18 / 204
第二章 ティーブレイク・タイム
日常(中)
しおりを挟むフウマ達が住む惑星エアケルトゥングは、文明の進んだ星系社会に較べれば、片田舎の星である。
この星はかつて、大昔の惑星開発によって、草木や海に空気などと言った自然環境が人為的な手により整えられた星だ。それにより、本来有害な大気に荒地のみで生命の欠片の無かった星が、自然豊かな美しい星へと生まれ変わった訳であるが、この星本来の環境の名残も、根強く残っていた。
その名残とは、惑星全土に多く存在する渓谷と、その間を通る、強い気流の流れである。気流は渓谷の間を一定間隔で流れ続け、一日で午前と午後が入れ変わる正午と深夜の二回、その向きは逆転する特徴を持っている。
人々の多くは渓谷より高い高地に住居を築き、そこで暮らしている。そして渓谷に風力発電機を設置して電気をまかない、気流の流れを利用した省エネルギーの交通手段を発展させるなど、その環境を有効活用していた。
また土地そのものにおいても、多くが肥沃な土地で地下水源が豊かであることから、農業や畜産などによって、十分な自給自足を行っている。
そして今、二人は空中帆船の発着場へと、急いで町中を走っている所だった。
この町は巨大な渓谷の脇に存在する、小高い丘に建てられている小さな町だ。
丘の斜面に沿って町は建てられ、周囲には多くの家畜が放し飼いにされている、牧草地が広がっていた。
その風景には目立つ機械類は殆んど見られず、さながら宇宙進出以前の人類文明を思わせるような、ノスタルジックな雰囲気だ
空中帆船の発着場は、町の中央通りの坂道を下った先にある。
発着場と言っても渓谷にせり出た土台と、発着場のホームと思われる質素な建物があるのみだ。
そこに接岸されている空中帆船の姿は、船体は単純な細長い円柱状であり、その前後には、半透明の球体が取り付けられている。
「さてと……出発時刻はもうすぐだ。けど、もう乗ってくる人間は、さすがにいないだろう」
発着場入口前で、係員は辺りを見回す。そんな時……
「待った待った! 後二人っ、これから乗ります!」
見ると若い少年少女の学生二人が、駆け足でこちらに向かっていた。
係員は、気前よく挨拶する。
「おう! ギリギリ間に合ったな。だがもうすぐ出発するぞ、早く乗った方がいい」
二人は係員に軽く礼を言うと、側面の搭乗口から、空中帆船へと乗り込む。
その後すぐに搭乗口が閉まり、空中帆船は発着場から離れる。
やがて十分に距離を取ると、進行方向である前部の球体が薄く膜状に広がり、傘のような帆を形成した。
係員が見送る中、帆に風を受けて、空中帆船は発進した。
さながら横に倒した大きな傘に見える空中帆船は、反重力装置によって宙に浮き、風力により渓谷の中を進んでいる。
切り立った渓谷のはるか下に小川が流れ、岸壁の両端には発電用の風車が、彼方にまで並んで設置されていた。
この星では風力発電に必要な強風には不自由せず、発電された電気の輸出は、星の数少ない重要産業だ。
帆船内部の窓際の座席に、フウマ達二人は座っていた。
「……いつもごめんね、お父さんが変な事を言って。良いお父さんだけど…………悪いくせなの」
やや困った顔で、ミオはフウマに言った。
「べつに、気にしないでいいさ。もう慣れたよ」
そう言うとフウマは、照れ笑いを見せた。
「でもまぁ、そう言われても当たり前さ。朝起こしてくれたり、学校の勉強の手伝いに、機体の修理だとか、色々とミオに助けられっぱなしだからね。ちょっと自分でも……恥ずかしいかも」
ミオはこれを聞くと、少し何かを考えた後、彼に尋ねた。
「ねぇ? フウマは実際、お父さんのあの話…………どう思っているの?」
「ん?」
藪から棒に聞かれた質問に、フウマは彼女に尋ね返す。
するとミオは顔を赤らめて、周囲に聞こえないように小声で呟いた。
「ほら……フウマが私を……その……」
「何だ、それの事! 僕が大人になったらミオを嫁にもらってくれないかって、そう言う話だったね」
この声は少し大きすぎたようで、辺りに座っていた何人かが、二人に振り向く。
「フウマっ! 声が大きいってば!」
「あっ、ごめん。つい……」
恥ずかしそうな表情の彼女に、フウマは謝った。
ミオの父親であるミハエルは、彼女の幼なじみで仲の良かったフウマに、いつの頃からか、時々そんな話を持ち出していた。この話に対して、フウマはいつも、曖昧に誤魔化していた。
「それで、フウマはどう思うの?」
再び訊いた彼女の問いに、窓から外を眺めながら答える。
「……はっきり言って、僕は分からないさ。きっとミオの父さんは、娘の将来を気にかけているから、その話を僕に言うのだろうしね。特に小さい頃から父親一人で育てて来たんだ、ミオの事を思う気持ちだって、深いはずだし……。だけど、まだ僕達は大人じゃないから…………正直、難しいよ」
フウマはここまで話すと、ちらりとミオを見る。
彼女は少し、残念そうだった。
「そっか……ちょっと残念だな。でも、私はね…………」
そしてミオが、思い切って何かを言おうとした。だがそれは、二人の所にやって来た数人の男女によって妨げられた。
彼らは、同じ学校のクラスメートだ。
「やぁ、フウマにミオ! ここにいたのかよ、探したんだぜ」
「そうそう。二人きりの世界に浸るのもいいけど、私達も忘れないでよ?」
結局、クラスメートがやって来たことで、ミオの伝えたかった事は聞けずじまい。
一体何が言いたかったのか? フウマは少し気になったが、仕方がないと諦めた。
そして帆船が目的地に着くまでの間、フウマ達は仲の良いクラスメートと、互いの趣味に流行の音楽やテレビなどと言った他愛の無い話を話しながら、ゆっくりと時間を過ごした。
0
あなたにおすすめの小説
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。
生きるために走る者は、
傷を負いながらも、歩みを止めない。
戦国という時代の只中で、
彼らは何を失い、
走り続けたのか。
滝川一益と、その郎党。
これは、勝者の物語ではない。
生き延びた者たちの記録である。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)
MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。
屈辱と愛情
守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
【㊗️受賞!】神のミスで転生したけど、幼児化しちゃった!〜もふもふと一緒に、異世界ライフを楽しもう!〜
一ノ蔵(いちのくら)
ファンタジー
※第18回ファンタジー小説大賞にて、奨励賞を受賞しました!投票して頂いた皆様には、感謝申し上げますm(_ _)m
✩物語は、ゆっくり進みます。冒険より、日常に重きありの異世界ライフです。
【あらすじ】
神のミスにより、異世界転生が決まったミオ。調子に乗って、スキルを欲張り過ぎた結果、幼児化してしまった!
そんなハプニングがありつつも、ミオは、大好きな異世界で送る第二の人生に、希望いっぱい!
事故のお詫びに遣わされた、守護獣神のジョウとともに、ミオは異世界ライフを楽しみます!
仕事繁忙期の為、2月中旬まで更新を週一に致します。
カクヨム(吉野 ひな)様にも投稿しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる