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[ヴィル]
婚活大作戦
「お前の気持ちはよく分かった、ニッコロ。それならば、俺がお前と一緒に夜会へ行ってやる」
クリスが驚いた顔で「お前、本気か?」と言った。
ニッコロは身を乗り出し、目を輝かせている。
「正確に言おう」と、俺は人差し指を立てた。
「俺とリアが、お前に付き添ってやる」
「ええーーッ!! うそっ! マジっすか!?」
驚くのも無理はない。そこらの貴族が主催する夜会に神薙が参加するなど前代未聞。これは彼女でなければ実現できないことだ。
「聞け! ただし一度かぎりだ。そしてヴァーゲンザイル侯の夜会を指定させてもらう!」
「全然いいッス! オレにも招待状が来てるから!」
ニッコロは急に色めき立った。
クリスが申し訳なさそうな顔で「本当にいいのか?」と言った。
未婚の男女が出会う場として開催される低俗なものならば断るところだが、ヴァーゲンザイル侯が開こうとしているのは嫡男の披露目と人脈づくりを主な目的とした舞踏会だ。
侯は騎士科時代の恩師であり、在学中は(俺が色々やらかしたせいで)大変世話になった。息子を紹介したいと先生から直々に誘いがあったので無視することはできない。
もちろん先生は神薙が来ることまでは期待しておらず、息子を王族に会わせられれば十分だと言っていた。しかし、婚約している俺が一人で行くのは少々心細い。そこでリアを誘ってみたところ「ぜひ二人で踊りに行きましょう」と快諾してくれたのだ。
「いいか、ニッコロ。お前は名もなき子爵次男だ。実家が非協力的で婚約者がいない。丸々と太った最高級オルランディア牛のようなクリスとはわけが違う。痩せっぽちのヤギみたいなものだ」
「は、はい……」
「しかし、お前は断崖絶壁の出世街道を誰よりも速く駆け上がっている」
「そ、そうっスね。ちょっと不安だけど」
「お前はお腹を空かせたピラニアがひしめく水槽の前で、これから美味しくなる有望な男として顔を売るのだ!」
ニッコロはコクコクと頷いた。
☟
今回のヴァーゲンザイル侯の舞踏会は、個人主催の夜会では規模が大きい。恩師の誘いで教え子がドッサリとやって来る。騎士が多く参加する夜会は独身の令嬢に人気だ。
ニッコロにとっては花も多いが邪魔になるライバルも多い。どうやってそいつらを蹴散らすかが問題だ。
こちらにはリアという超強力な武器がある。
今や彼女の髪型やドレス、そして彼女が自らデザインし、オーディンス領の名匠が作っている飾りは王都の服飾界で最先端。
現場には彼女を敬愛しすぎて信者のようになっている若い騎士が山のようにいる。
通常は招待客が主催者の元へ挨拶をしに行くが、我々の場合は主催者のほうがこちらへ出向いて挨拶をすることになる。そこで長話でもすれば、彼女を間近で見たい人々や、言葉を交わしたい男どもが群がってくるはずだ。
現状、しがない子爵次男のニッコロには後ろ盾が何もない。
最初は我々と一緒に入場させ、しばらくリアのそばに置いておくことにしよう。
「神薙と妙に親しいあいつは何だ?」「あの体格からして騎士だろう」「まさか二人目の夫か」などと多少ざわつかせてやるのだ。彼が何者かという情報がコソコソと広がっていくのを見計らって次の行動に出るのがいいだろう。
そうだ! 事前にリアに頼んでおいて、ニッコロといつもの調子で親しげな雑談を交わしてもらおう。そして彼女がニッコロをダンスに送り出す。
ざわついていた男どもは「おお、なんだ。ただの知り合いか」と、夫候補ではないことに安堵し、彼から照準を外す。
しかし令嬢たちはニッコロに目を光らせているはずだ。
どこの誰だか知らないが、神薙と王族の友人なのだからな。これは下手な金持ちよりも有望視されるだろう。
ライバルの騎士どもが我々を取り囲んで挨拶をしている間、そこはニッコロの独壇場になる。
ふむ。
悪くない。
悪くない作戦だ。さすが俺。
「ニッコロ、俺達を囮として使え」
「えっ?」
「いいか、俺とリアが敵を引きつける!」
「て、敵って誰?」
「その間にお前は好みの令嬢を誘いまくり、踊りまくり、口説きまくれ!」
「ええー? なんか分かんないけど頑張りマス」
「これという令嬢がいたら、その場で連絡先を交換しろ。あらかじめ名刺の裏に宿舎の住所を書いておき、それを渡せ」
「先輩もそうしたんスか?」
「俺はその場で書……俺のことはどうでもいいんだよ!」
帰ったらリアにニッコロも同行することを話そう。きっと「ニッコリさんのためなら」とノリノリで協力してくれるはずだ。
「よし、話は決まった! そろそろ時間だし、訓練所へ向かおうか」
俺達は上機嫌で執務室を出た。
「クリス、こいつを当日までに磨き上げるぞ。見た目がすべてとは言わないが、こいつの一番分かりやすい武器は顔と体だ。アレンに服の見立てを頼もうと思う」
クリスはニヤリと笑った。
「いいだろう。付き添えない分、俺は知り合いの店を予約して奢ってやる。全身のマッサージと肌の手入れだ。爪を磨くオプションも付けてやるぜ」
クリスの優しい申し出に、ニッコロは感激して抱きついた。
「団長ぉぉぉ」
「ちょ待て、離れろ! 変な目で見られる!」
「嗚呼、なんて美しい愛だろう……」
「てめぇヴィル! 妙な言い方するんじゃねえ!」
まさかこの計画をぶっ壊されるとは。つゆほども思っていなかった。
☟
