窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase

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第26章:高層階の迷い子

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​ 手の中にある銀色の鍵が、重い。
 隼人さんに促されるまま、僕は初めて彼が住む高層マンションの前に立った。
 
 見上げるようなエントランス、静かに滑るエレベーター。表示される数字が「22」を超えたとき、僕は自分が本当に、あの地下一階から遠く離れた場所へ連れてこられたのだと実感した。
​「……ここだ。入りなさい、智之」
​ 開かれた扉の向こうには、僕と裕香が住むマンションが丸ごと入ってしまうのではないかと思うほど、広大で無機質な空間が広がっていた。
 大きな窓の向こうには、宝石を散りばめたような東京の夜景。
​「あ、あの……靴、ここで脱いでもいいんですか?」
「はは、もちろんだよ。……そんなに緊張しなくていい。これからはここも、君の家なんだから」
​ 隼人さんは僕の肩からバッグを下ろすと、まるで壊れ物を扱うように僕の手を引いてリビングへ導いた。
 
 けれど、僕はその完璧に整えられた部屋の中で、自分がひどく場違いな存在に思えて仕方がなかった。
 高級なソファ、見たこともない家電、そして広すぎるベッド。
​「……風巻さん、やっぱり僕……」
「隼人、だと言っただろう?」
​ 彼は僕の背後からそっと腕を回し、首筋に顔を寄せた。
 高層階の夜風よりも、彼の吐息の方がずっと熱い。
​「この部屋は、広すぎて寒かったんだ。……でも、今日からは違う。君が座った場所に温度が宿り、君が触れた場所に色がつく。……智之、まずは君のパジャマを選ぼうか。俺のシャツを貸してもいいが、君には少し大きすぎるかな」
​ 隼人さんは、戸惑う僕を気にする風もなく、クローゼットから新しいタオルや着替えを次々と取り出してくる。その様子は、まるでお気に入りのぬいぐるみを宝箱に仕舞い込む子供のように、どこか浮き足立って見えた。
​ 完璧なエースの、あまりにも人間味のある独占欲。
 夜景の光を背負った彼の笑顔を見て、僕は「場違いだ」なんて悩みは後回しにすることにした。
​「……はい、隼人さん。……お世話に、なります」
​ 地下一階の迷い子は、今夜、地上三十階の「光」の中で、新しい居場所を見つけた。
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