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雪国でハリネズミになる part3
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謁見の間を出て廊下を過ぎると、妾たちはジョーの家へ馬車で移動した。
王城からさほど離れていない貴族街の奥にジョーの父親、ウエストウッド伯爵の館があった。
高台になっている広大な敷地の中央に真っ白な四階建ての屋敷が建っている。
妾は母上の白薔薇の宮殿を思い出した。
玄関前に停められた馬車から降りると、たくさんの出迎えが待っていた。
体にピッタリと仕立て合わせた黒いスーツの男性の横に、妾の母上に似た女性が並んでいる。
「バーミリオン、シェン君、わたしの父と母よ。それから末の弟。上に兄が一人いるけど、すでに結婚して家を出ているの」
ジョーに紹介されて、妾たちは順に挨拶した。
しかし、どう見ても歓迎されているようには見えない。
特に母親の方は不機嫌そうな表情を隠そうともしていない。
隣に寄って来たジョーが、こっそり耳打ちしてきた。
「バーミリオン、気にしないでね。あの人たちも以前のわたしと同じであなたのことを誤解しているだけなの」
そうは言われても、すごく気になる。
父親はそうでもないが、母親の灰色の目からは冷気を感じる。
ジョーの両親は所要があるとかで、さっさとその場を去り、まだ六歳だという弟も乳母に連れて行かれてしまった。
仲良くなるには時間がかかりそうじゃな。
残った妾たちを部屋に案内したのは壮年の執事だった。
とりあえず荷物を片付けてから妾の部屋に集まることにした。
そして数十分後ーーー。
部屋にやって来たジョーは館の侍女がお茶の準備を終えて出て行くと、弾丸のように喋り出した。
「ねえ、バーミリオン。さっきの王城で伯父様と対面していたあなた、まるでいつもとは別人だったわよ? あんな話し方してるの初めて見たわ。二重人格かと思っちゃった」
妾は困惑しつつ答えた。
「大人と話す時はあんなものじゃ。面倒じゃが、謁見にはいろいろと決まりがあるからのぅ」
ジョーに続いて部屋に来たシェン君にも同意を求めて話しかける。
「妾だけじゃないぞ。シェン君もああいう場には慣れておるじゃろ」
席につくなり、テーブルのクッキーを手に取ったシェン君がボリボリ食べながら頷いた。
「ああ、おれも一通り教育されてるけど、あそこまで堂々と振る舞えるかわからないな」
ジョーがまだ不思議そうに妾を見た。
「でもバーミリオン、余計に伯父様の不評を買ったかもしれないわよ」
「別に構わんじゃろ。誰とでも仲良くすればいいというものでもない。それに前評判通りの人物に見えたからの」
「前評判?」
妾はジョーにわかるように説明した。
「ヘデス王の人物評価は質実剛健、利益に聡いが無茶はせず、部下には慕われ、民にも人気がある。妾のような小娘が不遜な態度を取ったところで歯牙にもかけないじゃろう。それに妾の立場的に媚びへつらうような態度は逆に嫌味ったらしく映るはずじゃ」
「まあ、そうかもな」
シェン君が次のクッキーをボリボリ食べながら言う。
「身分の順位とか気にするやつは結構いるからな。公式の場なら余計に。ただの親戚と家で話すだけならいいけど、あそこは王城。あれは王様。しかも周りに大勢の目があったからな」
妾はテーブルの上に両腕を投げ出すように突っ伏した。
「あ~~~もう、こういうのが面倒なのじゃ~」
宮に引きこもっていれば逃れられていた人間関係がのしかかってくる。
「これからわたしの両親とも夕食会だけど、バーミリオン大丈夫なの?」
ジョーの指摘に妾はさらに憂鬱になった。
「・・・・・・針の筵なのじゃ」
「おれも話すのは苦手だけど、助け船を出すからがんばれ」
「シェン君の助け船か、期待薄・・・・・・」
「おいっ!」
とはいえ、内心有り難いことだと感謝していた。
妾だけがジョーの両親の前に出されたら、あの冷たい灰色の目に氷漬けにされてしまうかもしれぬ。
