テイルウィンド

双子烏丸

文字の大きさ
152 / 204
第十一章 束の間の安寧と、そして――

終わった後の再会

しおりを挟む
「ごめん、少し用事があって遅れちゃったよ。……あれ、ミオ?」
「えへへ、ちょっと驚かせちゃった、かな」
 場所は数ある展望フロアの一つ、フウマがミオと再会したのは、その場所だった。
 彼は小さい紙袋を手に、ミオの前へと表れた。
 そして今、彼女を目の前にフウマは、何やら驚いた様子であった。
 理由は……


「どう? この服、似合うかな?」
 いつも制服以外は、作業着やショートパンツにジャケットなど、男の子のような恰好ばかりのミオ。
 だが、今彼女が身に着けている服は――下はヒラヒラとしたスカートに、上は柔らかい生地の薄いブラウス、頭にはカチューシャまで身に着けていた。
 ミオ本人も、あまりこうした服を着た事なかったのか、慣れていない様子でどぎまぎしている。
 そんな彼女に、フウマは――
「当然、その服だってとっても似合っていて、綺麗だよ。
 それに普段だって……今も、どっちのミオも大好きだし、可愛いに決まってるさ」


 嘘のない、真っすぐとしたフウマの言葉。
「……むぅ、フウマってば、恥ずかしい事を、はっきり言いすぎるんだから」
「だって本当の事なんだから、仕方ないさ。もしかして、嫌だった、かな?」
 ミオは首を、ゆっくりと横に振る。
「でも全然、嫌なわけじゃないよ。前にも言ったかもだけど……そう言ってくれて、嬉しいって思いは、ちゃんとあるんだから」
 そう言った彼女の表情も、嬉しそうにほころんでいた。


「それは良かった。……あっ、そうそう」
 フウマは先ほどから片手に持っていた紙袋を、ミオへと渡した。
「えっと、何かしら?」
 受け取った彼女は、何やら不思議そうだ。
「途中の売店で良い店があったから、ちょっと買い物して来たんだ。ミオとその服に、似合うと良いな」
 どうやら、フウマは紙袋を開けて欲しいらしく、促されるまに袋を開く。

 ――中に入っていたのは、金色の花、マリーゴールドを模した髪飾りだった。
 

 フウマは頬を掻いて答えた。
「実は遅れたのは、これを選んでいたからなんだ。普段こうした物はあんまり買ったことがなくて、ちょっぴり不安だけど――それでも似合うと自信を持って、選んだつもりさ」
 そんな彼の様子を、にこっと微笑んで見つめるミオ。そして彼女は、花の髪飾りを、自身の前髪へとつけた。
 丁度、すぐ近くには宇宙空間を見渡せる特殊ガラスの大窓がある。ミオは暗いガラスに映る、自分の姿を横目に見る。
 光の反射で、付けた髪飾りが、きらりと光る。
「……とっても綺麗な、髪飾りね」
 
 そして、再びフウマに振り向く。
「ねっ? すごく似合っていて、気に入っちゃった。フウマから貰った素敵なプレゼント――きっと大切にするから」
 プレゼントに、とても喜んでいるミオ、フウマはそれに安堵した。
「――良かった、ミオが喜んでくれて」
「プレゼント、ありがとうね。……さてと、それじゃ一緒に、ご飯でも食べに行こう。だってレースの間、何も食べてなかったでしょ?
 テイルウィンドのメンテは、その後にしよう?」
 彼女の提案に、フウマは頷く。
「いいね! ずっと飛んでばかりだったから、お腹ペコペコだったんだ!」
 まだレースは、完全に終わったわけではない。
 それでもこのひと時は、レースの緊張から全く開放されていた、フウマであった。



 ――――
 リッキー、そしてフィナもその頃、中間地点へとゴールを果たしていた。
 ――ちょっと厳しかったが、どうにか制限時間内には辿り着いたぜ。だが……あの嬢ちゃん、やるもんだな――
 彼のワールウィンドより一足先にゴールしたのは、フィナのアトリ。ディスプレイにはその黄金色の機体の、後ろ姿が見て取れる。
 ――途中で姉ちゃんを失くしたのに、敵ながら凄いもんだよ、……だが、後半戦では負けないがな――
 結果、フィナは十一位、リッキーは十二位と、二百ものレーサーが参戦する中では悪くはない順位だ。
 しかし、優勝を目指すなら、トップのジンジャーブレッドとの埋めるべき差は、かなり大きい物だった。
 
 

 ――――
 スカイガーデン・ポリスの格納区画、ワールウィンドもその一区画へと停止した。
 機体から降りるリッキー、彼は下に降りると深く深呼吸した。
「……ふぅ、ようやく狭いコックピットから解放だぜ」
 長く座っていたせいで体も凝ったのか、あちこりを動かして軽い体操をする。
「全く、これも年ってやつか。あちこち身体が痛むぜ」
 するとそこに、同じく機体から下りて来たフィナが現れた。
「お疲れ様です、リッキーさん。良い勝負でしたね」
 リッキーは彼女に、ニッと笑う。
「ああ! だが……まさかあの後にエメラルドで、俺を追い抜くとはな! 正直悔しいが、楽しい試合だったぜ」
「私のアトリは、機動力が高いですから、複雑な地形のエメラルドでは有利なのです。
 それに……ティナの分まで頑張らないと」


