不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

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犬ぞりレース part2

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 騎士団長の号令の下、鐘が鳴らされ、犬ぞりが一斉にスタートした。
 のじゃが、妾のそりは微塵も動かず。

「は? ど、どうしたのじゃ?」

 犬たちはてんでばらばらに、うろちょろしておる。
 その間に隣のフェニックスのそりは、バビューンと弾丸の如く行ってしまい、他のそりも同様に次々と走り去ってしまった。
 残されたのは二台のそり。

「ひめ様、走り出しの声かけをお願いします!」

 ミンミンが叫んでおる。
 妾は思い出して、すぐさま犬たちに命じた。

「ゴー! ゴーじゃ!」

 犬たちがとりあえず走り出す。
 なんか妾の犬、やる気なさすぎじゃなかろうか?
 そりが動き出したので、左右についた取っ手をぎゅっと握る。
 すると、後ろから一番目の姉フレアの声が聞こえた。

「あら、大変!」

 のんびり走るそりの上で振り返った妾は、まったく大変そうではないフレアがそりから降りているのを見た。

「わたくしの犬、具合が悪いみたい」

 スタート地点から、そりは動いておらず、確かに犬たちは座り込んだままだ。

「仕方がないわね。わたくしは棄権します」

 本当に残念だわ、と言っておるが、顔はにこやかじゃ。
 妾はフレアの明らかな嘘を見抜き、何か言ってやりたかったが、そりはどんどん遠ざかる。
 庭園の外周をぐるりと走るコースは全長三キロ。
 そりはゆっくりじゃが、すでにカーブを曲がって後ろのスタート地点は見えなくなった。
 要所ごとに王宮騎士団の騎士が立っておる。

「バーミリオン様、がんばってください!」
「大丈夫です! まだまだ追いつけますよ!」

 みんな声かけをしてくれる。
 妾、みなに好かれておるからな。
 しかし、次のカーブに差しかかると、そこには止まったそりと数人の人だかりがあった。
 すれ違いざまに見ると、二番目の姉コーラルと騎士たちじゃ。

「あ~ん、もうイヤになっちゃった」

 コーラルの髪は前髪がそそり立って、一昔前に城下町で流行ったチンピラのトサカのようになっておった。
 今にも「やいやいやい」と言い出しそうな髪型じゃ。

「ぶふっ」

 思わず吹き出すと、コーラルが拳を振り上げた。

「ちょっと、バーミリオン! 今笑ったわね。戻って来なさい!」
「ぶふふふふ、笑ってなどおらぬ。ぶふっふふっ」

 豪快な髪型に笑いが止まらぬまま、妾のそりは走り続ける。
 コーラルたちが遠ざかると、庭園の横にある湖が見えてきた。
 湖は表面が凍りついている。
 普段はスケート場として開放されていて、王宮の誰かがスケートをしておるのじゃが、今日はさすがに誰もおらず、太陽に表面が白く照り輝いていた。
 その脇の道を犬たちが軽快にそりを引いて走っていく。
 犬たちも慣れてきたのか、最初よりはまっすぐに列を乱さず走っているので、妾も体勢を維持しやすい。

「良いぞ、さすが妾のワンワン隊! 行け! 行くのじゃー!」

 興に乗って声かけをしていると、前方に何やら見えてきた。
 道に点々と転がる茶色い物。
 犬たちが急に速度を落として駆け寄って行く。

「ワンワン隊、どうしたのじゃ!?」

 みんな茶色い粒状の物を鼻でクンクンすると、もぐもぐ食べ始めた。

「や、やめんか! そのような得体の知れぬ物を食うてはならぬ」

 だが、犬たちは必死に拾い食いしておる。
 妾のそりはすっかり止まってしまった。

「なんと食い意地の汚いやつらじゃ。ま、まさか!」

 厩舎で餌を貰えていないのか?
 もしそうなら馬番を叱り飛ばしてやらねば。
 すっかり犬たちが食べてしまい、またそりが動き始めた。
 そして次のカーブを曲がったところで、なぜか憤慨しているフェニックスが立っていた。

「バーミリオン!」
「フェニックスではないか。どうしたのじゃ?」

 フェニックスはそりの前の犬たちを指差した。

「見ろ! アカネとサクラが卑怯な手を!」

 フェニックスの犬たちは、なぜかその場でぐーぐーと寝ており、中には鼻ちょうちんを作っているものまでいた。

「あいつら睡眠薬入りの餌を撒き散らしたんだ!」
「む? 睡眠薬?」

 聞き捨てならぬ言葉じゃ。

「それはさっき道に落ちてた茶色のつぶつぶの?」
「そうだよ!」
「な、なんじゃと~~! 妾の犬も食べてしもうた」
「バーミリオンの犬も? いや、でもおれの犬がほとんど食べたからおまえの犬は少量だろう」
「そ、そうかの?」

