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93.王、策に溺れる
しおりを挟む王は、静かに花子を見つめた。
「……では、花子。そなたの伴侶候補は、誰だ?」
突然の問いに、花子は一瞬ぽかんとした。
(えっ、私!? いやいや、そんなの――)
「えーと……その、いませんけど……」
その言葉が落ちた瞬間、会場の空気が一瞬ざわついた。
王は目を細め、リサは口元をほころばせ、アマイは勝ち誇ったように小さく笑った。
「まあ、そうですわよね。庶民にふさわしい伴侶なんて、そうそう――」
その時だった。
「……フレッド・ミート。私が花子様の婚約者です」
低く、よく通る声が、花子のすぐ隣から響いた。
花子が驚いて横を見ると、そこには――
いつも通り、静かに立っていた青年がいた。
細身の茶髪、平凡よりやや整った顔の好青年が
軍服のような制服をきっちりと着こなし、立っていた――フレッド。
(フレッドって、執事候補よね?
婚約者っていうのは、今初めて聞いたんだけど……あれ?)
フレッドは、花子をかばうように一歩前へ進み出ると、王に向かって深く一礼した。
「私、フレッド・ミート。
この場において、正式に花子様の婚約者として、代理で戦います」
ざわっ……!
――あの、魔力戦のパートナーか。
周囲の貴族たちから、納得の声がざわめきとなって広がった。
その中で、マリアが扇子をぎゅっと握りしめながら、ぽつりと呟いた。
「……セバスが写真を見せたとき、“気に入った”って言ってたじゃない……
今さら“いない”なんて、どういうことかしら……」
(まさか、私たちの話、聞いていなかった?)
「ふふふ……なら、後でたっぷり説教だわ」
花子は、周囲の視線を感じながら、頭を抱えた。
「えっ、ちょっと待って!? フレッドって婚約者だったの!?
私、そんなの聞いていないんだけど!?」
マリアが、扇子で額を押さえながら、深いため息をついた。
「あなた、セバスがフレッドの写真を見せたとき、“この子が魔力戦の相棒候補です”って言ったでしょう?
そのとき、あなた“あっ、気に入った”って言ったじゃないの」
「うん、それは覚えてるけど……!
“気に入った”って、魔法戦の相性が良さそうって意味で言っただけで――」
「そのあと、私が“白の宮殿の書庫の本、自由に読んでいいわよ”って言ったとき、
あなた、すごく嬉しそうにしていたじゃない」
「うん、それは嬉しかったけど!?
でも、婚約者になる話なんて、聞いてないよ!? 一言も!!」
マリアは、扇子で口元を隠しながら、ふぅとため息をついた。
「……まったく、どこまで本のことしか頭にないのかしら……」
花子は、顔を真っ赤にして頭を抱えた。
(……私、人生の伴侶を、勘違いで決めたことになってる!?)
その隣で、フレッドは静かに微笑んでいた。
「……花子様が私のことを“気に入った”と聞いてほんとうにうれしかった。」
「いや、だからそれ“魔法戦の相性”の話だったってばあああああ!!」
一方、王はフレッドの名を聞いた瞬間、顔を曇らせた。
(……ちょっと待て。フレッドの実家、ミート家はキンソン家の派閥だったはず。
なぜルービック家の婚約者に……?)
王は、会場の隅に控えていたミート家のこぶとり当主に一瞬だけ視線を向けた。
(……ミート家がルービック家と手を結んだのか?)
王の脳裏に、冷や汗がにじむ。
(まずい。このままだと、花子vsアマイどころの話じゃない。
第二王子とフレッドでは、勝負にならん。赤子の手をひねるようなものだ……)
(……そうだ。代理戦闘を許可すれば、王家から“強い者”を推薦できる)
王の心は、静かに決まった。
「……ふむ。伴侶対決とはいえ、本人が戦う必要はない。
代理での決闘も、認めるとしよう」
その言葉に、場が再びざわついた。
だが――
「ふざけないでいただきたい!!」
マリアの怒声が、雷のように響いた。
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