昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[ヴィル]

新人類

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 全員の食事が済んだところを見計らって、俺は話を元に戻した。

「なあ、遊女が嫌なのか? 採点さえできれば、別の女性でも構わないのだぞ? 昔は皆、婚約者や妻に頼んだのだからな?」

 俺はいずれ騎士団を離れることになる。
 その時、第一騎士団はクリスに任せたいと思っている。
 クリスは第三騎士団でやるべき仕事の大半をすでに終えていて、誰に仕事を引き継ぐかが課題になっていた。
 ニッコロは着任してから日は浅いが、その資質は十分ある。クリスは彼を次期団長候補に押し上げ、今の副団長たちと競わせたがっている。
 俺とクリスの利害は完全に一致していた。
 まずはニッコロを隊長にして、副団長まで引っ張り上げなくてはならない。

「ぶっちゃけるとぉ……」と言うと、ニッコロは小さなせき払いをした。
「惚れた相手じゃないとダメな気がするんスよねっ」
 片目をつぶって舌を出し、十代の女学生のように「てへっ」と笑っている。

 ――俺たちは石像になった。

 俺は自問自答した。
 その結果、一つの仮説に行き着いた。「ニッコロにはすでに惚れた相手がいるのではないだろうか」というものだ。
 それならば話は早い。早々に婚約に向けて動けば良いのだから。
「惚れている女性がいるのだな?」と、俺は尋ねた。
「いや、いないッスね」彼は即答した。
 俺は口角を上げたまま再び石化した。
 戦場で名乗りをあげている間に、ブスリと腹を刺されたような気分だ。

 クリスはすがるような目で俺を見ている。
 わかっているぞ、友よ。ニッコロは俺たちの命運を握っている。

「では、気になっている女性がいるのか?」と、俺は優しく尋ねた。
「いないッスねー」と、ニッコロは秒殺の構えだ。
 少々ムカついてきたが、王族たるもの一ミリたりとも顔には出さない。リアが『世界を癒す微笑み』と呼んでいる俺のすてきな笑顔を食らいたまえ。

「結婚する気はあるのか?」
「まあ、いずれは? みたいな?」
 俺は混乱した。
 みたいなとは何だ?
「どちらだ。するのか、しないのか」
「してみてもいいかなぁーって感じッスねー」

 俺は心の中でかわいい婚約者に問いかけた。
 リア、どうして君は平民の子どもやこういうワケのわからない新人類と同じ調子で会話ができるのだろうか。俺はこいつが何を言っているのかサッパリわからないぞ。

「質問を変えよう。お前は花嫁候補を探しているのか?」と、俺は聞き直した。
「いや、ぜんぜんッスね。アハハッ」と、ニッコロは陽気に笑った。

 ――俺は砂になった。

「クリス、代わってくれ……」
 俺がこめかみを押さえていると、親友は「巻き込んですまん」と言った。
 クリスはすごい男だ。よくこんな部下を統率できるものだ。猛獣使いと呼ばれるだけのことはある。

「あのな? お前が恋をする日まで昇進させられないのは組織として困る。なんとか訓練を受けてもらいたい」
 クリスは諭すように言った。まるで弟を思う兄のような言い方だった。

「でも娼館に行ってもタブン無理ッスよ?」と、ニッコロは上目遣いでクリスを見た。両方の人差し指を合わせて口を尖らせている。
 お前は乙女か……っ(泣)

 がんばれクリス。とにかく娼館へ行きさえすれば、いかつい男娼が何とかしてくれる。
「大丈夫。相手はプロだ。教官は男だし普通の訓練だぞ」
「でも、病気も怖いッスよ。オレ、鑑定魔法は苦手だし」
「それならば俺が付き添ってやる。問題のない者に頼めばいい」
「そんなの嫌ッスよ。保護者付きなんて恥ずかしい」
「では夜会へ行け。訓練外で採点を受けるためには、信頼できる女性と出会わなければ話にならん。昇進のことはさておき、お前の人生のためでもある。実家がアテにならないのなら、いずれ自力で伴侶を探さなくてはならない。一生独り身でいるつもりか?」

 なんて愛のある言葉だろう。クリスは本当にいい奴だ。
 色事の採点を頼めるほどの相手ともなると婚約が前提になるだろうし、肝の据わった女性でなければ無理だ。
 そもそも玉の輿狙いの令嬢が多い中で、実家と折り合いが悪く何も相続するものがない子爵次男は人気薄。彼の婚活は困難を極めるだろう。多少強引にでも顔と名前を売らなくてはならない。

「一人で夜会なんか行くの嫌ッスよぉぉ」と、ニッコロが小犬のような目をして言った。
「ならば娼館へ行け」とクリスが諭す。
「それはもっと嫌ッス……」
「訓練が嫌なら夜会で努力するしかないだろう」
「団長、なんで夜会は『付き添ってやる』って言ってくれないんスか?」
「うぐっ……」

 痛いところを突かれた。
 クリスはリアに想いを伝えたばかりであり、その舌の根も乾かぬうちに男女の出会いの場になど行けるわけがない。

 これはやはり俺の出番のようだ。
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