すでにヘデス王との対面で、大きな棘がグッサリと刺さっているからの。
さてはて、夕食会かぁ。
妾はまったく空いていないお腹より、ささやかな胸に手を当ててため息をついた。
王城からさほど離れていない貴族街の奥にジョーの父親、ウエストウッド伯爵の館があった。
高台になっている広大な敷地の中央に真っ白な四階建ての屋敷が建っている。
妾は母上の白薔薇の宮殿を思い出した。
玄関前に停められた馬車から降りると、たくさんの出迎えが待っていた。
体にピッタリと仕立て合わせた黒いスーツの男性の横に、妾の母上に似た女性が並んでいる。
「バーミリオン、シェン君、わたしの父と母よ。それから末の弟。上に兄が一人いるけど、すでに結婚して家を出ているの」
ジョーに紹介されて、妾たちは順に挨拶した。
しかし、どう見ても歓迎されているようには見えない。
特に母親の方は不機嫌そうな表情を隠そうともしていない。
隣に寄って来たジョーが、こっそり耳打ちしてきた。
「バーミリオン、気にしないでね。あの人たちも以前のわたしと同じであなたのことを誤解しているだけなの」
そうは言われても、すごく気になる。
父親はそうでもないが、母親の灰色の目からは冷気を感じる。
ジョーの両親は所要があるとかで、さっさとその場を去り、まだ六歳だという弟も乳母に連れて行かれてしまった。
仲良くなるには時間がかかりそうじゃな。
残った妾たちを部屋に案内したのは壮年の執事だった。
とりあえず荷物を片付けてから妾の部屋に集まることにした。
そして数十分後ーーー。
部屋にやって来たジョーは館の侍女がお茶の準備を終えて出て行くと、弾丸のように喋り出した。
「ねえ、バーミリオン。さっきの王城で伯父様と対面していたあなた、まるでいつもとは別人だったわよ? あんな話し方してるの初めて見たわ。二重人格かと思っちゃった」
妾は困惑しつつ答えた。
「大人と話す時はあんなものじゃ。面倒じゃが、謁見にはいろいろと決まりがあるからのぅ」
ジョーに続いて部屋に来たシェン君にも同意を求めて話しかける。
「妾だけじゃないぞ。シェン君もああいう場には慣れておるじゃろ」
席につくなり、テーブルのクッキーを手に取ったシェン君がボリボリ食べながら頷いた。
「ああ、おれも一通り教育されてるけど、あそこまで堂々と振る舞えるかわからないな」
ジョーがまだ不思議そうに妾を見た。
「でもバーミリオン、余計に伯父様の不評を買ったかもしれないわよ」
「別に構わんじゃろ。誰とでも仲良くすればいいというものでもない。それに前評判通りの人物に見えたからの」
「前評判?」
妾はジョーにわかるように説明した。
「ヘデス王の人物評価は質実剛健、利益に聡いが無茶はせず、部下には慕われ、民にも人気がある。妾のような小娘が不遜な態度を取ったところで歯牙にもかけないじゃろう。それに妾の立場的に媚びへつらうような態度は逆に嫌味ったらしく映るはずじゃ」
「まあ、そうかもな」
シェン君が次のクッキーをボリボリ食べながら言う。
「身分の順位とか気にするやつは結構いるからな。公式の場なら余計に。ただの親戚と家で話すだけならいいけど、あそこは王城。あれは王様。しかも周りに大勢の目があったからな」
妾はテーブルの上に両腕を投げ出すように突っ伏した。
「あ~~~もう、こういうのが面倒なのじゃ~」
宮に引きこもっていれば逃れられていた人間関係がのしかかってくる。
「これからわたしの両親とも夕食会だけど、バーミリオン大丈夫なの?」
ジョーの指摘に妾はさらに憂鬱になった。
「・・・・・・針の筵なのじゃ」
「おれも話すのは苦手だけど、助け船を出すからがんばれ」
「シェン君の助け船か、期待薄・・・・・・」
「おいっ!」
とはいえ、内心有り難いことだと感謝していた。
妾だけがジョーの両親の前に出されたら、あの冷たい灰色の目に氷漬けにされてしまうかもしれぬ。
すでにヘデス王との対面で、大きな棘がグッサリと刺さっているからの。
さてはて、夕食会かぁ。
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