【完結】下級悪魔は魔王様の役に立ちたかった

ゆう

文字の大きさ
10 / 28
ウェス編

10

しおりを挟む
何を言われたのか分からなかった。

ソロン様が勇者一行を倒した…?ディニス様にそう報告する…?

そんなの嫌だ…倒したのは俺なのに…
褒められるのは俺のはずなのに…!!

でも、体が動かない。気付けば足の方からサラサラとした砂が出ている。

俺は消滅しかかっていた。

それでもいいと思って勇者たちに挑んだのに、その手柄を、ディニス様に最後に褒められる機会を奪われることは耐えられなかった。

(魔王城に行かないと…)

そう思うのに、羽は折れて飛べず、足は立ち上がれば消えてしまいそうだ。

「そんな…頑張ったのに…どうして…」

ボロボロと涙が溢れた。もうディニス様に会えない、あの爵位を剥奪された時が最後の逢瀬だと思うと死にきれない。

だが、力が入らなくてついに地面に横たわる。

俺は何のためにここまでやってきたんだろう。そう思うと虚しさが込み上げた。

禁忌魔法を使ったので、魂はボロボロでもう生まれ変わることもない。もっとも、それはそれで良かったかもしれないが…
こんな辛くて悲しい思いばかりならもう一度生まれてきたいとは思わなかった。

ただ一つ、ディニス様に愛された日々を除いては…
あの幸せだった記憶だけ抱いて眠ろう。

そう思って瞼を閉じようとした時、目の前に誰かの足が止まった。


「お前は本当に馬鹿だな」

そう言った声は俺を肩に担ぐと転移魔法を使った。


ーーー

自分から溢れるサラサラとした砂を見ていると、転移させられた先でそっと降ろされた。

その時、俺を担いでいた人物がレヴォン様だとわかる。

どうして彼が俺を…?そう思ったが、その疑問は目の前の光景に打ち消された。

「ウェス…?なぜお前が…その姿は一体…」

そこは再び貴族が集う会議室だった。

ソロン様がディニス様の前で跪いている。

「レヴォン!そんなやつをここに連れてくるなど何を考えているんだ!さっさと摘み出せ!」

慌てたようなソロン様の声が響いているが、それよりも俺は最後にディニス様に会えたことに心打たれていた。


「ぁ…ぁ…ディニス、さま…」

掠れる声で必死に呼びかける。最後にどうか微笑みかけてほしい。

だが、その反応は期待したものではなかった。

「お前はなんて馬鹿なことを」

ディニス様の顔はもうぼやけて見えないけれど、冷たくて悲しそうな声に頭を殴られたような気がした。

また馬鹿だと言われてしまった。結局俺はディニス様の意にそぐわないことをしてしまったのだろうか…

"よくやった。お前は私の誇りだ"

そんな言葉を貰えることを夢に見ていたのに…本当に、馬鹿みたいだ。

彼の前に戻って来れて喜びに溢れていた気持ちは早くも萎んでしまった。


だがディニス様は失望したようによろよろとこちらに歩いてくる。

そして俺に触ろうとして、躊躇い、やめた。

それが悲しくて、折れて崩れかかった羽を必死に伸ばす。消え掛かっている今でさえ、ディニス様は俺に触れてくれない。

そのことに心が折れ、俺は重力のままに羽を下ろした。

地面に打ち付けられた羽が砂のように崩れる。

「ウェス!!」

慌てたようなディニス様の声が聞こえる。その顔は怒っているような悲しんでいるような不思議な表情だった。

「ぁ…ごめん、なさい。俺は…また、あなたを失望させて…」

そんな顔をさせるつもりじゃなかったのに…俺はただディニス様に喜んで欲しかっただけなのに…

「もう喋るな」 

そう言ったディニス様の声は怒りを抑えつけているようだった。

「あなたの、役に、立ちたかった…もう一度、愛され、たくて…ごめんなさい…」

ディニス様が何か言っている気がしたが、もう目も見えず耳も聞こえない。
最後の言葉もちゃんと言えたのか分からない。

結局、ディニス様に笑いかけてもらうことはできなったけれど、最後にお会いできて良かった。

そう思いながらーーー俺は砂になって消えた。


しおりを挟む
感想 28

あなたにおすすめの小説

悪役令嬢と呼ばれた侯爵家三男は、隣国皇子に愛される

木月月
BL
貴族学園に通う主人公、シリル。ある日、ローズピンクな髪が特徴的な令嬢にいきなりぶつかられ「悪役令嬢」と指を指されたが、シリルはれっきとした男。令嬢ではないため無視していたら、学園のエントランスの踊り場の階段から突き落とされる。骨折や打撲を覚悟してたシリルを抱き抱え助けたのは、隣国からの留学生で同じクラスに居る第2皇子殿下、ルシアン。シリルの家の侯爵家にホームステイしている友人でもある。シリルを突き落とした令嬢は「その人、悪役令嬢です!離れて殿下!」と叫び、ルシアンはシリルを「護るべきものだから、守った」といい始めーー ※この話は小説家になろうにも掲載しています。

