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恋人編(前編)
第38話(ある女の話⑥)
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そして2週間ほどした時、突然彼の周りから呪いが消えた。
驚いた。
あれほどにまで強力だったそれが残留物もなくあとかたもなく消えていたから。
あの禍々しいものが綺麗さっぱり消えていたから。
呪いが解けたのだろうか。
レオノーラはまだ半信半疑であった。
だから、その後も彼を彼女に近づけないようにしていた。
――だが、何日経ってもそれは一度たりとも現れはしなかった。
そしてようやく彼女は安堵した。
彼らの仲を脅かすものはやっといなくなったと。
私の任は終わりを告げたと。
そうして、解放した。
すれば、彼は最初は疑っていたようだが、あっさりとそれを信じた。
脅した女をあっさりと信じた彼にも驚く。それも、フェルディナントはレオノーラを殺そうともしなかったのだ。
恨みがあってもおかしくないのに、だ。
何を考えているのかはわからなかったが、レオノーラは彼を置いて直ぐにその場をあとにした。
やっと終わったと思った。
彼らはしっかり仲をより戻すと確信もしていた。
彼女は一歩一歩家に向かって歩いた。
*****
兄が、死んだらしい。
その死因は不明らしいが、その周辺にはなにか黒い跡が残っていたそうだ。
呪いの、対価だろうか。
私はふとそう思った。
悲しくはなかった。
もちろん、小さな頃から優しくしてくれた兄であった。
相談にも乗ってくれるよき兄であった。
だが、あんなことをしたのだ。
自業自得だと思う。
そして、私も、
「レオノーラ。お前は婿養子を取れ。」
彼女の父がそういった。
彼女は「はい。」と素直にそれを受け止めるしかなかった。
そして、気づけば彼女はそこにいた。
廃れた人通りの少ない小道。
たまに鳥が羽ばたく音がするだけで、あとはなんの音もしないそこ。
結婚相手探しをしていた彼女であったが、正直、彼女には初恋の相手がいた。
ここはそんな彼と出会った場所であった。
彼はある大きな家の性奴隷であった。
いや、性奴隷と言えるのであろうか。
ただ気晴らしのための暴力を受けるその的と言った方が良いのだろうか。
これは後に知った事実だった。
まだ幼かった彼女は、彼と一度だけあったことがあった。
キラキラと光る金色の髪に、青空のように美しい天色の瞳。
まるで王子様のような色合いを持った彼に、彼女は人目で恋に落ちた。
もちろん、彼は美しかった。
だが、嬉しかった。
自身の容姿に自信がなかったはずなのに、彼の方が辛い思いをしているはずなのに、泣いていた自分に歩み寄ってきてくれたことが。
楽しかった。
少しの間話していただけなのに、彼は話上手で、話題が尽きなかった。
「どうせキモブタと結婚するんだろうけど。」
露出の少ないドレスを身に纏い、胸いっぱい空気を吸い込み、それを吐き出す。
ずきりと痛む全身に、レオノーラは「ーーっ」と小さな悲鳴をあげた。
フェルディナント達を呪いから助けるために、レオノーラは犠牲になった。
その証拠として、彼女の全身には痛々しい、呪いによる傷が刻み込まれている。
「 でも、こんなんじゃブタが受け入れてくれるかもわからないわね。」
ドレスの上から傷に指を這わせる。
バサバサと鳥たちがいっせいに空に舞い上がっていく。
大きな風が、レオノーラの美しいつややかな黒髪を撫でていった。
「レオノーラ、笑うのよ。」
強ばっていた顔を無理矢理に笑顔にする。
本当は父親の決めた相手とは結婚したくはない。
平凡で普通の暮らしを好きな相手としたい。
ずっと何にも脅かされずに幸せに暮らしたい。
それだけの事がレオノーラには叶えられないことが悲しかった。
それに、こんな体では仮にそれができたとしても軽蔑されてしまうだろう。
彼女はすっと流れる涙をゆっくりと拭い、日が落ちかけてきた空を見上げた。
「まあ、大丈夫よね。」
諦めに似た自分を励ます言葉に少し笑ってしまった。
一歩、一歩と帰路を歩けば、感情も少しずつ剥がれ落ちていく気がする。
コツンと彼女の背後から音がした。
「レオノーラ。」
心地のいい低音が発せられる。
さらりと懐かしい金色が揺れた。
━━━━━━━━━━━━━━━
これで恋人編(前編)は終わりです!つぎは恋人編(後編)よろしくお願いします!
