不吉な九番目の子だろうと、妾が次代のドラゴニア皇帝に決まっておろう!

スズキヒサシ

文字の大きさ
52 / 70

雪国でハリネズミになる part3

しおりを挟む
 謁見の間を出て廊下を過ぎると、妾たちはジョーの家へ馬車で移動した。
 王城からさほど離れていない貴族街の奥にジョーの父親、ウエストウッド伯爵のやかたがあった。
 高台になっている広大な敷地の中央に真っ白な四階建ての屋敷が建っている。
 妾は母上の白薔薇の宮殿ホワイトローズパレスを思い出した。
 玄関前に停められた馬車から降りると、たくさんの出迎えが待っていた。
 体にピッタリと仕立て合わせた黒いスーツの男性の横に、妾の母上に似た女性が並んでいる。

「バーミリオン、シェン君、わたしの父と母よ。それから末の弟。上に兄が一人いるけど、すでに結婚して家を出ているの」

 ジョーに紹介されて、妾たちは順に挨拶した。
 しかし、どう見ても歓迎されているようには見えない。
 特に母親の方は不機嫌そうな表情を隠そうともしていない。
 隣に寄って来たジョーが、こっそり耳打ちしてきた。

「バーミリオン、気にしないでね。あの人たちも以前のわたしと同じであなたのことを誤解しているだけなの」

 そうは言われても、すごく気になる。
 父親はそうでもないが、母親の灰色の目からは冷気を感じる。
 ジョーの両親は所要があるとかで、さっさとその場を去り、まだ六歳だという弟も乳母に連れて行かれてしまった。
 仲良くなるには時間がかかりそうじゃな。
 残った妾たちを部屋に案内したのは壮年の執事だった。
 とりあえず荷物を片付けてから妾の部屋に集まることにした。


 そして数十分後ーーー。
 部屋にやって来たジョーは館の侍女がお茶の準備を終えて出て行くと、弾丸のように喋り出した。

「ねえ、バーミリオン。さっきの王城で伯父様と対面していたあなた、まるでいつもとは別人だったわよ? あんな話し方してるの初めて見たわ。二重人格かと思っちゃった」

 妾は困惑しつつ答えた。

「大人と話す時はあんなものじゃ。面倒じゃが、謁見にはいろいろと決まりがあるからのぅ」

 ジョーに続いて部屋に来たシェン君にも同意を求めて話しかける。

「妾だけじゃないぞ。シェン君もああいう場には慣れておるじゃろ」

 席につくなり、テーブルのクッキーを手に取ったシェン君がボリボリ食べながら頷いた。

「ああ、おれも一通り教育されてるけど、あそこまで堂々と振る舞えるかわからないな」

 ジョーがまだ不思議そうに妾を見た。

「でもバーミリオン、余計に伯父様の不評を買ったかもしれないわよ」
「別に構わんじゃろ。誰とでも仲良くすればいいというものでもない。それに前評判通りの人物に見えたからの」
「前評判?」

 妾はジョーにわかるように説明した。

「ヘデス王の人物評価は質実剛健、利益に聡いが無茶はせず、部下には慕われ、民にも人気がある。妾のような小娘が不遜な態度を取ったところで歯牙にもかけないじゃろう。それに妾の立場的に媚びへつらうような態度は逆に嫌味ったらしく映るはずじゃ」
「まあ、そうかもな」

 シェン君が次のクッキーをボリボリ食べながら言う。

「身分の順位とか気にするやつは結構いるからな。公式の場なら余計に。ただの親戚と家で話すだけならいいけど、あそこは王城。あれは王様。しかも周りに大勢の目があったからな」

 妾はテーブルの上に両腕を投げ出すように突っ伏した。

「あ~~~もう、こういうのが面倒なのじゃ~」

 宮に引きこもっていれば逃れられていた人間関係がのしかかってくる。

「これからわたしの両親とも夕食会だけど、バーミリオン大丈夫なの?」

 ジョーの指摘に妾はさらに憂鬱になった。

「・・・・・・針のむしろなのじゃ」
「おれも話すのは苦手だけど、助け船を出すからがんばれ」
「シェン君の助け船か、期待薄・・・・・・」
「おいっ!」

 とはいえ、内心有り難いことだと感謝していた。
 妾だけがジョーの両親の前に出されたら、あの冷たい灰色の目に氷漬けにされてしまうかもしれぬ。
 すでにヘデス王との対面で、大きなとげがグッサリと刺さっているからの。
 さてはて、夕食会かぁ。
 妾はまったく空いていないお腹より、ささやかな胸に手を当ててため息をついた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