婚約破棄されてヤケになって戦に乱入したら、英雄にされた上に美人で可愛い嫁ができました。

零壱
BL
自己肯定感ゼロ×圧倒的王太子───美形スパダリ同士の成長と恋のファンタジーBL。 鎖国国家クルシュの第三王子アースィムは、結婚式目前にして長年の婚約を一方的に破棄される。 ヤケになり、賑やかな幼馴染み達を引き連れ無関係の戦場に乗り込んだ結果───何故か英雄に祭り上げられ、なぜか嫁(男)まで手に入れてしまう。 「自分なんかがこんなどちゃくそ美人(男)を……」と悩むアースィム(攻)と、 「この私に不満があるのか」と詰め寄る王太子セオドア(受)。 互いを想い合う二人が紡ぐ、恋と成長の物語。 他にも幼馴染み達の一抹の寂寥を切り取った短篇や、 両想いなのに攻めの鈍感さで拗れる二人の恋を含む全四篇。 フッと笑えて、ギュッと胸が詰まる。 丁寧に読みたい、大人のためのファンタジーBL。 他サイトでも公開しております。

貴族軍人と聖夜の再会~ただ君の幸せだけを~

倉くらの
BL
「こんな姿であの人に会えるわけがない…」 大陸を2つに分けた戦争は終結した。 終戦間際に重症を負った軍人のルーカスは心から慕う上官のスノービル少佐と離れ離れになり、帝都の片隅で路上生活を送ることになる。 一方、少佐は屋敷の者の策略によってルーカスが死んだと知らされて…。 互いを思う2人が戦勝パレードが開催された聖夜祭の日に再会を果たす。 純愛のお話です。 主人公は顔の右半分に火傷を負っていて、右手が無いという状態です。 全3話完結。

君さえ笑ってくれれば最高

大根
BL
ダリオ・ジュレの悩みは1つ。「氷の貴公子」の異名を持つ婚約者、ロベルト・トンプソンがただ1度も笑顔を見せてくれないことだ。感情が顔に出やすいダリオとは対照的な彼の態度に不安を覚えたダリオは、どうにかロベルトの笑顔を引き出そうと毎週様々な作戦を仕掛けるが。 (クーデレ?溺愛美形攻め × 顔に出やすい素直平凡受け) 異世界BLです。

2度目の異世界移転。あの時の少年がいい歳になっていて殺気立って睨んでくるんだけど。

ありま氷炎
BL
高校一年の時、道路陥没の事故に巻き込まれ、三日間記憶がない。 異世界転移した記憶はあるんだけど、夢だと思っていた。 二年後、どうやら異世界転移してしまったらしい。 しかもこれは二度目で、あれは夢ではなかったようだった。 再会した少年はすっかりいい歳になっていて、殺気立って睨んでくるんだけど。

本当に悪役なんですか?

メカラウロ子
BL
気づいたら乙女ゲームのモブに転生していた主人公は悪役の取り巻きとしてモブらしからぬ行動を取ってしまう。 状況が掴めないまま戸惑う主人公に、悪役令息のアルフレッドが意外な行動を取ってきて… ムーンライトノベルズ にも掲載中です。

【新版】転生悪役モブは溺愛されんでいいので死にたくない!

煮卵
BL
ゲーム会社に勤めていた俺はゲームの世界の『婚約破棄』イベントの混乱で殺されてしまうモブに転生した。 処刑の原因となる婚約破棄を避けるべく王子に友人として接近。 なんか数ヶ月おきに繰り返される「恋人や出会いのためのお祭り」をできる限り第二皇子と過ごし、 婚約破棄の原因となる主人公と出会うきっかけを徹底的に排除する。 最近では監視をつけるまでもなくいつも一緒にいたいと言い出すようになった・・・ やんごとなき血筋のハンサムな王子様を淑女たちから遠ざけ男の俺とばかり過ごすように 仕向けるのはちょっと申し訳ない気もしたが、俺の運命のためだ。仕方あるまい。 クレバーな立ち振る舞いにより、俺の死亡フラグは完全に回避された・・・ と思ったら、婚約の儀の当日、「私には思い人がいるのです」 と言いやがる!一体誰だ!? その日の夜、俺はゲームの告白イベントがある薔薇園に呼び出されて・・・ ーーーーーーーー この作品は以前投稿した「転生悪役モブは溺愛されんで良いので死にたくない!」に 加筆修正を加えたものです。 リュシアンの転生前の設定や主人公二人の出会いのシーンを追加し、 あまり描けていなかったキャラクターのシーンを追加しています。 展開が少し変わっていますので新しい小説として投稿しています。 続編出ました 転生悪役令嬢は溺愛されんでいいので推しカプを見守りたい! https://www.alphapolis.co.jp/novel/687110240/826989668 ーーーー 校正・文体の調整に生成AIを利用しています。

完結·氷の宰相の寝かしつけ係に任命されました

BL
幼い頃から心に穴が空いたような虚無感があった亮。 その穴を埋めた子を探しながら、寂しさから逃げるようにボイス配信をする日々。 そんなある日、亮は突然異世界に召喚された。 その目的は―――――― 異世界召喚された青年が美貌の宰相の寝かしつけをする話 ※小説家になろうにも掲載中

処理中です...