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第一章 追い風と白い月
暗闇の二機と二人
しおりを挟む裂け目の中は広いトンネルとなっているが、その四方八方から太い岩の柱が伸び、道を阻む。
だがそれを物ともせずに、シロノは外の映像と、レーダーで示される地形図を頼りに、出口へと向って飛ぶ。
レーダーによると、ここは山脈を一直線に貫いている長いトンネルであり、上手く抜けられれば外を飛ぶよりも遥かに近道が出来る。
しかしそれを阻む岩の柱、幾らレーダーにより分かっていると言え、やはり無規則に乱立する柱の中をかいくぐっての飛行は至難の業だ。
加えてトンネルの中は、今までの場所と較べて、特にレーダー波を吸収しやすい。レーダーの最高出力を持ってしてでも、示される周囲、全体の状況は不鮮明であり、その上、かなりの部分がレーダーで表示不能となっていた。レーダー画面において表示不能とされた部分は、さながら虫食い穴のように、空白で表示されている。
トンネルに入る前にレーダーで確認した時には、その入口と出口は複数存在する事と、山脈の中の大空洞がそれらを繋ぐトンネルの役割を果たしている事が分かっていた。
だが、空洞内の全体構造、どの入口がどの出口へと繋がっているのか、そこまではホワイトムーンの高性能なレーダー機器をもってしても不明であった。
今にして思えば随分な賭けだったと、シロノは少し悔いた。
乗り越え、潜り、左右に避ける……。ホワイトムーンは絶え間ない俊敏な動きで、迫り来る柱を回避する。
――多分、遠回りをしている訳では…………なさそうですけどね――
少し心配しながらも、シロノは機体の操作を行う。
映像、そしてレーダーで確認すると、辺りを飛んでいるのはホワイトムーン一機のみ、テイルウィンドとシュトラーダの姿は見られない。
――やはり山脈を迂回したのでしょうか? それとも…… ――
シロノがこう考えていると、レーダ画面端の空白部分から、機体の反応が出現した。
その正体は、フウマ・オイカゼのテイルウィンドだった。
「成る程、どんな手を使って先を行けたのか疑問だったけど――――そう言う事か。けど仕掛けが分かった以上は、何とでもなるさ!」
フウマは今、映像で確認出来る程にすぐ目の前にまで追いついた、シロノ・ルーナのホワイトムーンに通信を開いている。
〈やはり来ましたか。ちなみに、リッキーさんもこのトンネルに?〉
「さあな。何しろ僕が先に入ったから、後ろにいた奴の様子は知らないさ。けどあんな機体じゃ…………ここを通り抜けるのは無理だね。――少し残念だよ、あのオジサン、やっぱり今回も運が無かったか」
すると突然、ホワイトムーン越しの前方に、左右二手の分かれ道が現われた。
とっさにフウマは、右の道を選び、機体を旋回させる。
だが同じタイミングで、前のホワイトムーンはその逆の、左の道を選ぶのが見えた。
シロノの機体はすぐに、道の中へと消える。レーダでも、その反応は確認出来なくなっていた。
暗く狭く、岩の障害物が多いトンネルの中を、フウマとテイルウィンドは行く。
障害物の回避を最小限に抑えて、速度を落とさないようにする。
しかし、完全にとは行かなかった。機体の底部に尖った岩が衝突し、下から突き押される揺れが襲い、制御が崩れる。
「くっ!」
途端に今度は柱が迫り、制御を整え回避しようとした。
が、急いだせいで制御を戻しきれずに、回避する瞬間にかえって悪化した。
「……しまった!」
不安定となったテイルウィンドはきりもみ状態となり、コックピットも激しく回転する。
最早、外の映像やレーダーを確認する事もままならず、どこをどう飛んでいるのかすら分からない。その間、トンネルの内壁や。岩や柱にぶつからないのが奇跡のようだった。
必死で操縦桿を握りしめ、フウマは悪化した機体の姿勢を修復しようと試みる。
そして何とかある程度修復し、前の様子が分かるようになると…………正面に巨大な大岩が道を塞いでいるのが見えた。
避けようにも、それが可能な程、姿勢は直りきってはいない。
――そんなっ! やられる――
確実に迫る危機を前に、思わず諦めかけた時だった。
何かに機体が押し上げられる感じを受け、大岩に衝突する前に、上に避ける事が出来た。
機体の姿勢も、いつの間にか元通りとなっている。
〈無事に済んで良かったですね。フウマ君〉
ふと聞きなれた声が、通信から流れて来る。
通信映像に映っているのは、凛とした銀髪の青年、そして下の映像には自分の機体が、三日月のように輝く機体の上に乗っているのが映っていた。
フウマを助けたのは、シロノと、その機体、ホワイトムーンであった。
シロノがホワイトムーンを駆り、トンネルを飛ぶ中、偶然にも制御を失ったテイルウィンドを発見したのだ。
ディスプレイ上で仏頂面を浮かべているフウマに対して、シロノは微笑む。
〈誰が礼なんか! ……余計な事を〉
「しかし、私のホワイトムーンで押し上げなければ、今頃、貴方の大切な機体は粉々でしたよ」
こう言われて、フウマは悔しそうに下を向いた。
〈分かっているよ、感謝もしているさ。けど…………レースの最中に情けをかけられるなんて。これまで何度もシロノと闘って…………一度も借りなんて作った事はないのに〉
そんな彼に対して、シロノは真面目に言う。
「勘違いしないでくださいよ。私のライバルとして、あんな事で脱落してもらいたくなかった、それだけの事ですよ」
いきなりの言葉に驚いたフウマを見ると、顔に笑みを戻して、シロノは続ける。
「そんな風に思うのなら…………せいぜい全力を尽くして、私に勝ってみせる事ですね」
フウマは、そう言われてはっとした。
「ふふっ、それとも自信がありませんか?」
彼は少し、恥ずかしそうにフッと笑みを浮かべた後、あの挑戦的な態度に戻り、シロノに言った。
〈――上等じゃないか! 後で吼え面かくなよ!〉
この様子を見て、シロノは少し安心する。
「その調子です。ライバルが意気消沈していては、つまらないですからね」
ディスプレイに目を移すと、闇の中に淡い光が差し、次第に大きくなって行く。ようやく、出口が見えて来た訳だ。
ホワイトムーン、テイルウィンドは光に向って飛んで行く。
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