窓のない部屋の、陽だまりみたいな君

MisakiNonagase

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第28章:三十階の揺りかご

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​ 食事を終え、シャワーを済ませた僕に、隼人さんは「これを使え」と、洗い立ての柔らかなTシャツを貸してくれた。彼にはジャストサイズなのだろうけど、僕が着ると襟ぐりが大きく開き、袖も肘のあたりまで隠れてしまう。
​「……少し、大きすぎましたか」
「いいや。……よく似合っている。俺の匂いに包まれている君を見るのは、悪くない気分だ」
​ 隼人さんは少しいたずらっぽく微笑むと、広すぎるキングサイズのベッドの端を叩いた。
​「さあ、おいで。今日はまだ病み上がりだ。……何もしない。ただ、こうしていたいんだ」
​ おずおずと潜り込んだ布団の中は、隼人さんの体温ですぐに温かくなった。
 彼が背後から僕を包み込むように抱き寄せ、大きな腕が僕の胸元を回る。耳元で、彼の深く安定した鼓動が聞こえた。
​「……隼人さん」
「ん?」
「……狭くないですか?」
「まさか。この広いベッドで、ようやく自分の『重心』が見つかった気分だよ。……智之、ずっとこうしていたかった」
​ 地下一階の硬い椅子ではなく、二十二階の冷たい役員会議室でもない。
 世界から切り離されたような、地上百メートルの静寂の中。
 隼人さんは僕のうなじに顔を埋め、深く、深く息を吸い込んだ。
​「君は、どうしてそんなに日向のような匂いがするんだろうな……。窓のない部屋にいたはずなのに」
「……きっと、毎日、隼人さんが来てくれるのを待っていたからだと思います」
​ 僕が正直にそう言うと、彼の手がぎゅっと力強く僕を抱きしめた。
 
「……愛してる、智之。もう、地下にも、孤独にも戻らせない」
​ その言葉は、どんな甘い愛撫よりも深く僕に浸透した。
 窓の外には東京の夜景が広がっているけれど、今の僕たちには、この布団の中の数センチの距離だけが世界のすべてだった。
 心地よい疲労感と彼の体温に包まれ、僕は吸い込まれるように深い眠りへと落ちていった。
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