 今のところ妾のワンワン隊はケロリとした顔をしておる。
 しかし、確かに卑怯な手じゃ。
 アカネとサクラがスタート前にニヤニヤしていたのを思い出す。

「あいつら後で覚えてろよ」

 フェニックスが恐い顔で両手を握りしめている。
 フェニックスとアカネは一才違いの兄弟なので、いつもは仲が良い。
 同じ国立魔導学園に通っておるしな。
 じゃが、勝負事となると本気のようじゃ。

「わ、妾、そろそろ行こうかな」

 話すために止めていたそりを動かそうとするとフェニックスは、ビロードのソファに座ってしかめ面で手を振った。

「ああ、さっさと行け。まだ間に合うかもしれないぞ。兄上たちは前の方で激しくやり合っていたからな」

 なんだか嫌な予感がするんじゃが。
 妾はとりあえずその場からそりで走り出す。
 犬たちは変なものを食べたが元気そうじゃ。
 しかし、早々に三人もリタイアとは、この先残っている面子めんつを考えると頭が痛くなる。
 それでも犬たちは雪道をタッタカ駆けて行く。
 前に通ったそりの跡があるので、それに沿って進むと、ちょっと登り調子になった道の先が急なカーブになっていた。
 犬たちはそりの跡をなぞるように勝手に曲がってくれる。
 妾は鼻歌でも歌っていればいいだけじゃ。
 と、思ったらーーー。
 犬たちが急ブレーキをかけるように止まった。
 そりは急には止まれない。

「んなッ!?」

 勢いのついたそりは、カーブを大きく膨らんで道の端、崖の方へ横っ飛びしていく。
 悲鳴を上げそうになった妾は、そのときなぜか前からカーブを曲がってこちらに突っ込んでくる犬とそりを見た。

「は!?」
「あっぶな~~い(ハート)!」

 やけに野太い気持ち悪い声が聞こえた・・・・・・気がした。

 ドッ、バーン!!

 と、妾のそりは横倒しになる。
 崖の方へ体が振られて、妾はそりの取っ手を強く握りしめた。
 崖とはいっても高さは二、三メートルじゃ。
 落ちても雪があるし大丈夫とは思うが、とにかくこの時は必死じゃった。
 そりの横にコロンと落ちた妾は、少し硬めの雪に埋もれたがなんとか抜け出す。

「一体なんじゃあ!!」

 妾の怒声に答えたのは、三番目の兄じゃった。

「ごめんよ、バーミリオン。うっかりして」

 偶然にもそりが横に膨らんだからよかったものの、まっすぐ進んでいたら正面衝突していたはずじゃ。

「おぬし、妾を殺すつもりか!?」
「まさかそんな。ちょっとコースを間違えただけさ」
「逆走してたじゃろ! 間違いじゃないじゃろ!」
「そんな般若はんにゃみたいな顔しないでくれよぉ」

 絶対にわざとじゃ!
 三番目の兄は隙あらば妾と心中しようとしているからの。
 もはや、殺るか殺られるか。
 先に殺るしかない!
 殺意のこもった真紅の目でドーンを睨む。
 思わず竜化しそうになると、さすがのドーンも後ずさった。

「バ、バーミリオン、そんなに怒らないでよ」

 絶対の絶対にこやつは角待ち待機しておったはずじゃ。
 じゃが、それを証明する手立てはない。
 ドーンのそりに繋がれた犬たちはガタイもよく、妾の犬たちとぶつかったら、こっちが吹き飛びそうじゃ。
 妾は怒り心頭のまま、とにかくそりを立て直す。
 冷静にならねばな。
 ここでドーンを●した場合、妾の皇帝への道に多少かげりができてしまう。
 兄弟殺しはいつの世も民衆によく思われぬ。

「ドーン兄じゃ。妾はまだ死ぬわけにはいかぬ! 何度暗殺を企てようと無駄無駄無駄の無駄じゃ~~~!!」

 ささっとそりに乗ると、妾は犬たちに合図を出して走り出させた。
 ひとまずここは逃げの一手じゃ。
 他に騎士も侍女もいない。
 二人きりほどマズい状況はないからの。

「あっ、バーミリオン! 暗殺じゃないよ! これは君に安らかな眠りをーーー」

 ドーンを後方に置き去りにして、妾は坂道を上り、カーブを曲がって走っていく。

「さらばじゃ!」

 ハハハハハハハハ!
 怒りの高笑いを響かせ、妾は颯爽とドーンを抜き去ったのだった。
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