昨今の聖女は魔法なんか使わないと言うけれど

睦月はむ

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[リア]

諸々の顛末

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 後日、陛下とお義父様の三人で話す機会があり、そこで諸々の顛末を知らされた。

「エルデン伯領は南北に分けた」と、陛下は神妙な面持ちで言った。

 婚約破棄された件はさておき、そもそもエルデン伯家は、令嬢のやらかしをきっかけに謀反の疑いをかけられていた。貴族としては致命的とも言える「王宮への立ち入り禁止」処分も受けている状態だ。猶予として与えられた三か月の間に、子女の再教育をするよう王命が下っていた。

 エルデン伯家には王都騎士団に所属している二人の息子がおり、陛下が命じたとおり第三騎士団(とコッソリ見に行ったヴィルさん)立ち合いのもと、適性と実力を測る入団試験を再受験させられた。
 結果は新人騎士の成績にも及ばない散々なものだったそうだ。その日のうちに二人は騎士の資格を永久剥奪された。

 総騎士団長ヴィルさんの命令で、なぜ二人が入団できていたのか調査が始まり、賄賂を受け取って不正に合格させていた当時の試験官(現幹部)二名が捕まった。
 当時の手口を洗いざらい吐かされ、資格を剥奪された挙句、受け取った賄賂よりも多くの資産を失うことになったそうだ。
 事態を重く見た陛下は、王都騎士団に所属する騎士と、すべての関係者に再試験を命じた。ヴィルさんとマークさんは、最近その件でてんてこ舞いしている。

 オポンチンさんとエルデン伯令嬢の婚約破棄劇は、そんな最中に起きた出来事だった。

 エルデン伯領が南北に分かれたということは、子女の再教育が、陛下の満足が行くレベルに到達しなかったという意味なのだろう。あの令嬢にとっては辛い出来事が続いている。

「あやつは勝手に娘を養女に出していた」と、陛下は衝撃的な言葉を口にした。
 わたしは「えっ?」と言ったきり絶句してしまった。

「エルデンは、例の婚約破棄を不名誉とし、娘にすべてをなすりつけて放り出した」
「でも陛下、あの件は彼女のほうには何の落ち度もありませんでした」

 わたしの言葉に陛下は頷いた。
 婚約破棄をされた女性がまるでキズモノのように扱われる古い慣習については、陛下も良く思っていなかった。なぜなら、その婚約を認めたのは、ほかでもない陛下自身だからだ。

「しかしな、こう言ってはなんだが、あの令嬢にとっては悪い話ではない」と、陛下は言った。
「養子縁組みをしたのはエルデン伯夫人の兄、つまり娘にとっては母方の伯父だ。慈善活動家として名の知れた人物で、そもそも令嬢の再教育を任せていた」
「そうだったのですね……」
「実父に比べたら相当マトモな父になるだろう」
「なんだか複雑ですねぇ」
「現在の序列は伯家の中では二位。まったく無関係な家に落とされたわけではない。そこが唯一の救いだな」

 娘に責任をなすりつけるような毒父に比べたら、大抵のオジサマは善い人かも知れない。令嬢本人がそれを望んでいるのなら、それは救いになるだろう。

「これを機にエルデン伯家の序列は最下位まで落ちる見込みだ。子爵か男爵まで叩き落とす案もあったのだが、それは今後、嫡男の様子を見て考える」

 令嬢をスケープゴートとした毒親は領地のほとんどを取り上げられ、序列が最下位まで下がる。追い出された令嬢は養女になった先で序列一位に留まる。皮肉な結末だ。

「旧南エルデンの新領主はランドルフ公爵とするが、そこにいる領主殿は大変ご多忙だ。だからその息子に管理を任せる」

 分割された南側の領地は、ヴィルさんの領地になった。

「地名は『ナルヴィル』だ。ヴィルが守るからナルヴィル。なかなか良いだろう?」

 陛下は満足そうに微笑んでいた。
 わたしとしては、ヴィルさんが無理なく管理できる領地ならば有り難い。

「オポンチンの件は伝わっているのか?」と、お義父様が陛下に訊ねた。
「いや、それも話さねばならん」と陛下。

「オポンチン侯家は一代男爵に変更した」
「えっ、男爵? 男爵ですか?」

 またもや目を丸くすることになった。
 男爵は貴族の中では最も身分が低くて人数が多い。
 「平民に毛が生えたようなもの」などと馬鹿にされがちだけれども、実は王国の食糧事情を考えるうえで非常に重要な位置を占めている。
 彼らは土着の大農家や牧場主が多く、地元のリーダー的存在だ。農業や酪農の分野で相互支援をする同業種組合を組織しており、横のつながりが強いので決して馬鹿にはできない。
 ただ、そこにオポンチン侯爵が落ちていくというのはどうなのだろう……。周りの男爵様たちは、あまり仲良くしてくれない気がするし、おそらくご本人のプライドはズタズタだろう(ご愁傷様です)

 当初、あのニワトリ嫡男は、父親と一緒に陛下のもとを訪れて「どうしてもエルデン伯令嬢と婚姻を結びたい」と、しつこく懇願していたそうだ。
 陛下は「熱心すぎて逆に怪しい」と感じ、表向きは渋々認めてやりつつ裏で調査をしていた。
 嫡男が歓楽街の酒場近くでウロついていることを掴み、追ってクレアさんの存在を掴んだ。そうこうしているうちに例の婚約破棄騒ぎが起きたというわけだ。

「一代男爵に落としたのは、貴族会議で可決した案を認めただけに過ぎない」と、陛下は言った。

「皆さんの総意なのですねぇ」
「首謀者の狸オヤジは罰してやらねばならん」
「そうですねぇ……」
「馬鹿息子は満足しているだろう。なにせ真の……いや誠の? 違うな。何だったか?」
「真実の愛?」
「それだ。なにせ真実の愛らしいからな? 息子はもう家を追い出されて、女の家に転がり込んだようだ」
「まあ……」

 展開が早くてついていけない。
 あっちでもこっちでも、娘や息子を厄介払い。
 問題を起こす家は親子の縁が薄いのだろうか。

「クレアさんは大丈夫でしょうか。彼に従者がいないと、貴族令息のお世話係のようになってしまいそうですけれど」
「心配ない。元気にやっているようだ」と、お義父様は言った。

「甲斐甲斐しく世話をしてやっている。例の息子のほうも、彼女の言うことをきちんと聞いているようだ。もともと親の言いなりだったのか、誰かに言われてからノロノロ行動する男のようだな」

 あれをしろ・これをしろとビシビシ指示する強いクレアさんと、言われたとおりに動く情けない彼……なんとなく想像がつく。

「彼女は器が大きいと言うか、細かいことを気にしないと言うか、とても前向きな方なのです」

 わたしが彼女について説明するのを、お義父様はクスクスと笑いながら聞いていた。

「なるほどな。調査員からも『たいそう変わった娘』と報告が来ている。相当大変だろうと思うのだが、幸せそうに笑っているらしい」

 ニッコリさんですら「あの子には敵わない」と舌を巻くほどのウルトラ・ポジティブな人だ。彼女が先頭に立っていれば、彼は安泰かも知れない。じきに庶民の暮らしにも慣れるだろう。

 貴族会議での決定とは言え、貴族令息に一銭も持たせず庶民に落とすほど冷酷ではない。当面の生活に困らない程度のお金は持っていて、それを元手に二人で商売を始めようとしているそうだ。

「腐っても天人族だ。平民に比べれば高度な教育を受けているし、少ないとは言え魔力もある。商売に役立てようと思えばどうとでもなる。それで身を立てれば、しっかり生きていけるだろう。近々結婚するようだ」
「それなら良かったです」

 わたしに取り入るために不祥事を起こした人々は罰を受けた。
 巻き込まれた女性二人のうち、クレアさんだけはヴィルさんの機転で助けることができた。結婚式が済んだ頃、彼女にお祝いを贈ろう。何か生活の役に立ちそうなものを。

 ふと赤いドレスが脳裏をかすめた。
 責任をなすりつけられて養女に出されたあの令嬢はどうしているのだろう……。
 気になるけれど、今の時点でわたしにしてあげられることは何もなかった。


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