 惑星ルビー周囲のアステロイドベルト、しばらく前にフィナと双子の姉であるティナ、二人はリッキーとフウマと激しい戦いを繰り広げた。
 そして、その戦いでティナとその機体ヒバリは、リッキーのワールウィンドと追突し大破、無念のリタイヤとなっていた。
「ティナについては、俺も残念だったぜ。彼女も立派なレーサー、だったからな」
「……リッキーさんの機体にも、あんなに傷をつけてしまって、申し訳ありません」
 見ると、ワールウィンドの本体下部から左ブースターにかけて、大きく裂け目のような傷があった。
 これはヒバリと衝突した際に、生じたものである。
「気にするなよ! 確かに外見的には酷いものだが、見た目よりかは深刻なダメージじゃないさ。
 それよりも、姉ちゃんの方は大丈夫だったのか?」
 フィナは頷く。
「ええ。今は、連絡船に乗って、こちらに向かっている途中みたいです。さっき通信で様子を見た所では、全然、大丈夫そうな感じで――安心しました」
「良かったじゃないか、無事でさ。……何よりだぜ」
 これにはリッキーも嬉しそうだ。すると――


「ほう? 君たち二人も間に合ったみたいかな。その健闘、賞賛するよ」
 そんな声とともに、物陰から現れた人物……それは、ジョン・コバルトの姿だった。
「お前は、ジョンか! どうしてここに?」
「そりゃ僕だって、レーサだからね。別にいたって不思議じゃないさ」
 ジョンは軽くはにかみ、そんな事を言う。
 見るとフィナの機体、アトリの隣には彼の機体であるスワローが停まっている。
 おそらく、フィナよりも一足先にゴールでもしたのだろう。
「ジョンさんも、お疲れ様。こうしていると言う事は……私たちより、早くゴールしたみたいですね」
「ははは、まあね。やっぱりみんな、凄いレーサーばかりで苦労したよ。――さすが、本物は違う」
「はん! そう言うくせに、俺たちよりも上位じゃないかよ」
 リッキーは悔しそうな様子を、ちらと見せる。


「ふふっ、そう言ってくれると嬉しいね。
 ……そうだ! 丁度この先には、良い感じのカフェがあるんだ。さっき見てきたんだけど、メニューのサンドイッチが美味しそうでさ。良かったら一緒にどう? 
 一緒にいるのも何かの縁さ、僕が奢るよ」
 ジョンの提案に、リッキーとフィナは顔を見合わせる。
「それは良いかもな。何せここでの休憩は長いし、後半戦まで暇だからな。
 んじゃ、俺はその好意に甘えさせてもらぜ!」
 そう言って、リッキーは提案を受け入れる。また、フィナも――
「あの……ジョンさん」
「ん? どうしたんだい、フィナちゃん?」
「良かったら、しばらくしたらお姉ちゃんが戻ってくるはずだから、待っていて欲しいの。私……お姉ちゃんと一緒がいいから」
 ジョンはニッコリと笑う。
「もちろん! それまで待っても構わないさ!」
「ああ、俺も賑やかな方が楽しいぜ。それに、ティナともまた会いたいしな。こっちも構わないぜ」


 同じく賛同するリッキー。
 フィナはこれに、安心した。
「ありがとうございます、ジョンさん。それにリッキーさんも」
「ふっ、礼には及ばないさ。…………あんまり騒ぎには、巻き込みたくないしさ」
 最後の呟くような一言は、二人には聞こえなかった。
「……? ジョンさん?」
「あ、いや、何でもないさ。……さてと、ここにいるのもあれだし、何処か適当な場所で待っていようか。
 それとも、市街地の散策だって悪くないかも。ここからだと、エレベーターを使えば近いみたいさし」
 何かと怪しい様子のジョン。
 しかし――それでも彼が、心からの好青年である事には変わりない。


しおりを挟む
感想 2

あなたにおすすめの小説

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
勝利のために走るのではない。 生きるために走る者は、 傷を負いながらも、歩みを止めない。 戦国という時代の只中で、 彼らは何を失い、 走り続けたのか。 滝川一益と、その郎党。 これは、勝者の物語ではない。 生き延びた者たちの記録である。

熟女愛好家ユウスケの青春(熟女漁り)

MisakiNonagase
恋愛
高校まで勉強一筋で大学デビューをしたユウスケは家庭教師の教え子の母親と不倫交際するが、彼にとって彼女とが初の男女交際。そこでユウスケは自分が熟女好きだと自覚する。それからユウスケは戦略と実戦を重ねて、清潔感と聞き上手を武器にたくさんの熟女と付き合うことになるストーリーです。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――

のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」 高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。 そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。 でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。 昼間は生徒会長、夜は…ご主人様? しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。 「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」 手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。 なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。 怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。 だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって―― 「…ほんとは、ずっと前から、私…」 ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。 恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。

屈辱と愛情

守 秀斗
恋愛
最近、夫の態度がおかしいと思っている妻の名和志穂。25才。仕事で疲れているのかとそっとしておいたのだが、一か月もベッドで抱いてくれない。思い切って、夫に聞いてみると意外な事を言われてしまうのだが……。

父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

四季
恋愛
父親が再婚したことで地獄の日々が始まってしまいましたが……ある日その状況は一変しました。

旧校舎の地下室

守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

処理中です...