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第二章 ティーブレイク・タイム
日常(上)
しおりを挟むフウマは、ベッドの中でぐっすりと眠っていた。
「……フウマー」
ふと誰かの声がしたと、まどろんでいる意識の中でフウマは思った。
けど、まだ眠いし起きたくない彼は、それを無視して毛布の中に潜り込んだ。
「ねぇ起きてよ、フウマってばー」
また声がした。しかしフウマは、無視を続ける。
「はぁ、仕方ないな。ちょっと荒っぽいけど……」
溜息とともにそう聞こえた瞬間、いきなり天地が逆転するように感じ、ベッドから転げ落ちた。
身体に少し痛みを覚え、フウマがうっすらと目を開ける。
すると目の前に制服姿のミオが、引き剥がした毛布を持ち立っていた。
作業服の時とは違い、ひらひらとしたセーラー服に、やや巻き毛のショートカット。ボーイッシュな雰囲気には変わりはないが、年頃の女の子としての魅力も感じられた。
一方、寝間着のフウマは、頭をさすりながら起き上がる。
「…………起こすなら、もう少し優しく起こしてくれないかな」
小さく欠伸を一つして、彼はミオに抗議する。
「仕方ないでしょ? 呼んでも起きなかったんだから。それよりフウマ、早く準備して。学校に遅れるよ」
ミオはそう言って、朝景色の窓を指さした。
「まずいまずい! 遅刻するっ!」
急いで制服に身を包み、慌てながらフウマは、二階から降りて来る。
「あら、おはようフウマ。ようやく起きたの?」
そう言ったフウマの母親は、洗濯物を干している最中であった。
中年ではあるが、容姿はその年を感じさせないくらいに整っていた。そして、フウマの性格は母親譲りらしく、その様子は快活そのものだった。
「おはよう、母さん。朝食は?」
「朝食のサンドウィッチなら、そこに置いているわよ。でも、出来るだけ急いでね」
今は二人しかいないが、家族は他に、父親と一人の弟がいる。
しかし現在、父親は恒星間輸送船の船長として働き、家に戻るのは少なく、フウマよりも頭脳が優れている弟は、惑星エクスポリスにある名門学校、銀河第五学園へと入学し、そこの寮で暮らしていた。
それにより家には基本、フウマと母親の二人しかいない。
だが家族ではないにしろ、もう一人、家によく来る人物がいた。
「ミオちゃん、いつもフウマの面倒を見てくれてありがとう。本当に助かるわ」
先に下へと降りていたミオに、母親はそう伝える。
「フウマとは仲の良い友達だから、ぜんぜん大丈夫。それに…………こうして世話を焼くのは、嫌いじゃないですし」
サンドイッチを口に頬張っているフウマを横目に見ながら、ミオはくすっと笑う。
そして、ようやくフウマが朝食を食べ終わると同時に、すぐさま彼の手を引いて、玄関へと駆け出す。
「そろそろ学校行きの空中帆船が出る頃よ! さぁ急いで、乗り遅れたら大変だから」
「んっ、むぐっ!」
いきなりの事に驚き、思わずフウマは口に残っていたサンドイッチを、喉に詰まらせた。
「それではおばさま、行ってきます」
「行ってらっしゃいミオちゃん、それにフウマもね」
何とかサンドイッチを飲み込んだフウマと、そしてミオは、見送る母親に手を振り家を出た。
フウマとミオが家を出るとすぐに、隣に住む壮年の男性に挨拶をされた。中肉中背で体格の良い、とても陽気そうな男である。
「やぁおはよう、フウマ君。どうやらまた、ウチの娘の世話になっているようじゃないか」
男性はそう言い、よく響く声で陽気に笑う。
二人は立ち止まり、フウマは男に挨拶をかえす。
「ミハエルさん、おはようございます。まぁ…………いつものように、恥ずかしながらご覧の通り」
ミオに手を引かれたままのフウマは、少し苦笑いを浮かべる。
この男性、ミハエル・ロッシはミオの父親であり、物心つく前から母親のいない彼女にとっては、唯一の家族だ。
フウマとも昔からの付き合いであり、娘と同じくメカニックである彼に、度々テイルウィンドの点検をしてもらっていた。
「なかなか、良く出来た娘だろう。ところでどうだい? もう十八才になったんだ、あの話も、真剣に考えてくれたか?」
「ああ、あの話ね。…………ははは」
ミハエルの言葉を聞くと、フウマは何とか空笑いで誤魔化そうとする。
「ちょっとお父さん! 私の前でそんな話をしないでよ!」
一方、ミオは恥ずかしさのあまり、顔を真っ赤にして怒る。
「おっと悪い悪い、つい調子に乗ってしまった。しかしな、どうも二人の様子を見るとつい…………。ふふっ、勘弁してくれ」
あまり悪びれた様子を見せず、ミハエルは頭を掻いて含み笑いをした。
「もう、お父さんったら」
ミオは少し、膨れっ面をする。
「じゃあ、学校に遅れるからそろそろ行くね。じゃあね、父さん」
「おう!ミオもフウマも、気をつけてな」
こうして二人はミハエルと別れ、空中帆船の発着場へと急ぐ。
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