テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
9 / 204
第一章 追い風と白い月

意外なる大逆転

しおりを挟む
 フウマのテイルウィンドと、シロノのホワイトムーン。
 二機は、ほぼ同時にトンネルを抜けた。
 無数の星々が、辺りを照らす。
 ようやくアシュクレイ星の上空へと、シロノ達は戻って来たのだ。
 トンネルの先は、平坦な台地地帯だった。切り立った山脈こそないが、代わりに空中には、大量の小惑星が浮遊している。
 そして――正面ディスプレイには、それらの小惑星の他に、強い光点が一つ見えた。
 光点の光の強さは強弱を繰り返し、何らかのエネルギーの噴射のように見える。
 トンネルを抜け、正常に機能するようになったレーダーには、その正体がはっきりと表示されていた。


 
 リッキー・マーティスが乗るシュトラーダは、テイルウィンドの後に続いて同じ入口から、巨大山脈のトンネルへと入った。
 最初はテイルウィンドを追っていたが途中で見失い、レーダーも殆んど使い物にならない中でコースも分からずに、岩に衝突しないように必死で、ただ闇雲に飛んでいた。
 しかし幸運にもシュトラーダは、他の二機がトンネル内で遠回りをしている間に、偶然にも一番の近道を抜けて、先にトンネルを抜ける事が出来た。
 台地地帯を飛ぶシュトラーダのコックピットで、リッキーはディスプレイに映る、今頃トンネルを抜けて来たホワイトムーンとテイルウィンドを遥か後方に確認する
 ――今回はどうやら…………俺に運が味方したようだな――
 リッキーは満足そうな表情を浮かべる。だが、メーターで表示される船内のエネルギー残量を見ると、その表情は曇った。



 エネルギーの残りは、もはやあと僅か。これまでに多く高加速を繰り返し、障害物の回避や予期せぬ回り道に多くの浪費をしていた事を考えると、むしろここまでエネルギー切れにならなかったのも幸運なのかもしれない。勿論、リッキーがエネルギー量の計算と調整を、そんな中で何とか上手く行っていたからでもある。
 それに気を取られていると、シュトラーダの前方に大きな小惑星が迫って来た。
 リッキーは急いで、船を旋回させた。
 レーダーによればこの台地地帯の先は、半球状に砕けた星の地表の終着点となる。
 そこから宇宙空間を飛行して、ゴール地点となる宇宙ステーションに向う訳だが、エネルギー量を見積もると…………ゴールまで辿り着くには、明らかに量が不足している。
 ――くそっ! ようやくまたトップになれたって言うのに、この有様かよ! せっかくここまで来たのにか! ――
 この危機をどうするか、リッキーは一生懸命、頭を働かせる。



 解決手段を考えながら迫り来る小惑星を避ける中、リッキーは一つの方法を思いつく。
 正面には再び、小惑星が接近する。
 ――ふっ、簡単な事じゃないか。つまり…………こうすればいい! ――
 リッキーはコントロールパネルを操作し、シュトラーダの上下に二対、左右に一対、計六つあるブースターの内、右下にある一つを分離させた。
 分離による反作用により、シュトラーダは分離したブースターの位置とは逆の、左上の方向に移動し、正面からの小惑星を避けた。
 本体から切り離されたブースターは、その逆の方向へと飛んで往き、小惑星の一つに衝突して爆発も無く、ただブースターを構成するパーツが四方に砕け飛び散った。
 それは分離する前にエネルギーを全て、他のブースターに移し変えて空になっていたからだ。
 これによりエネルギーを使う事なく方向転換が出来、かつ分離した分だけ重量が軽くなり、その分移動に使用するエネルギーの消費を抑えられる。
 ブースターはまだ五つ残っている、上手く行けばゴールまで持つはずだ。
 リッキーは、そう考えた。
しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

日本の運命を変えた天才少年-日本が世界一の帝国になる日-

ましゅまろ
歴史・時代
――もしも、日本の運命を変える“少年”が現れたなら。 1941年、戦争の影が世界を覆うなか、日本に突如として現れた一人の少年――蒼月レイ。 わずか13歳の彼は、天才的な頭脳で、戦争そのものを再設計し、歴史を変え、英米独ソをも巻き込みながら、日本を敗戦の未来から救い出す。 だがその歩みは、同時に多くの敵を生み、命を狙われることも――。 これは、一人の少年の手で、世界一の帝国へと昇りつめた日本の物語。 希望と混乱の20世紀を超え、未来に語り継がれる“蒼き伝説”が、いま始まる。 ※アルファポリス限定投稿

老聖女の政略結婚

那珂田かな
ファンタジー
エルダリス前国王の長女として生まれ、半世紀ものあいだ「聖女」として太陽神ソレイユに仕えてきたセラ。 六十歳となり、ついに若き姪へと聖女の座を譲り、静かな余生を送るはずだった。 しかし式典後、甥である皇太子から持ち込まれたのは――二十歳の隣国王との政略結婚の話。 相手は内乱終結直後のカルディア王、エドモンド。王家の威信回復と政権安定のため、彼には強力な後ろ盾が必要だという。 子も産めない年齢の自分がなぜ王妃に? 迷いと不安、そして少しの笑いを胸に、セラは決断する。 穏やかな余生か、嵐の老後か―― 四十歳差の政略婚から始まる、波乱の日々が幕を開ける。

40歳のおじさん 旅行に行ったら異世界でした どうやら私はスキル習得が早いようです

カムイイムカ(神威異夢華)
ファンタジー
部長に傷つけられ続けた私 とうとうキレてしまいました なんで旅行ということで大型連休を取ったのですが 飛行機に乗って寝て起きたら異世界でした…… スキルが簡単に得られるようなので頑張っていきます

中身は80歳のおばあちゃんですが、異世界でイケオジ伯爵に溺愛されています

浅水シマ
ファンタジー
【完結しました】 ーー人生まさかの二週目。しかもお相手は年下イケオジ伯爵!? 激動の時代を生き、八十歳でその生涯を終えた早川百合子。 目を覚ますと、そこは異世界。しかも、彼女は公爵家令嬢“エマ”として新たな人生を歩むことに。 もう恋愛なんて……と思っていた矢先、彼女の前に現れたのは、渋くて穏やかなイケオジ伯爵・セイルだった。 セイルはエマに心から優しく、どこまでも真摯。 戸惑いながらも、エマは少しずつ彼に惹かれていく。 けれど、中身は人生80年分の知識と経験を持つ元おばあちゃん。 「乙女のときめき」にはとっくに卒業したはずなのに――どうしてこの人といると、胸がこんなに苦しいの? これは、中身おばあちゃん×イケオジ伯爵の、 ちょっと不思議で切ない、恋と家族の物語。 ※小説家になろうにも掲載中です。

処理中です...