驚いた。
あれほどにまで強力だったそれが残留物もなくあとかたもなく消えていたから。
あの禍々しいものが綺麗さっぱり消えていたから。
呪いが解けたのだろうか。
レオノーラはまだ半信半疑であった。
だから、その後も彼を彼女に近づけないようにしていた。
――だが、何日経ってもそれは一度たりとも現れはしなかった。
そしてようやく彼女は安堵した。
彼らの仲を脅かすものはやっといなくなったと。
私の任は終わりを告げたと。
そうして、解放した。
すれば、彼は最初は疑っていたようだが、あっさりとそれを信じた。
脅した女をあっさりと信じた彼にも驚く。それも、フェルディナントはレオノーラを殺そうともしなかったのだ。
恨みがあってもおかしくないのに、だ。
何を考えているのかはわからなかったが、レオノーラは彼を置いて直ぐにその場をあとにした。
やっと終わったと思った。
彼らはしっかり仲をより戻すと確信もしていた。
彼女は一歩一歩家に向かって歩いた。
*****
兄が、死んだらしい。
その死因は不明らしいが、その周辺にはなにか黒い跡が残っていたそうだ。
呪いの、対価だろうか。
私はふとそう思った。
悲しくはなかった。
もちろん、小さな頃から優しくしてくれた兄であった。
相談にも乗ってくれるよき兄であった。
だが、あんなことをしたのだ。
自業自得だと思う。
そして、私も、
「レオノーラ。お前は婿養子を取れ。」
彼女の父がそういった。
彼女は「はい。」と素直にそれを受け止めるしかなかった。
そして、気づけば彼女はそこにいた。
廃れた人通りの少ない小道。
たまに鳥が羽ばたく音がするだけで、あとはなんの音もしないそこ。
結婚相手探しをしていた彼女であったが、正直、彼女には初恋の相手がいた。
ここはそんな彼と出会った場所であった。
彼はある大きな家の性奴隷であった。
いや、性奴隷と言えるのであろうか。
ただ気晴らしのための暴力を受けるその的と言った方が良いのだろうか。
これは後に知った事実だった。
まだ幼かった彼女は、彼と一度だけあったことがあった。
キラキラと光る金色の髪に、青空のように美しい天色の瞳。
まるで王子様のような色合いを持った彼に、彼女は人目で恋に落ちた。
もちろん、彼は美しかった。
だが、嬉しかった。
自身の容姿に自信がなかったはずなのに、彼の方が辛い思いをしているはずなのに、泣いていた自分に歩み寄ってきてくれたことが。
楽しかった。
少しの間話していただけなのに、彼は話上手で、話題が尽きなかった。
「どうせキモブタと結婚するんだろうけど。」
露出の少ないドレスを身に纏い、胸いっぱい空気を吸い込み、それを吐き出す。
ずきりと痛む全身に、レオノーラは「ーーっ」と小さな悲鳴をあげた。
フェルディナント達を呪いから助けるために、レオノーラは犠牲になった。
その証拠として、彼女の全身には痛々しい、呪いによる傷が刻み込まれている。
「 でも、こんなんじゃブタが受け入れてくれるかもわからないわね。」
ドレスの上から傷に指を這わせる。
バサバサと鳥たちがいっせいに空に舞い上がっていく。
大きな風が、レオノーラの美しいつややかな黒髪を撫でていった。
「レオノーラ、笑うのよ。」
強ばっていた顔を無理矢理に笑顔にする。
本当は父親の決めた相手とは結婚したくはない。
平凡で普通の暮らしを好きな相手としたい。
ずっと何にも脅かされずに幸せに暮らしたい。
それだけの事がレオノーラには叶えられないことが悲しかった。
それに、こんな体では仮にそれができたとしても軽蔑されてしまうだろう。
彼女はすっと流れる涙をゆっくりと拭い、日が落ちかけてきた空を見上げた。
「まあ、大丈夫よね。」
諦めに似た自分を励ます言葉に少し笑ってしまった。
一歩、一歩と帰路を歩けば、感情も少しずつ剥がれ落ちていく気がする。
コツンと彼女の背後から音がした。
「レオノーラ。」
心地のいい低音が発せられる。
さらりと懐かしい金色が揺れた。
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これで恋人編(前編)は終わりです!つぎは恋人編(後編)よろしくお願いします!
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