窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase

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第27章:嘘のないディナー

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​ 隼人さんが用意してくれたのは、レストランのような豪華なデリバリーではなく、彼自身がキッチンに立って作った、驚くほどシンプルなオムライスだった。
​「……本当はもっと凝ったものを作りたかったんだが。智之はまだ病み上がりだからな。卵は消化にいいだろう?」
「隼人さんが、料理を作るなんて……」
「意外か? 学生時代、海外にいた頃は自炊もしていたんだ。もっとも、誰かのために作るのは、これが初めてだが」
​ 高級なクリスタルグラスに注がれたのは、シャンパンではなく温かいスープ。
 広いダイニングテーブルの端と端ではなく、彼はわざわざ僕の隣に椅子を引いて座った。
​「……美味しいです。すごく、優しい味がします」
「そうか。……良かった」
​ 食事を終え、夜景を眺めながら、僕たちはどちらからともなくこれまでの話を始めた。
 隼人さんは、手元のグラスを見つめながら、ポツリポツリと独白を漏らす。
​「二十二階にいる俺は、みんなが望む『風巻隼人』を演じているだけなんだ。期待に応え、成果を出し、隙を見せない。……でも、そうやって高い場所へ登れば登るほど、周りには誰もいなくなった」
​ グラスの中の氷が、カランと切ない音を立てる。
​「そんな時、地下一階で君を見つけた。窓のない狭い部屋で、誰に褒められるわけでもない仕事を丁寧にこなしている君を見て……、俺は初めて、ここが自分の帰る場所なんじゃないかと思ったんだ」
​ 完璧に見えた彼の肩が、少しだけ小さく見える。
 僕は思わず、テーブルの下で彼の手を握った。
​「僕は……、ただのメール室の担当です。何も特別なことはできません」
「いいや。君がそこにいて、俺の名前を呼んでくれる。それだけで、俺の演じてきた『嘘』が全部剥がれ落ちて、ただの男に戻れるんだ」
​ 隼人さんは僕の手を強く握り返し、愛おしそうに僕を見つめた。
 高層階の贅沢な静寂の中で、僕たちは初めて、肩書きもスペックも関係ない「本当の自分たち」として向き合っていた。
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