。
本当だ。よく似ている。幼い頃の妹にもそっくりだ。
「千津はママにも似てるぞ。 ママもよくそうやって、唇を尖らせてたよ」
「あのね。ままのおくびのね、においね。ちず、だぁいすきなの」
「そうか」
「でも、ね。でもねぇ……。ぁ…あんまりね。しなくなっちゃ…ってね。そしたらね、まま、ま…、まま、げんき……なくな…っちゃってね、ふ…ぅぅう、」
また泣き出しそうな気配に、慌てて言葉を探した。
「よぉーし!!じゃあ、またパパが匂い付けてやらなきゃなぁ!ねぇ!」
「ふ、ぇ、…ぅ?」
「ね、ねぇーっ!!」
「ぅん、……うんっ!」
よかった。やっと笑ってくれた。耳を劈くようなあの泣き声だけは、もう勘弁だからな。
「あ、あー、パパぁ? そろそろ、今後についてご回答を頂きたいのですが?」
あ、そうだった。てか、玲一。お前は『パパ』なんて呼ぶなっ。
「柴田さんにお話を聞きたいのですが、いいですか?」
「え? あ、はい。確認してきます」
若い刑事が部屋から出ると、コソッと玲一に耳打ちされる。
「おい宗次……。 お前。未成年淫行罪って、知ってるか?」
「っ! う、煩いっ!オメガは16で結婚出来るんだよっ!ギリギリセーフだろーがっ」
「ええぇ………? アウトだろぉ?」
葵の誕生日っていつだ? あとで秋に確かめよう。
俺の冷や汗を余所に、千津と柴田姉妹は何やら楽しげに手を繋ぎ、ぴょんぴょんと跳ね回っていた。
いいよな……っ、子供は無邪気で。
正直まだ謎ばかりだ。
先ず、葵のバースが何故、ベータからオメガに変わったのか。確かにベータだった。あの子からオメガフェロモンは出ていなかった。じゃなければ、アルファばかりの宝条家に、下働きとはいえ雇えなかった筈だ。
それともっと謎なのは、俺が葵を番にした経緯だ。本当に思い出せない。
まったく……。これじゃ本物のクズじゃないか。
「捕まるかもなぁ。 この淫行アルファ」
玲一が追い打ちをかけてくる。
やめろよ。泣くぞ……っ。
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