星降る夜に落ちた子

千東風子
児童書・童話
 あたしは、いらなかった?  ねえ、お父さん、お母さん。  ずっと心で泣いている女の子がいました。  名前は世羅。  いつもいつも弟ばかり。  何か買うのも出かけるのも、弟の言うことを聞いて。  ハイキングなんて、来たくなかった!  世羅が怒りながら歩いていると、急に体が浮きました。足を滑らせたのです。その先は、とても急な坂。  世羅は滑るように落ち、気を失いました。  そして、目が覚めたらそこは。  住んでいた所とはまるで違う、見知らぬ世界だったのです。  気が強いけれど寂しがり屋の女の子と、ワケ有りでいつも諦めることに慣れてしまった綺麗な男の子。  二人がお互いの心に寄り添い、成長するお話です。  全年齢ですが、けがをしたり、命を狙われたりする描写と「死」の表現があります。  苦手な方は回れ右をお願いいたします。  よろしくお願いいたします。  私が子どもの頃から温めてきたお話のひとつで、小説家になろうの冬の童話際2022に参加した作品です。  石河 翠さまが開催されている個人アワード『石河翠プレゼンツ勝手に冬童話大賞2022』で大賞をいただきまして、イラストはその副賞に相内 充希さまよりいただいたファンアートです。ありがとうございます(^-^)!  こちらは他サイトにも掲載しています。

生贄姫の末路 【完結】

松林ナオ
児童書・童話
水の豊かな国の王様と魔物は、はるか昔にある契約を交わしました。 それは、姫を生贄に捧げる代わりに国へ繁栄をもたらすというものです。 水の豊かな国には双子のお姫様がいます。 ひとりは金色の髪をもつ、活発で愛らしい金のお姫様。 もうひとりは銀色の髪をもつ、表情が乏しく物静かな銀のお姫様。 王様が生贄に選んだのは、銀のお姫様でした。

中学生ユーチューバーの心霊スポットMAP

じゅん
児童書・童話
【第1回「きずな児童書大賞」大賞 受賞👑】  悪霊のいる場所では、居合わせた人に「霊障」を可視化させる体質を持つ「霊感少女」のアカリ(中学1年生)。  「ユーチューバーになりたい」幼なじみと、「心霊スポットMAPを作りたい」友達に巻き込まれて、心霊現象を検証することになる。  いくつか心霊スポットを回るうちに、最近増えている心霊現象の原因は、霊を悪霊化させている「ボス」のせいだとわかり――  クスっと笑えながらも、ゾッとする連作短編。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

王女様は美しくわらいました

トネリコ
児童書・童話
   無様であろうと出来る全てはやったと満足を抱き、王女様は美しくわらいました。  それはそれは美しい笑みでした。  「お前程の悪女はおるまいよ」  王子様は最後まで嘲笑う悪女を一刀で断罪しました。  きたいの悪女は処刑されました 解説版

魔法使いアルル

かのん
児童書・童話
 今年で10歳になるアルルは、月夜の晩、自分の誕生日に納屋の中でこっそりとパンを食べながら歌を歌っていた。  これまで自分以外に誰にも祝われる事のなかった日。  だが、偉大な大魔法使いに出会うことでアルルの世界は色を変えていく。  孤独な少女アルルが、魔法使いになって奮闘する物語。  ありがたいことに書籍化が進行中です!ありがとうございます。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
*「第3回きずな児童書大賞」エントリー中です* 最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

極甘独占欲持ち王子様は、優しくて甘すぎて。

猫菜こん
児童書・童話
 私は人より目立たずに、ひっそりと生きていたい。  だから大きな伊達眼鏡で、毎日を静かに過ごしていたのに――……。 「それじゃあこの子は、俺がもらうよ。」  優しく引き寄せられ、“王子様”の腕の中に閉じ込められ。  ……これは一体どういう状況なんですか!?  静かな場所が好きで大人しめな地味子ちゃん  できるだけ目立たないように過ごしたい  湖宮結衣(こみやゆい)  ×  文武両道な学園の王子様  実は、好きな子を誰よりも独り占めしたがり……?  氷堂秦斗(ひょうどうかなと)  最初は【仮】のはずだった。 「結衣さん……って呼んでもいい?  だから、俺のことも名前で呼んでほしいな。」 「さっきので嫉妬したから、ちょっとだけ抱きしめられてて。」 「俺は前から結衣さんのことが好きだったし、  今もどうしようもないくらい好きなんだ。」  ……でもいつの間にか、どうしようもないくらい溺れていた。

処理中です...