ヴァーゲンザイル侯主催の舞踏会は、オポンチン侯爵嫡男によってぶち壊しにされた。
クリスが驚いた顔で「お前、本気か?」と言った。
ニッコロは身を乗り出し、目を輝かせている。
「正確に言おう」と、俺は人差し指を立てた。
「俺とリアが、お前に付き添ってやる」
「ええーーッ!! うそっ! マジっすか!?」
驚くのも無理はない。そこらの貴族が主催する夜会に神薙が参加するなど前代未聞。これは彼女でなければ実現できないことだ。
「聞け! ただし一度かぎりだ。そしてヴァーゲンザイル侯の夜会を指定させてもらう!」
「全然いいッス! オレにも招待状が来てるから!」
ニッコロは急に色めき立った。
クリスが申し訳なさそうな顔で「本当にいいのか?」と言った。
未婚の男女が出会う場として開催される低俗なものならば断るところだが、ヴァーゲンザイル侯が開こうとしているのは嫡男の披露目と人脈づくりを主な目的とした舞踏会だ。
侯は騎士科時代の恩師であり、在学中は(俺が色々やらかしたせいで)大変世話になった。息子を紹介したいと先生から直々に誘いがあったので無視することはできない。
もちろん先生は神薙が来ることまでは期待しておらず、息子を王族に会わせられれば十分だと言っていた。しかし、婚約している俺が一人で行くのは少々心細い。そこでリアを誘ってみたところ「ぜひ二人で踊りに行きましょう」と快諾してくれたのだ。
「いいか、ニッコロ。お前は名もなき子爵次男だ。実家が非協力的で婚約者がいない。丸々と太った最高級オルランディア牛のようなクリスとはわけが違う。痩せっぽちのヤギみたいなものだ」
「は、はい……」
「しかし、お前は断崖絶壁の出世街道を誰よりも速く駆け上がっている」
「そ、そうっスね。ちょっと不安だけど」
「お前はお腹を空かせたピラニアがひしめく水槽の前で、これから美味しくなる有望な男として顔を売るのだ!」
ニッコロはコクコクと頷いた。
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今回のヴァーゲンザイル侯の舞踏会は、個人主催の夜会では規模が大きい。恩師の誘いで教え子がドッサリとやって来る。騎士が多く参加する夜会は独身の令嬢に人気だ。
ニッコロにとっては花も多いが邪魔になるライバルも多い。どうやってそいつらを蹴散らすかが問題だ。
こちらにはリアという超強力な武器がある。
今や彼女の髪型やドレス、そして彼女が自らデザインし、オーディンス領の名匠が作っている飾りは王都の服飾界で最先端。
現場には彼女を敬愛しすぎて信者のようになっている若い騎士が山のようにいる。
通常は招待客が主催者の元へ挨拶をしに行くが、我々の場合は主催者のほうがこちらへ出向いて挨拶をすることになる。そこで長話でもすれば、彼女を間近で見たい人々や、言葉を交わしたい男どもが群がってくるはずだ。
現状、しがない子爵次男のニッコロには後ろ盾が何もない。
最初は我々と一緒に入場させ、しばらくリアのそばに置いておくことにしよう。
「神薙と妙に親しいあいつは何だ?」「あの体格からして騎士だろう」「まさか二人目の夫か」などと多少ざわつかせてやるのだ。彼が何者かという情報がコソコソと広がっていくのを見計らって次の行動に出るのがいいだろう。
そうだ! 事前にリアに頼んでおいて、ニッコロといつもの調子で親しげな雑談を交わしてもらおう。そして彼女がニッコロをダンスに送り出す。
ざわついていた男どもは「おお、なんだ。ただの知り合いか」と、夫候補ではないことに安堵し、彼から照準を外す。
しかし令嬢たちはニッコロに目を光らせているはずだ。
どこの誰だか知らないが、神薙と王族の友人なのだからな。これは下手な金持ちよりも有望視されるだろう。
ライバルの騎士どもが我々を取り囲んで挨拶をしている間、そこはニッコロの独壇場になる。
ふむ。
悪くない。
悪くない作戦だ。さすが俺。
「ニッコロ、俺達を囮として使え」
「えっ?」
「いいか、俺とリアが敵を引きつける!」
「て、敵って誰?」
「その間にお前は好みの令嬢を誘いまくり、踊りまくり、口説きまくれ!」
「ええー? なんか分かんないけど頑張りマス」
「これという令嬢がいたら、その場で連絡先を交換しろ。あらかじめ名刺の裏に宿舎の住所を書いておき、それを渡せ」
「先輩もそうしたんスか?」
「俺はその場で書……俺のことはどうでもいいんだよ!」
帰ったらリアにニッコロも同行することを話そう。きっと「ニッコリさんのためなら」とノリノリで協力してくれるはずだ。
「よし、話は決まった! そろそろ時間だし、訓練所へ向かおうか」
俺達は上機嫌で執務室を出た。
「クリス、こいつを当日までに磨き上げるぞ。見た目がすべてとは言わないが、こいつの一番分かりやすい武器は顔と体だ。アレンに服の見立てを頼もうと思う」
クリスはニヤリと笑った。
「いいだろう。付き添えない分、俺は知り合いの店を予約して奢ってやる。全身のマッサージと肌の手入れだ。爪を磨くオプションも付けてやるぜ」
クリスの優しい申し出に、ニッコロは感激して抱きついた。
「団長ぉぉぉ」
「ちょ待て、離れろ! 変な目で見られる!」
「嗚呼、なんて美しい愛だろう……」
「てめぇヴィル! 妙な言い方するんじゃねえ!」
まさかこの計画をぶっ壊されるとは。つゆほども思っていなかった。
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